29限目_不良が運営委員なんて漫画にありそうな展開されても不良は困っちゃうだけ



女の子がいっぱいだあ。うわあ。
第一印象はそんな感じだった。不幸にも合同学園祭の立海テニス部お抱えの運営委員に任命されてしまったあたしは、運営委員会が開かれるミーティングルームにいた。いつだったか赤也が言ったように、どうやら運営委員になりたがるのは女の子ばかりのようだ。もちろん男子も少なからずいるのだけれど。
一番後ろの席にひっそりと座り込んだあたしは、前で簡単に運営委員の仕事を説明している跡部を一瞥してから、周りをぐるりと見回した。同じ立海の制服を着た運営委員がいるところを見ると、こんなイベントに参加する愉快な頭の人間はうちのテニス部だけではないらしい。
まったく、妙な仕事を任されてしまった。自己嫌悪に陥りながら、あたしは渡されたプリントの横に落書きをし始め、気がつけば夢の世界に落ちていた。


「テメエは良い加減に起きろ!」
「あだっ」


頭に痛みが走るのと同時に、がくんと腕にかかっていた力が抜けて、頬杖をついていたあたしの顔面は机に落ちる。いったい。額をさすりながら顔を上げると、すっかり委員会は終わってるようで、あたしを射抜くような視線で睨みつける跡部だけがそこにはいた。なんだかデジャヴ。中学の時はよくこうして教師に怒られていたなあとこの痛みと一緒に思い出にしみじみ浸った。今では眠る前にサボるのでそんなことは殆どなくなったのだが。


、お前話は聞いていたのか」
いや、まったく
「だろうなあ」
「…スミマセン」


跡部は怒りも通り越して呆れた様子だった。しかしあたしだってやりたくてここにいるのではないから仕事に身が入らないのは仕方がないだろう。逆ギレするつもりはなかったが、そんな不満を零すと、彼は「知らねえよ」と随分あっさりとした答えを寄越す。


「どんな理由でここにいるのであれ、てめえは運営委員だ。任された仕事は責任を持って最後までやるべきだ」
「…まあ、そうだけども」


もっと力技とかでねじ伏せてくると思ったのだが、存外こいつは冷静で聡明な奴なのかもしれない。素直にあたしが頷いたのを見て、彼はフッと笑うとついて来いとあたしを促した。どうやら歩きながら今の会議の内容を簡単に話してくれるらしい。彼は運営委員長らしいから、自分の仕事は大丈夫なのかと試しに問うと、樺地にやらせていると言ったので、あたしはふうんと頷いた。誰だか知らないけど、ごめんな、樺地君。


「学園祭準備期間は一週間と少しの間だ。それはその紙に書いてある」


彼は運営委員が知っておかねばならない備品室や倉庫の場所を説明しながら、学園祭についての話を始める。思っていたより準備期間が少ないらしい。夏休み中に学園祭を行うようだから、学校のそれと重なることはないだろう。
そして今日あたしがしなくてはならないことは、模擬店で何を出すかを決めて委員会に提出すること。めんどくせえなあ。跡部に見えないようにこっそりため息を吐くと、丁度皆が集まっている場所にたどり着いた。初めだからか、部長達もそこにはいた。幸村が跡部に気づき、ああとこちらに笑いかける。


「幸村、こいつを運営委員にしたのは間違いだったな」
「フフ、そうかな。跡部苦労をかけるよ」


彼はあたしを前に押し出して、去り際に憎らしい笑みを向けた。「せいぜい頑張るんだな」なんて。
皆がいる手前、憎まれ口も叩けずに、押し黙っていると赤也が何したんすかと跡部の背中を見送りながら言った。


「別に何も」
は会議中に居眠りをしたのだろう」
「柳!」
「なに?、たるんどる!」
「あーはいはいすいませんすいません」


まったく、鋭い奴がいるといろいろめんどくさい。


Δ


どんな店を出すかの話し合いは思いのほかスムーズだった。まあそれもそのはず、あたしは何がやりたいですかあと問うただけで、まとめ役は殆ど柳や幸村が請け負っていたのだから。彼らは前にやった学園祭の出し物と同じものをやると言い出した。今回は三年がおらず人手不足は否めないから、その方が勝手が分かるし良いのだろう。どうやら、他の学校も、前回の学園祭の経験者は殆ど同じものをやるそうだ。
あたしは委員会でもらった紙に甘味処とスマッシュDEビンゴと書くと、息をついた。


「んじゃあたしこれ提出してくる」
「あ、俺もついてく」
「は?」
「んじゃ俺も」
「…良いけど」


名乗りを上げたのは丸井と仁王だった。「相変わらず仲良いッスねえ」苦笑気味に言った赤也の言葉を背中で受け止めながら、あたしは歩き出した。何か個人的に用でもあるのかと思ったが、そうでもないらしい。ただあたしについて来ているだけのようである。丸井の方へ視線をズラすと、思い切り目が合い、かと思えばすぐに逸らされる。仁王も然りだった。


「あああ一体何!?お前ら言いたいことがあるなら言えよ」
「え、あ、あー…」
「いや、怒っとるかなあと思って」
「はあ?」


二人は子供みたいに、「なあ」「うん」なんてお互い顔を見合わせて頷きあう。何故そういう見解にいたったのだろう。


「だって俺達、結構無理矢理を運営委員にしちまったし」
「今更かよ」
「じゃから怒っとるかなーと」
「は?怒ってるよ」


二人はあたしの返答にバツの悪そうな顔をする。当たり前だ。そもそもあたしは正式なマネージャーでもないし、忙しくないわけでもない。あたしにも部活がある。それなのに、こんなものに付き合わされて。柄でもない運営委員なんてまとめ役もやって。「まあ、別に良いけど」「は?」


「あんた達といてつまんなかったことないし、別に良いんだけどさ」


あくび混じりに言うと、二人が顔を上げる。「だから」


「これでつまんなかったらお前らフルボッコだかんな」


そう言ってあたしは握りこぶしを二人の前にグッと突き出した。丸井も仁王もホッとしたように笑う。


「ぜってー楽しいから」
「俺らが保証しちゃる」


さて、不良なりに真面目に学園祭を楽しんでやろうではないか。


BACK | TOP | NEXT


(131120_準備期間開始)