秋の記録:07


「お前カワイソーな奴だよなあ」

「お前がそんな性格だからさあ、父ちゃんも母ちゃんもあんま家にいないんじゃね?」

「この能面女」

「せっかくオトモダチに戻るチャンスやったのに」

「誰がテメエの友達になるかよバーカ」


「死んじゃえ」





、どうしたの」


隣りを歩いていた幸村がひょこりと私の顔を覗きこんだ。ずっと忘れていたのに、急にあの時の事を思い出すものだから気分が悪くなってしまったようだ。しかしそんなことを言うつもりはない私は咄嗟に「別に」と答えた。「下手くそ」彼は私の頭を小突く。そしてため息をつくなり止めていた足を前に進めた。多分、嘘を吐くのが、ということだろう。
先を歩く彼の背中を私は見つめて、それから視線を落とした。
幸村は何も聞かない。
さっき私がいきなり彼に抱き付いてきた事も何も問わないのだ。しかし彼はと同じクラスでもあるし何も知らない訳ではないだろう。きっと彼はこの状況を私より…誰よりも理解している。そしてきっと、私が、彼がどうすればいいのかも。

「3B見に行くんだろ。置いてくよ
「あー…うん」


そうして私達は3Bへと足を進めたのだが、店番で教室にいるはずの愉快な頭の二人には、何故か目的地に着く前に出会う事になる。


「楽しんでますかーお二人さん!」
「珍しい組み合わせやのう」
「…今からお前らの所に行こうとしたんだけど、何してんの」
「ホントだよ。丸井も仁王も店番とか言ってなかった?」
「え、まあ出張サービス的な?」
「そんなサービス俺は頼んでないよ」
「いやだってが」
私も頼んでねえよ


持っていた買ったものを入れる用の鞄で丸井を叩くと、彼はケラケラ笑って、冗談だよと言った。知ってます。
幸村は悪びれもなくサボリだと言う二人にやれやれと肩を竦めて見せが、店番に戻れとは口にしなかった。流れからして多分このまま4人で回るのだろう。何だかんだで幸村はきっと、丸井や仁王と一緒に文化祭を満喫したいのだと思う。それは彼ら二人とて同じはず。そして私も。


「んで、どこ行くん」
「こうなったら3Bには行けないから…そうだな。行きたいとこ、」
「ちょ、俺グラウンドにたこ焼き屋見つけたんだけど!ほらあれ!」
「どこだよ。視力良過ぎだろ」


食べ物に関してだけでしょ丸井は。苦笑する私の横で、幸村は俺お腹空いてないから後でねと丸井を一蹴した。丸井も幸村には逆らえないので、愕然とする姿が少々哀れである。そんな姿を見兼ねてか、仁王が丸井に続いてグラウンドを指した。
そちらへ目を向けると、どうもサッカーで的当てするゲームらしいことが分かる。


「あータダで参加できたし、確かお菓子配ってたかもね」
「よし行こう!」


口を挟んだ幸村に丸井は素早く反応して走り出した。うわサッカーとか面倒くさ。一人ごちると、は何でも面倒くさがるじゃろと仁王に痛い所を突かれて私は眉をしかめた。




「1人6球までで、ま、ビンゴみたいに狙ってください。ビンゴの数によって賞品の種類が変わりますんで」


随分適当な説明である。まあいい。
何でも良いけど取り敢えず私はやらないよと私は主張した。しかし幸村の「は、何で?」のお言葉の前でそんなものは通用するわけもなく、じゃんけんで(絶対仁王あたりに計られたか気がするが)私が最初にチャレンジすることになった。


「うええマジ無理これ無理遠くね。的の数字が見えないんだけど」
いやそんな遠くねえだろい
「あの、もう一つ前の線まで出ていいですか」
それは小学生以下がチャレンジできる距離ですから


チッ
審判をひと睨みすると、後ろから早くやれと幸村からの催促がきたので仕方なくその場で足を引いた。これでも運動神経はからっきしないなんて事はない。体力測定も学力考査もいつだって平均太郎。つまり可もなく不可もなくなのである。「うへへへ太郎の底力を見よ!」「何か変な事言っちゃってるけどアイツ大丈夫?」「いつもじゃろ」ムカついた勢いでボールを蹴った。
ばあん、割と派手な音がしたから威力はそれなりにあったと思われる。しかし当たったのは、斜め前にいる審判の顔面だった。鼻血出てる。


「あー…ごめんなさい?」
「ぶっはははは天才的!ははは!」
「…ブン太笑う所じゃないだろ」
「いやあ、しかし大当たりじゃな」
「ぶはははは!」
「死ね丸井」


審判は優しい人みたいで、大丈夫だと私に笑って、なんと2球目を私に託した。もしやMなのではないかと久々にそんな疑惑が浮上した。

まあそんな事もあったが、その後、ビンゴにはならなかったが私はしっかり3球当てて、残念賞のカンロ飴一つを獲得した。正直嬉しくない。
しかしムカつく事にあの3人はすまし顔で6球しっかり当てたのだ。予想はしていたが。ちなみに幸村に至っては、最後の1球で、ワザとボールを枠に当て、その振動で他の的を全て同時に外すなどという神業を披露し、結局あり得ないはずの全面制覇を成し遂げたのだ。


「妙技『枠当て』、なんてね」
「おいいいい幸村!」
「別に減るもんじゃないじゃろうが。むしろ増えとるし妙技。良かったなブン太」


悪戯っ子の様に笑う幸村と慌てる丸井、そしてからかう仁王をぼんやり眺めて、私はあほらし、と口に飴を放り込んだ。
飴の種類がこれだったからか、手で握り締めてぬるくなっていたそれを舌で転がすと、何だか妙に懐かしいような、それでいて切ないような気持ちになって、私は視線を彼らから静かに足元へ落とした。





「この能面女」





うまく笑えない
(もう忘れた。本当の笑い方なんて)(アイツはそう薄っぺらく笑って、未だ仮面をつけたままその下でこっそり泣いている)

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お久しぶりです!約一年ぶり!
仮再開です。さて、早速意味深な内容。
マネジの更新を待っている方が果たしているのかどうかわからないですけど、そんな方がいると信じて。
130208>>KAHO.A