06限目_不良はボケとツッコミなんて決まってなくて、いわば両刀使いなんだよどうしてこうなった。 目の前で頭を下げる校長の姿に、あたし達は硬直する他なかった。「え、…どうするこれ」「逃げるか?」「いや逃げんでも平気じゃろ」「いやでもさ、」互いに顔を見合わせて、この状況にどう対応すれば良いものか、流石のあたし達でも探りあぐねていた。 さて、事は数分前に遡る。 テニス部の朝練が終わり、教室に行くためにテニスコートから校舎へ移動しようとしていたあたし達。そしてそれを引き止めたのは幸村だった。どうにも花に水を上げて欲しいとのこと。 「俺、今すぐに先生の所に行かなくちゃ行けないんだ。悪いけど、頼まれてくれないかな」 「あー…おう、任された」 もちろん幸村の頼みを断れるハズもなく、というより別に花壇に寄るだけだから大した事はないと、あたしはその頼みを引き受けた。そうして丸井達を引き連れて花壇までやって来たのだが、そこにいたのは校長なのである。花壇の花を眺めに来たらしい彼は、あたし達の姿を視界に捉えるなり、くわっと目を見開き、こちらに近づいて来た。そして頭を下げながら言った言葉は「秘密にしてくれえええ」あたし達はもう何の事だかといった感じである。そうして冒頭の状態だ。 「あ、あの?」 「君達なんだろう、あの時校長室にいたのは」 「あ、あー。そういや丸井と仁王が校長室から出て来たの見たけど、え、あれ結局どうしたの?」 「おいコラてめえええ!ふざけんじゃねえぞ!何ちゃっかり私無関係みたいな雰囲気出してんだよ!」 「さいっっあくな女じゃ」 「うるせえええ丸井こそあたしを囮にしようとしただろゴラアアア」 「冒険には犠牲はつきものなんですよさん」 「何その敬語、腹立つっ!」 ああ言えばこう言う丸井に、あたしがついに痺れを切らして必殺トルネードドリルパンチをかまそうと技を繰り出した。しかし丸井はすかさず校長の後ろに隠れ、あたしのパンチは校長にぶつかりそうになったので慌てて軌道をずらしにかかる。しかし、それはギリギリの所で校長の頭を掠めた。ふわりと舞い上がるカツラ。 「あ…いろんな意味でやっっば」 ぱさり。カツラが地面に着地してから、校長は顔を上げ、おもむろに口を開いた。あたし達は確実に停学を覚悟した瞬間だった。 「私がカツラである事を秘密にして欲しい」 「えええ落ちてるカツラはスルーかよ!」 まさかの展開に輝く頭にぺちんとツッコミを入れる。なんかもうここまでやっちまったら何も怖くねえや。どうも話を聞くに、あたし達を停学処分だとか、そういう事にはしないらしい。何故ならそんな事で処分を下したら自分がカツラだとバレるから。停学処分にしない代わりにこの事を黙っていて欲しいという。 「まあ、停学にならねえなら願ったり叶ったりっつうか」 「停学にならんならもうどうでもいい」 「次に停学食らったらお母さんに縁切られちゃうとこだったし、良かったああ」 「君達って不良な癖に変なとこビビリだよね」 そういうわけであたし達は停学はまぬがれた。というかそろそろカツラを拾っていただきたいんだけども。ホッとするあたし達を前に、校長は思い出した様に再び口を開いた。 「そういえば、あの後カツラが一つ無くなってたんだが、まさか君達は知らんよな。まさか持ち出すなんて事しとらんよな。そんなカツラの証拠を持ち出す様な事、まさか」 「やだな校長、まっさかー」 「あ、これですか」 「仁王てめえええ何してんだおいいい!」 「いや、つい掴んで来てしまったんじゃ。うっかりうっかり」 「うっかりうっかり、じゃねえええ!何その軽い感じ!いらっとくるんだけど!」 「終わったな…今度こそ俺達停学だ」 「丸井ヤメテ!」 あたしは仁王の頭を掴むと、頭が地面にめり込むくらいの土下座をさせて、校長に許しを乞うた。 「悪気はなかったんです、ほら、こいつ何気に抜けてるとこあって、髪は抜けませんけど、なんちって。あ、それで、たまにどこからか拾って来たのか分からないゴミとか持ってくるんですよ。カツラってゴミに似てるじゃないですか!彼はゴミとかそういうのにコレクト精神があるだけで、悪気はないんですホント」 「、お前って墓穴掘る天才だな。俺今すぐお前と友達なのをなかった事にしたい」 「あーいいよいいよ。もういいから。停学にしないから。とりあえず返してくれるかい」 「えー」 「早く返せっつの!」 「いてっ」 丸井が仁王からカツラを奪うと校長へ渡した。彼は苦笑していたが、怒っているわけではなさそうだ。どうやら高等部の校長は頗る心が広いらしい。 彼はあたし達の姿を見て、何かを思い出す様に目を細めた。 「君達を見ていると思い出すよ。私も小さい時は悪ガキでね。だから親近感さえ覚えるよ」 「はあ、」 「私も校長のカツラを釣竿でとったことがあるしね。君達は怒れないよ。今こんな頭なのはその時の報いかな、なんてな。はっはっは」 校長の昔話に付き合いながらあたしは丸井と仁王を横目で伺った。「んだよ」「あんたらもハゲんじゃねえの?」ふざけて言ったつもりだったけど、思いの外丸井がビビったように表情を固めた。ちょっとそれが面白かったので、調子に乗ってあたしはこう言ってやった。 「ハゲの呪いだね」 「やべ、ハゲるじゃん。将来俺もハゲるじゃん」 「お前らさんらあんまりハゲハゲ言うもんじゃないぜよ。本物のハゲに失礼じゃ」 そうして仁王が私達を諭しにかかったが、校長は先程までの優しげな表情から一変、顔をヒクつかせていた。 「あのね、君達本当に悪いと思ってる?」 BACK | TOP | NEXT (130512_結局停学にはならなかったけど怒られた) |