![]() 無事と言って良いのか甚だ疑問であるが、私達の舞台はなんとか閉幕まで辿り着く事ができた。 結局、私が顔から火が吹くような思いで舞台袖に戻って来ると、そこには既にシンデレラなリョーマが立っていた。どうも10分くらい前から待機していたらしいが、三馬鹿曰くあまりに私が面白くて、ずっとどうなるか眺めていたのだとか。死ねば良いのに。ちなみにリョーマはなかなか可愛かった。 そんなこんなで、この2日間まあ色々と大変な事はあったが、私達の最後の文化祭もとうとう終りに近付いており、残すは後夜祭だけとなった。 グラウンドの真中で何故かキャンプファイヤーが燃え盛っていて、その回りで社交ダンスやらなんやらが繰り広げられている。流石にそれまで参加するつもりはないので、端にしゃがんでボーッと炎を眺めていた。 そういえば幸村達はどこだろう。私は、そう辺りを見回していると不意に携帯が震えて、着信が入った。財前である。 「はぁい、もさもさー」 『電話の応対もまともにできないんすね』 「あはは」 『その様子じゃ劇上手くいったんすか』 「えええ?うーん」 滑った。と私は一言。OK牧場でしっかり滑ってきた事を告げると財前は小さく吹き出していた、様な気がする。…彼が笑うはずがないか。 まあそこら辺はどうでも良かったので、あまり深く考える事は止めて「金色君だけに御礼言って置いて」と続ければ、彼は「先輩俺は?」とか言う。 「あーはいはいありがとね」 『適当っすね』 「いいじゃん。ああ、ユウジには呪うって言っておいて」 『らじゃー』 緩い彼の返事を聞いて、私はこっそりと苦笑をこぼしていた。そんなやり取りの後、私は電話を切って立ち上がる。幸村達を探そうと思った。別に後夜祭まで一緒にいる必要はないけれど、…別に淋しいとかそういう事も全然ないけれど、やっぱり落ち着けるのはいつだってアイツらの側なのである。本人達には絶対言わないけどマジで本当に絶対。なんて、何一人でやってんだと頭をかいて顔を上げる。 ――私はその先にいた人物に思わず息を飲んだ。 だった。 彼女はソノちゃんと一緒にいるけれど、彼女の視線は明らかに私に向けられていた。 どうする…。無視する?でもそれじゃ何も、変わらない。私はを信じたい。丸井だって、信じろって言ってくれた。あの時とは違う。あの時とは―― 私がの方へ一歩踏み出すと、彼女は悲しげに目を伏せたが、すぐに私を睨み付けた。思わず怯んで足が動かなくなった。何だか見守る様にその場に止まるソノちゃんを背に、今度はが距離を埋める番だった。 「」 「あっ…、その、昨日は急にいなくなって、…」 「もういいよ」 足元の視線をあげた。にっこり笑うが「テニス部大好きだもんねえ」と続ける。ゾッとした。ぞわぞわと、恐怖が這い上がってきた。 あ――駄目だ。信じられない。怖い。傷つきたくない。怖い。エゴ、どうやるんだっけ。守らないと。傷つきたくない。私が壊れちゃう。 「せっかく前みたいに声かけてやったのに」 「ちょ、!」 ソノちゃんが割って入ったが、が黙る事はなかった。彼女はまるで何かを堪える様に、そして一気に言ってしまおうと無理に捲し立てている様にも見えた。 「それが、の、本音…私が信じてたのは、」 「何、まさかアンタ本気で私がアンタのオトモダチやってると思ってたの?同情よ同情」 「…は…っ」 「せっかくオトモダチに戻るチャンスやったのに」 思い出したくない。 「誰がアンタの友達になんかなるかよ」 「誰がテメエの友達になるかよバーカ」 あの時と一緒だ。ぜんぶ。何も変わらない。何も、変えられない。 ああ、そうか。 結局、どこに行ったって、 どうしたって、 同じ事の―― 「死んじゃえ」 繰り返しか。 「っ!」 気付けば私は走り出していた。込み上げて来る吐き気に必死に堪える。この場から逃げたい一心で走り続けていたら、「あ、せんぱーい」と前から見知った声が聞こえた。どうやら皆そろっている様だ。しかし止まる気はなかった。そのまま横を駆け抜けようとしたら、強く腕を引かれる。 「俺達を無視するなんて良い度胸だね、どういうつも――」 「はな、して…っ」 まさか泣いているとは全員思っていなかったらしく、怯んだ幸村の手が緩んだ。その隙に私は腕を振り払って再び走り出す。その後は知らない。気付いたら家にいて、泣いていた。 ▼ いつもの調子で声を掛けたつもりだった。また彼女からはあの情けない声と、へにゃりとした笑顔を向けられると思っていた。しかし見えた表情はそれとかけ離れたもので。 今日のは本当にいつも通りで、心から文化祭を楽しんでいる様に見えていたから、俺は油断して、つい、手を緩めた。がするりと俺の手から逃げた。 「泣いてなかった、か?」 ブン太が目を丸くして彼女が走り去った方を見つめる。他の皆も唖然とその場で固まっていた。 「アンタ達!何やってんのよこんな時に!!」 「原西?」 が来た方から原西がかけてきた。今の場面を見ていたのだろう。何故手を放したのかと仕切りに俺に怒鳴り散らしてきた。確かに俺が悪かった。気を抜きすぎていたのだ。 「こういう時に使えない男ばっか揃いやがって!」 多分原西は何があったのか知っているのだろう。聞こうとしたが、その前に彼女はを追って、走りさって行った。 こんな想い抱えて生きていくなんてもう沢山だ (死んでしまえばよかったんだ)(あの時に) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- ここからガッと暗くなります。結構暗くなります。でも5話以内に全て解決するので、さらっと読んでやってください。 130214>>KAHO.A |