47限目_不良だってね、楽じゃないんですよ夕飯の材料を買いに行かせた丸井と仁王がスーパーから帰って来た。昼間に彼らと夕飯を食べる約束をして、メニューに関しては丸井に一任していたので、何が食べられるか楽しみだ。 あたしはチャイムの音に、開けっ放しにしてるよーと間延びした声を上げると、それと同時に玄関の扉が勢い良く開かれる。あまりに派手な音がしたので、横になっていたあたしはソファから転がり落ちた。え、なになになに。「!」「お前さんそんな乱暴にしたら、…ブン太これドアノブ壊れたっぽい」ちょっとおおおお!?一体何事だ。 どすどすと肩を怒らせた丸井は、相変わらず床に転がっているあたしを見下ろすと「正座しろ正座!」とあたしを怒鳴りつけた。 「正座ぁ…?」 「しろ!」 「…に、仁王これどういう、」 「お前はすぐ仁王って言う!」 「いや仕方ねえだろこれ!」 あたしはしぶしぶそこに正座をすると、彼は買い物袋を横に置いてこちらを睨みつけた。袋にはカレーの材料が入っていたので「カレーだ!」と私は歓喜の声を上げる。「そうだ。お前らが前回カレーが良いとか騒いでたからな。超絶うまいカレーを食わせてや、じゃなくて!」 「なんだよ…」 「俺はの女子力のなさに猛烈に怒りを感じている所存です」 「…例えば?」 「お前洗濯物外に干しっぱなしだろ!」 「ああ、いけない」 どうやら買い物へ行った時にベランダが見えたのだろう。もう辺りは大分暗いし、洗濯を干すような時間ではなかった。失敗失敗。それにしても、丸井は他人の洗濯物まで気にしてくれるほどの世話焼きだったのか。たまにこうして彼の兄貴性分というか、妙な家庭的な部分が姿を表す時があるけれど、完全にその小言モードに入った丸井に、あたしはしょぼしょぼと口を尖らせる。 「たったそれだけで…。今から取り込むって…」 「俺はそういうことを怒ってんじゃねえ!」 「な、なんぞ…。これはどゆこと仁王、」 「いや、お前さん、下着とか表から丸見えのの気にせんで豪快に干しとるじゃろ」 「しかも、朝から晩まで干しっぱなしとか、家にいませんよって教えてるようなもんだろ!」 「ああ、」 「そして極めつけにこれだよ!」 彼はそう言って開けっ放しの玄関をびしりと指差した。「ドアノブ壊したってこと?」「それはごめんなさい!」律儀である。 「そうじゃなくて、もう暗いのに開けっ放しとか!」 「…丸井達がすぐに帰ってくると思って」 「チャイムの音だけで俺達って判断するし!」 「…まあ、それは、不注意でした」 今度から気をつけます、本当に。本当だよ。取ってつけたような答えをして、それにもしも不審者に入って来られても大丈夫だよと二人を安心させるように立ち上がった。何故ならあたしは一度に男十五人を相手にできるのだから。そう言ってもそんなのアテにならないと言わんばかりに不服そうな面をしている丸井。 「ほんじゃあ俺を倒してみろ」 「いやでも殴ったら痛いじゃん」 「…な、殴るのはナシの方向だよ!」 「…どんな方向」 「どっからでもかかって来、!」 丸井が構えを作ろうとした瞬間だった。あたしは素早く彼の足を払ってバランスを崩したところに腕を後ろにねじり上げる。それからそばにいた仁王も巻き込んで床に張り倒した。ずどんとこれまた派手な音が床に響く。…一階の人から苦情が来ないと良いのだが。仁王から「…なんで俺まで」なんてか細い声が聞こえてしばらくの静寂ののち、ようやく丸井が口を開いた。 「よし、夕飯にするか」 どうやらあたしの力量は認めてもらえたらしい。 Δ 「ほんで、作戦会議ってなんなん」 後ろの台所で、丸井が包丁で野菜を切る音を聞きながら、あたしと仁王はテーブルを挟んで向かい合うようにして座っていた。あたしは頬杖をついて、うーんと唸る。作戦会議と言っても、何をどうするなんてまったくあたしの頭の中にビジョンはなく、ただ、今後どうするのが最善なのか二人の意見を聞きたかったのだ。 「何で板東はあたし達を監視してると思う?」 「そりゃあれだろ。また盗難起こさねえように、だろ」 背を向けたまま答えた丸井に、仁王も頷く。確かにそれに異論はなかった。しかし何かが引っかかるのだ。目を伏せて、そもそもあたしが違和感を感じた本当の始めの記憶を探る。 「あたしさ、そもそも四月からなんか引っかかると思ってたんだよ。何であたし達が三人共同じクラスになって、しかも新任の奴のクラスになったのか」 「…まあ、確かに」 「去年はあたし達三人共クラスはバラバラだったんだ。それなのに」 俺達を更生させることを諦めたと見るのが妥当だろうと、仁王が言った。そう。あたしもそう考えたが、ならば何故監視を多賀谷にやらせないのだろう。あたし達を厄介者として放棄したならば、監視役だって多賀谷に押し付けそうなものである。 「盗難事件は親が騒ぎそうな事件じゃしのう。新任に任せとれんじゃろ」 「…」 「?」 「盗難事件って、初めはどこから始まったか知ってる?」 「あー、それ確かツルが一年の女子の教室に置いておいた財布が盗まれたのがスタートとか言ってた」 「…ならなんであたし達が疑われてんだ?」 「確かに、普通なら一年の中でまず犯人探しそうなもんじゃが」 でも真っ先にあたし達が疑われた。なんかそれっておかしくないだろうか。しかも、初めのうちは女子生徒の財布ばかりが狙われている。あとから男子生徒のものもばらばらと被害に入るようになり始めたが、そこも引っかかるのだ。 「僕が板東なら、君達を全力で排除するよ」ツルのその台詞も妙に気にかかっていた。 沈黙が続く中、ひと段落ついたのか、丸井がテーブルの方へやって来て隣に腰を下ろした。どうやらしばらく煮込むらしいので手が空くようだ。 「ねえ、これはあたしの思いつきなんだけどさ」 「ん?」 「でっち上げとか、あり得ないかな」 「…俺達を犯人にしたて上げるっちゅうことか?」 「そう」 どうしてもそんな気がしてならなかった。まああり得ない話ではないけど、と丸井が唸る。そう、あり得ない話ではないが、そうだと言い切れるわけではないのだ。根拠がとてつもなく薄い。板東があたし達を見張る理由に、あたし達にアリバイがない時間に盗難が起きればあたし達を犯人にしたてあげられるので、そこは辻褄が合うとしても、だ。 「わざわざ盗難事件を起こすのは変だよな」 「そこだよね。だったらまだ生徒に見せちゃいけない書類とかを見られたとか盗まれたとか騒いだ方がスマートだし」 やっぱり違うのかなあ。テーブルに額をぶつけてそう呟くと、頭に仁王の手が伸びて、わしゃわしゃと撫でられた。どちらにせよ、俺達が不利な状況にいることには変わりがないと。他に現状打開に繋がるような何かはないだろうかと、最近の出来事を思い返していると、ふと槙村のことを思い出した。そう言えば丸井、補習の日に槙村と話してたよな。仁王は話がわからないだろうから、簡単にそのことを説明してやると、丸井は肩をすくめた。 「…お前あれ見てたのか」 「パピコあげてるのもバッチリな」 「…悪かったって」 そんなことはどうでも良いけれど、彼女は一体どうしてあそこにいたのだろう。補習に呼ばれている感じでもなかったし。そもそも丸井がいたことも謎だったが。 「いや、俺も良くわかんねえの」 「と言うと?」 「コンビニから帰ってきてさ、階段上がってたら、泣いてる声が聞こえて。見に行ったら槙村だった」 「ふうん…」 「どうしたのか聞いても、ごめんなさいって謝るだけなんだよ。怖がられてると思ったからなるべく優しくしてたんだけど、余計に泣かれて。だからここはアイスしかなかったんだよ」 「言い訳はもう良いよ」 「…」 彼女は私達を初めこそ怯えた目で見ていたけれど、彼女の瞳に映るのはそれだけではないように思える。 なんだか全てが断片的で、決定打にかける情報ばかりだ。とにかく、当面の間は、監視されていることを意識に入れて行動する必要があるだろう。めんどくさいことになってきたぞと、あたしは後ろに倒れると、大きくため息をついた。 「不良って何気に疲れるなあ」 BACK | TOP | NEXT (140310_カレーライス) 話にはあんまり関係ありませんがこの話のNGシーンの下らん漫画をメモにのっけました。 |