仲間同士のデスマッチが開始されてからしばらく経ち、殆どのペアが勝者と敗者に二分された。自分の信頼していたパートナーを潰す試合なのだから、試合をしている方もキツイだろうが、それを見せられている方も、辛くないといえば嘘になる。しかしデータを取って提出をしなければならないので、無心に手を動かしていると、皆が試合をしているそんな中、そばで何だが様子のおかしい青学の人間が視界に入った。あまりまじまじと見つめるのもあれなので、意識だけをそちらに向ける。
ふらふらな乾君が気になったが、ペアが確かさっきのうるさいくるくるの奴だったから彼に何かされたに違いない。


「乾、越前を見なかったかい。試合だっていうのに、どこにもいないんだ」
「見かけていないが…」
「万事休すか…」


リョーマがいない?
話を聞く限りじゃどこにも見当たらないらしい。もうあと数ペアで試合が終わってしまうというのに何を考えているんだか。まあ他人の心配はどうでも良いか、頭を振って、目の前の試合に集中しようとした、その時である。「オイオイ、あのチビはどうしたんだよ」嫌味ったらしい声が彼らに割って入ったのだ。


「何だかんだで尻尾巻いて逃げちゃったか?」
「生意気の割に情けないねえ、あのチビ」
「ぎゃははは」
「うるせえ!」


とても不快な言葉を並べていた高校生達の声は海堂に掻き消され、黙り込んだ。越前は逃げるような奴ではないと、青学の皆は言い切り、高校生もぐっと押し黙ってしまう。


「どうせ間に合わねえよ。言ってろ馬鹿ども」


それから高校生は捨て台詞のようにそう吐いて去って行こうとした。そのまま放っておけば良いのに、私はどうしたことだろう、小さく息を吸い込んでらしくもなく言葉を紡いでしまったのだ。


「中学生相手に喧嘩を売りにくるなんざ、高校生も暇ですねえ」
「…なんだと、おいそこの女!」
「マグナムさんと越前リョーマの試合を見たならば彼の実力はある程度分かったんじゃないですか?それなら普通は焦るべきですよね。こんな所で油売ってる暇があるなら自主練にでも行けって話です、わかります?」
「言わせておけばっ…」
「図星だと思ったなら拳を振る前にラケット振ってろ。あ、今の上手くね?座布団一枚ですね」
「君のシリアスパートをギャグパートに切り替える力は折り紙付きだな」


ムカつく二人組を黙らせたと思いきや、すかさず大石君がツッコミに入った。高校生は舌打ちをして去って行く。まあなんとなく立海に対しての苛立ちも解消できたので、良しとしよう。「さん」お?


「ありがとう」
「…いや別に。君達のためではなく自分がイラついてたんで」
さんって、怖いイメージあったけど、意外と良い奴なんだねー」
「こら英二」
「にゃははー」


立海は皆そうだと、菊丸君は続けた。怖いけど、近寄り難いけど、実際話してみると意外に面白くて優しくて、馬鹿ばっかりやってる奴らだと。その言葉に、どこか安心している自分がいた。やはり喧嘩していてもあいつらが心配なものは心配らしい。


「…そうだよ」
「お?」
「馬鹿でうるさくてたまにうざったいけど、それでもやっぱり王者で、無敵で優しくて、最高な奴らっすよ。今更気づいたなんて、遅いよ」
「…。あはは、さんて、立海には甘いよね」


知ってる。
ふわりと笑った不二君に、私は言葉を返すことはしなかったがちらりとそちらを一瞥すると、彼はもう一度笑った。幸村に近い何かを感じたのは気のせいだと思いたい。


「ああ、そうだ。そんな事よりさん、越前を見かけてないよね」
「見てない」


大石君が本題へと話題を戻し、私にそう問うた。予想通りの答えだったはずだろうに、少しばかり声のトーンが落ちる。どうすれば、なんて互いに不安の色を隠せていない。あああ見てられない。他人の心配をする私なんてらしくないのに、なんで、こんな、


「あー…の、さ!」
「何だい?」
「私も、手伝おう、か、」
「…え…いいのかい?」


…何を言ってるんだ私。
頭をぐしゃぐしゃとかいた私は小さく頷いた。「まだ試合残ってる人いるでしょ。私は、ノート取るだけだから、…まあ、ついでに探してあげないこともないような、」「」…はい?
突然手塚君の声が降ってきたので、顔を上げると、彼は頭を下げて「すまない」と呟いた。


「協力してくれて、ありがとう」
「うえええと、て、手塚君、…」


その姿に私はもやもやしていたその正体がなんなのか、ちらりと見えてしまった気がして、私は「ついでだから、ついでついで!」と言い訳がましく何度も繰り返して、慌ててその場から走り去ったのである。



それだけのこと
(お礼を言われた、ただそれだけのこと)

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( ホントは赤也との絡みまで書くつもりだった / 130525 )