01限目_新しいクラスに馴染めない奴、まずは死ぬ気で悪友を作れ



人生を謳歌する上で一番大切な事はなんだろう。いや、そんな大それたことじゃなくて良い。例えばーーそう、明るいスクールライフとやらを送るために必要な事はなんだろうか。きっと難しい事じゃない。馬鹿になって、自分のやりたい事をやるだけで良い。それから毎日笑えればそれで365日ハッピー。それって最高だと思う。
まだまだ若いんだからみなぎるパワーを押さえ込んでいてはダメだ。これがあたしの、いや、あたし達の明るいスクールライフ理論。



人でごった返す立海大附属高等部掲示板前。桜を眺めながら心穏やかに新学年を迎える、なんていうあたしの中の理想は、はるか昔に消えてなくなった。人ごみを掻き分けてようやく一番前に弾き出されたあたし達は、鼻息荒く張り出されたクラス分けの紙を見上げていた。正直、この時はあたしがアイツ等と同じクラスになる事なんて、もう一生ないと思ってた。こんなブラックリスト行きの不出来なガキを同じクラスにするはずがないからね。


「さて、今年もどうせお前達とバラバラになっちまうんだろうな。まあまたクラスが違くてもこれまで通り仲良くしてく」
「あ、俺と仁王同じクラス」
えええ早速うううう!


てっきりあたしはまた皆が違うクラスになってちょっぴりの悲しさを胸に新しいクラスに足を踏み入れる気でいたのに。なんという事だ。悪友二人が同じクラスだと。教師共は何を考えているのだろうか。こんなカラフルな奴らが同じクラスになったら目がチカチカするわ。めでたいわ。入学式の紅白幕だわ。


と仁王の組み合わせでも葬式カラーじゃねえか」
「あたしの髪は茶色ですうー残念だったな、ハッ」
「なるほど、ゴキブリカラーか」
テメエ頭蓋骨かち割んぞゴルァアア!
「おい、ちゅうかも同じクラスじゃ」
「知ってんだよ!どうせ違うクラス、…は?」


何だと?自らの耳を疑い、顔を上げると仁王がほれと掲示板を指し示した。女子の欄を上から順に見て行く。丸井や仁王と同じクラスである2-1にとある。


「あば、あばばばばば!一緒だ!マジか!うわあああ」
さん今のお気持ちをどうぞ」
「…」
「…?」


あたしは口元に手をあてると、顔を覗き込んできた仁王に、首を振った。突然喉の奥からせり上がる何か。これは、


「…にお、吐きそげろろろ」
「お前最悪だな」


吐き気だったようだ。どうやら人に酔ったらしい。口に手を当てたままフラフラと歩き出すと、何かを察した皆がサッと一歩下がってあたし達の周りが広くなった。丸井と仁王がやれやれとあたしを支えて、開けた道を歩き出す。「ったくよー」「しょうがない奴じゃ」両脇で悪態を尽きながら、でもちょっぴりの嬉しそうな彼らの横顔に、あたしもほくそ笑んだ。しばらく二人に支えられて歩いていると、にやけるあたしに気づいたのか、丸井が口を尖らせた。


「お前何笑ってんだよ元気じゃんコノヤロー」
「一人で歩きんしゃい」
「こらこら蹴るな、お前達」


あたしから離れた丸井と仁王を交互に見てから私はふっと息をついた。これでも具合が悪いんだぞ。まあ人混みから離れたらだいぶ気分は良いが。
あたしは二人の肩に腕を回して歩き出した。あたしより背が高い二人はちょっと窮屈そうに私に合わせて腰をかがめていたけれど、文句が飛んできていないので、嫌では無いのだろう。


「あたしはさ、君達心の友と同じクラスで一年過ごせるのが嬉しいのさ」


そうつぶやいて走り出したあたしに、二人は顔を見合わせて苦笑を零した。「ま、確かに良かったよな」桜を見上げた丸井と仁王は、自分に回されていた私の腕をぎゅっと掴んで、やっぱり笑って見せたのだった。







「…ところで、何でまた俺ら同じクラスになれたんかねえ」


それから教室に向かっている途中、ふと丸井がそんな事を口にした。確かにそれは疑問である。あくびをしながらさあ、と答えたあたしに、仁王は言葉を零した。


「お前さんら担任の名前見たか」
「いんや。別に興味ないからね」
「それがどうしたんだよ」
「聞いた事ない名前じゃったからのう」
「ほーん」


それってあれか。新任の奴にあたし達を押し付けちゃえ的な。あたし達のクラスを変えたところで、学校の平穏のためには意味がない事を恐らく去年で学んだのだろう。私達はそれほどひどい事をしていたつもりはないのだがね。まあ、校長室のコロコロ滑る椅子を廊下で乗り回したりしたのは良くなかったかもしれない。あと図書室でかくれんぼとか。本棚倒しちゃったしな。
ま、とにかく自分で言うのもアレだが、哀れな新任さんである。


「ドンマイだよな」
「まあ気合で乗り切ってもらおうゼ!どんまいどんまーい、つ、よ、き」
その歌古い」
「つうかドンマイってどういう意味、仁王」
「俺に振るか」
「アレだろい、どんぐりマイフレンド」
「それだ!」
「いや、違うと思う」
「まあ、ちょっとおしいけどそれくらいで標準語喋んなよ」
「すまん、俺の言い方が悪かった。ぜんっぜん違う


仁王があきれ顔で肩を竦めた。いやだわ冗談ですわよ。
そうして下らないやり取りを繰り返すうちに、あたし達は我がクラスになる1組にたどり着いた。前にいた私がドアを豪快に開く。


「おーっす!」


元気な声が返ってくると思いきや、クラスの皆からの反応はあたし達の予想外のものだった。扉を開ける前に聞こえていた騒がしくも楽しげな声達は、あたし達の姿を捉えるなりピタリと止んでしまったのだ。


「…やっぱり掲示板、間違ってなかったんだ」


誰かの声にクラスが微かにざわめいた。

あたし達はお互い顔を見合わせて、再びクラスへ目を戻す。


「…えーっと、これは、」


果たして私達は歓迎されているのかいないのか。

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(130427_三人なら怖いものなし!なハズ)