50限目_納得いくまで終わらせない




合同学園祭とか、盗難事件とか、全国大会とか、そんなことがめまぐるしく駆け抜けて、とうとう夏休みが終わった。
あたし達が盗難事件の犯人だと信じる者はクラス自体にはいなかったらしいが、それでもあたし達を腫れ物のように扱う様子はなかなか抜けない。そんな空気が嫌で、あたし達三人は休み時間に教室にいることは無くなっていた。
そしてもう一つ。何故かツルがあたしの後をつけることがなくなった。それは単に、彼がいなくなったと言うことではなく、今までは影に隠れてあたしに着いてきた彼が、今ではあたしの隣に並んで堂々と歩くようになったと言うことだ。

あたしは部活の午後練で使う点数プレートを外の倉庫から運び入れるように部長から指示をされて、まだ少し暑さを残す太陽の下、ふらふらと倉庫まで足を運ぶ。案の定さも当然のように着いてきたツルを一瞥した。彼があたしを気にかけて、そばにいてくれているのだろうとは何となくわかっていた。


「ねえ、ずっと思ってたんだけど、やっぱりあたしのこと気にしてんのか」


彼は一瞬、きょとんと目を丸くしてあたしを見つめ返したが、すぐににやにやと変態くさい笑みを浮かべた。こいつはあたしに対してこういう顔以外できないのだろうか。


「そりゃあね。君のことは常に気になってるよ。今日の朝は何を食べたかなあとか、何時に起きたのかなあとかね」
「そうじゃなくてさ」


ちなみに今日の朝ごはんは白米とインスタントの味噌汁だ。気まぐれにそんなことを言うと、彼は喜んでメモをとっているので、これは真性なるストーカーだなあと他人事のように彼を見つめていた。あたしのどこがいいんだか。
ああ、話が逸れたと、あたしはもう一度「そうじゃなくて」と繰り返す。


「気になってるよ。好きな女の子の元気がないんだから」
「前も言ったかもしれないけどあんた趣味悪い」
「どうして?君は綺麗だし」
「それは知ってるよ」
「君のそういうところも好きだよ」
「…やめろ、むず痒い」


あたしの反応に、またまたあ、照れちゃってーとやはりにやけられたので、あたしはツルの頬を全力でつねり上げている。彼は幸せそうにしていたが、しばらくそのまま歩いていると、ふいに誰かの怒鳴り声のようなものが倉庫の裏から聞こえて、あたしとツルは顔を見合わせた。
なんだか似たようなことがあったなと、デジャヴを覚える。こんなところで喧嘩なんて、何が起こっているかは、なんとなく予想がついていた。
そうしてあたし達がこっそり倉庫の影から顔を出すと、そこにいたのは槙村と、あたし達のクラスの女の子達であった。槙村は地面にしゃがみこんで、真っ赤に腫らした頬を抑えて、相手を見上げている。


「虐めだね」
「だろうな」
「…どうする君」
「助ける」
「え」
「それ以外に何ができるんだよ」
「そうだけど、いやいやちょ、」


きっと彼は虐めている奴が知り合いだからまごついているのだろう。ここで出て行ったら、あたしが嫌われるのではと。しかしこのまま見ているわけにも行かないだろう。同じクラスの奴が虐めてるところもあんまり見ていていい気分はしないし。
ツルの制止も聞かずにあたしはずかずかと彼女達の前に出れば、それは一気に青ざめた顔に変わる。あたしが何か言う前に、彼女達は「これは違う」とか「さんのためだ」と、わけのわからないことを言い出した。


「盗難事件の犯人、後輩から、槙村じゃないかって言われて、それで」
「…はあ?」
「私達、さん達を信じてるんだよ!さんが犯人なわけないって!」
「ありがとう。でも槙村がやったって言う確証は?」
「この子がやったのを見た人がいるの」
「あたしもその理論で捩じ伏せられたよ。本当にやってないのに」


自分が見たわけでもないのに、よくもまあそこまで素直に信じられるのだろう。


「そんな曖昧な理由で槙村を犯人にしちゃ、彼女が可哀想だ」
「でもさん…!」
「仮に槙村が犯人だとしても、こんなやり方は間違ってるよ」
「…」
「でもあたしを信じてくれてありがとう。…分かったなら今回は見逃すからもう行って」


やんわりと追い払うようにそう言えば、彼女達はうつむいて何か言いたげな顔をしていたが、すぐにその場から走りさってしまった。ツルが呆れた様子で姿を現し、あたし座り込んだままの槙村へ手を差し出す。しかしそれは振り払われた。


「なんで助けたんですか」
「…は?」
「今更助けなんていらないのに…!」


彼女は震える声でそう怒鳴り、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったあたしはひるんでしまった。何か悪いことでもしてしまったのだろうか。ツルを振り返れば、彼は槙村をじっと見つめており、その視線は随分と冷たさを孕んでいた。
ああそう言えばこういうときは飴か高い高いが良いのだと以前仁王が言っていた。あの時は高い高いで失敗したが、しかし今回は運良く飴を持っている。さりげなくそれを彼女の前に差し出すと、槙村をそれを掴んで、かと思えばあたしの顔面に投げつけ返したのだった。いってええ!


「ちょ、飴って固いんだぞ。それを、」
「不良の癖にとんだ偽善者ですね!もうほっといてよ!」
「…いや、でもさ、」
「わたしは、っあなたみたいな頭の悪い人が大嫌い、っ」


槙村がそこまで言いかけた時、パシンと、乾いた音がした。ツルが槙村の頬を叩いていた。え、嘘。


「助けてもらってその口の聞き方はなんなのかな」
「…」
「助けてもらいたくないなら今にも泣きそうな顔をしないでくれないかな。目障りだよ。君は確かに頭が悪いし、それに加えお人好しだからね。君みたいな奴がいると助けてしまうんだよ」
「…っ偽善者に偽善者って言って何が悪いのよ!何も知らないくせに!」


ヒステリックに叫んだ彼女に、あたしはなんと声をかけたら良いのか分からない。前から言っているが、あたしはこういう気の利いた対応が求められる場面が大の苦手だ。ツルもツルで切れているし。困ったなあと頭をかいたあたしは、ツルを後ろに押しやって、彼女の頭に手を乗せた。「偽善者でもなんでもいいよ。あたしが助けたいから助けるだけ」
本心だ。見て見ぬ振りなど気分が悪い。
すると、くしゃりと顔を歪めた槙村はとうとう瞳から大粒の涙を零しはじめた。え、うそ、待ってどうしよう。「…ごめ、なさ…っ」「…?」


「…わ、わたし、なんです…」
「え?」
「…とう、なんじけんの犯人、わたじなんでず…っ!!」
「…どうして」
「だからわたしは、あなたに助けてもらうしかくなんて、ないのに!」
「ちょっと待って。誰かにそう言えって言われたんでしょ。誰?ぶっ飛ばして、」
「ちがう、ちがうの…!」


首を何度も横に振る槙村に、あたしは頭の中が真っ白になった。なんで。どうして彼女が。
それじゃあ、あたし達を犯人にしたて上げたのは?混乱する中で、代わるように、ツルが口を開いた。


「話して」
「…」
「分かったから話して、君達に謝って」






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(140321_久々に書いた気がする)
ゲーム作り頑張りすぎて疲れました。