56限目_その後のあたち達は、その1些細なことで丸井と喧嘩をした。 その内容というのも些細というくらいなので、大した話ではないのであるが、そういうもの程自分達が馬鹿らしくなるくらい大事になったりするものだ。 現在3日はロクに口を聞いていない丸井が、今日、ついに学校を休んだ。その原因自体は知っているので、まさかあたしと顔を合わせたく無いから、なんていう想像はしないにしても、完全に謝るタイミングを逃したことに、少なからず項垂れるあたしがいる。仁王と二人で空席の丸井の席を眺めていると、隣の彼はあーあ、とわざとらしくあたしを横目で伺った。 「が早めに謝らんから」 「っるさい、わ、分かってるっつうの」 そもそもの始まりは3日前の調理実習の時まで遡る。ご存知の通り普段は丸井は別段料理が得意なわけでも無いあたしと仁王と同じ班になるのだけれど、今回ばかりはそんな常に丸井に頼りっぱなしのあたし達を見兼ねてか、先生があたし達を別々のグループに振り分けてしまったのである。まあ別に壊滅的に料理ができないわけでもないので、仕方ないなあくらいにしか思わなかったものの、いざ授業が始まってしまうとあたしはそんな風に構えていられなくなってしまったのである。 どういうことかというと、やはり丸井は料理が得意というだけあって、誰よりも早く、さくさくと課題のメニューを作り上げたわけで、そんな彼は同じ班の女子やら男子やらの手伝いを始めたのだ。普段ならばあたしや仁王につきっきりの丸井がニッコニコしながら他の奴に構っている姿を見たら、なんと言うか、こう、つまり嫉妬してしまったわけです。 そんなこんなであたしは調理に集中なんぞできるわけもなく、野菜を焦がすわ、味付けは間違うわと散々だったわけで。 そしてあたしが地雷を踏んだのがその授業の直後。 「丸井君て本当に料理得意で凄いよねー」 「男の子が料理できるってポイント高いし」 「さんもそう思うでしょ?」 「いや全然」 そんな会話に花を咲かせる女子達にたまたま混ざっていたあたしが悪かったのか、いやそれともせめて当たり障りのない相槌も打てないことが悪かったのか、絶対に後者だろうけど、あたしは嫉妬心とかそのせいでうまくいかなかった調理実習とかに対しての苛立ちに任せて首を横に振ってしまった。 「料理ができる男子なんて女々しくてあたしは嫌いだけど」 皆はまたまたーなんて丸井に対する照れ隠しとかそういう冗談だと認識したらしく、あたしももちろん本心ではなかったので、それで良かったのだが、よくないのはその後である。 「ふうん、はそう思ってたんだ」 いやだってまさか後ろで聞いてるなんて思わないじゃん。 振り返った先の丸井は、あたしが百点満点をあげたくなるようなメンチを切って、正直この時まさかあたしが丸井に恐怖心を抱く日が来るなんてとそんなことを大真面目に考えていた。 確かに仮にも好きな奴にそんなこと言われたら冗談でもきついはずだと気づいたもののそんなもん今更おせえからあたし、とまあこんな感じで、それでもすぐに謝れば良いものを、あんなことを言った手前、後に引けない気がして、うん、女々しくて嫌いなんて続けざまに言ってしまうあたしは相当いってる。 そうしてついに昨日、意を決して丸井に謝ろうと声をかけた瞬間、丸井が私の顔を見るなりぶっ倒れたのである。 「俺とツルは昨日見舞いに行ってきたけど」 「は!?なんで二人で先に行っちゃうんだよ!」 昨日までの出来事に頭を巡らせていたあたしを我に返らせたのは仁王のそんな非情な台詞だった。ていうかツルもついていったのか。彼はあたしと丸井が喧嘩したことを大喜びして、命知らずにも常に丸井君ざまあ丸井君ざまあと丸井の周りで小躍りしていたというのに。正直あたしよりあいつの方が罪は重いような気がするけど。 「じゃって昨日部活あったやろうが。俺らはなかったけど」 「だからってさ、せめて一言かけるとか、…今日も行くでしょ?」 「行かん」 「この野郎さてはお前わざとだな」 「俺が着いて行っても謝らんじゃろ」 ちくしょう。それなら、とあたしは今まさに笑顔でこちらにかけてくるツルに駆け寄った。こいつならあたしが頼めば何処へでも、 「ごめん、君。仁王君に買収されました」 「この野郎」 そうして彼のポケットからどこで撮ったのかあたしの隠し撮りっぽい写真がそれはもうずらずら出てきたわけで、こいつらいつの間にとあたしは仁王を睨みつける。が、流石仁王というべきか、すでにそこにはいなかった。 「…丸井が治って学校に来たら謝ろうかな」 「行ってあげなよ君」 「へ…?」 「ちょっとあれは丸井君可哀想だったよ」 「あんたには言われたく無いけどな」 「いや、そういうことじゃなくて、…まあ、そういうこともあるかもしれないけど」 「何」 「お見舞いに行ったら丸井君、すごく辛そうだったよ」 「そんなに熱酷かったのか、…風邪、とか?」 あたしの言葉に、ツルは曖昧に笑った。多分あれは違うと思うよ、と。 「多分、心因性発熱という奴だね」 「あたしにわかるように話して」 「ストレス性高体温症って言えば分かるかな。俗に言えば知恵熱ってやつだよ。まあ本当はそう呼ぶのは間違ってるんだけどね」 「は、まさかあいつ、あたしと喧嘩したのを悩んで熱出してんの、」 「そうだと思うよ。ああいうのは原因を取り除けば正しく一瞬で治るんだけどね」 「…」 「解熱剤も効かないし、ほっとくとあれは治らないよ」 行きなよ、大丈夫だから、とツルはあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。 そんなこと言われたら行くしか無いけど、本当にあいつ馬鹿なんじゃ無いの? 「あ、でももし丸井君に変なことされたらすぐに電話してね!僕、なんなら家の外でスタンバイしておくけど、」 「あ、結構です」 「ですよね」 (後編へ続く!) BACK | TOP | NEXT (140506_明るいスクールライフのススメ) 後半へつづく! |