あれ、私一体どうしたんだっけ。タオルを補充しにいって、千石君に会って、会って…わああああ!


「あ、起きた」


芥川君の声が聞こえるのと同時に、私はがばりと勢いよく体を起こすと周りには男子達と番長がいた。どうやら私は気絶したようである。番長が運んだのか、私はラウンジのソファーに寝かされていた。番長が私の顔を見るなり申し訳なさそうに頭をかく。お前がここまでウブだったとは。なんて。まさか私があんなので倒れるとは思わなかなったのだろう。


「あー…話はアタシからこいつらにしてある」
「マジマジビビったC!ちゃんが、覗きに来たのかと、」
「ち、ちがっ、違うの!ホント、違くてだな!あの、その、わた、私っ…わあああごめんなさいいい」
「おお…さんのその女の子な反応、初めて見たわ。新鮮やなあ」
「皆ちゃんと分かってるから大丈夫だよ」


千石君が背中を優しく叩いて、私を落ち着けさせようとする。うん、と小さく頷いて、私は息を吐いた。落ち着け私。しかしいつまでもこうしているわけにはいかないので、もう平気だと立ち上がろうとした時だ。ふとピリピリした視線を感じてそちらを見る。それは丸井から発せられたものだった。…睨まれとる。なんだ、何故だ。こいつまさかまだ私を変態か何かと勘違いしてるのか?


「…何じゃい」
「別に」
「それならこっち見るなよ」
「…あああお前いちいち腹立つ奴だな!お前見てるとイライラする!」
「は、何なんだ一体、っい、いでででで!」


何だかよく分からないけれど突如キレ始めた丸井に、いきなり頬を抓られてギョッとした。周りでは赤也や千石君が丸井を止めにかかっているが、他は何だいつもの喧嘩か、みたいな感じで放置を決め込み始めている。薄情な奴らだな!インプラントしたからな!違う!インプットしたからな!薄情な奴らだと!


「何でいきなり怒ってんだよ!何で赤也は良いんだよムカつく!」
「何でいきなり怒ってるかなんてこっちの台詞なんですけど!?」


わああ千石君ヘルプミー!丸井の手から逃れて女の子の強い味方である千石君の背中へ隠れると、丸井のオーラが倍に増した気がした。こう、ぶわぁっと。ひいい。


「えーと、丸井君、女の子相手なんだし、少し穏便に」
「テメエは黙ってろ千石!俺は後ろの馬鹿に用があるんだよ!出てこい!」
「うえええ千石君見捨てないでね!女の子の味方だもんね!」
「…誰か俺を助けて…うう、アンラッキー…」


私はぎゅううと千石君の腕に掴まって、丸井の様子を伺う。しかししばらくすると、思いの外、彼は落ち着き出して、というか何だかもう疲れたように怒らせていた肩を静めたのだ。


「ま、丸井…?」
「…のばーか」
「は…?いや、馬鹿って、言った方が馬鹿なんですけど、ばーか」
「…先輩」
「え?」


赤也が遠い目をして私に声をかけたが、きょとんと振り返った私に何も言う気がなくなったらしい。力なく首を振って、なんでもないッスと後ろに下がった。何だ?まあいいか。それより丸井だよ。どうしたコイツ。千石君と顔を見合わせていると、彼は口を尖らせて、私から視線を逸らした。


「もう、なんか…意味わかんね。…はさ、立海のマネージャーじゃん」
「そうだわね」
「…だから、…だから他の奴の世話なんかしてんじゃねえよばーか!」


ばーか、ばーか、と丸井は何度もそう繰り返して走り去っていった。小学生さながらだった。彼自身も理解していたに違いない。耳も顔も真っ赤だった。今まで素知らぬフリをしていた跡部を始めとする色んな奴らが、「ああ…」みたいなよく分からない渋い顔で丸井の背を見送っていた。ただ一人、芥川君だけが「丸井君可愛E!」なんて騒いでいた。


、何かコメントして」


もう何で喧嘩をしていたのか分からなくなって来た。というよりどうでも良くなったという方が正しいかもしれない。今の丸井の言葉で私の考えは杞憂に終わった事は明白だ。なるほど確かに互いに依存しあっている。お互い必要としあっていて、それを知っている癖に馬鹿みたいに不安になって、当たり散らす。
幸村のよく分からない前フリに、フッと息をついた私の口元には自然に笑みが浮かんでいた。


「コメントって…。いや、馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ。ばーか」
「…さん…」
「え?」


あれデジャブ。




余所見ばっかりすんなって
(そう言いたかったんですね)

←まえ もくじ つぎ→

( 丸井贔屓にしてみました。いつものことですね / 130609 )