![]() 出遅れたか、と小さく舌打ちをする。この昼の時間帯は食堂が当然混むと理解はしていたがここまでとは思っていなかった。いくら辺りを見回しても空いているテーブルは、…ない。相席というのは可能だろうが知らない人間の隣で食べるのは御免である。久々の学食でちょっとテンション上がってたのにガッカリとだわ。 こうなったら諦めるしかないのだろう。肩を落として私は来た道を戻ろうと踵を返した。 「あー、ソーノちゃーんさぁん」 不意に腑抜けた声が私を呼び止める。誰だか予想がついて、私はしかめっ面で振り返れば、案の定そこにいたは、びくりと体を震わせた。お、怒ってらっしゃる、なんて何怯えてんだか。私はアンタにはいつもこうでしょ。それにしても驚いた事に彼女は1人で5人掛けテーブルを陣取っているではないか。まったくコイツみたいなのがいるから皆が席に座れなくて困るのだ。私はここ座るわよ、と我が物顔で椅子の一つを引くとは勢いよく頷いた。何この子。 「ソノちゃんが学食なんて珍しいね」 「アンタはよく来るわけ」 「うん」 ずぞぞ、と彼女が味噌汁をすする。そして週4くらいでと付け加えた。へえ…、いや、来過ぎだろ。確かに学食は普通のレストランなんかよりは十分安いけれど、ほぼ毎日となると経済的に厳しくないか。私は頬杖をついて、そう彼女を見ているとはウチお金いっぱいあるんだと嫌味のかけらもなく言ってのけた。こういう所が彼女が他人と違う所である。私は苦笑いを浮かべてそっか、と頷いた。 「ああ、そういや、さっき幸村と二人でいたでしょ、珍しい組み合わせよね。どうしたの」 「…あ、それ多分クラブ会議の時だよ」 「クラブ会議?…ああ、文化祭まで1週間なかったわね。でも何で今更」 「うちの部活講堂使うんだけど、まだプログラムの順番が決まってなかったからそれを決めてた。ちなみに5番だよ」 「ふうん」 テニス部は講堂を使うのか。漫才でもやるのかね。アイツらはテニスやるだけでギャグになるけど。「シンデレラやるんだ」「は?」「シンデレラ」何故あのメンツでそんなのやるんだ。きわど過ぎる。 「じゃあアンタがシンデレラとかそういうおいしい役?」 「いや、主役は赤也ですけど何か問題でも」 「ありまくりだよ」 どうやらが推したらしい。何となく予想は出来たが。テニス部の奴らも何気に乗り気らしく、なかなかとんでもない内容になってるのだとか。ああ、そうだそれならばは何役なのだろう。「意地悪な姉その14」…シンデレラって意地悪な姉が14人もいたのか。知らなかった、そんな裏設定。 「何がやりたいか聞かれて適当にそう言ったらそうなった。あ、でも役名が『姉14』ってだけで実際は私と丸井と柳生しかいないから」 「ていうかメインが女の子なのに何この男のむさ苦しさだけで構成された感」 「赤也が可愛いから大丈夫だよ。あ、でも私、役下ろされるかもしれない」 「しっかりしろよ唯一の女」 「いやあ、私何度練習しても棒読みだって言われちゃって」 まあ確かには普段話していても言葉に感情が篭ってないように聞こえる。普通の会話すら棒読みに聞こえるのだから、こんな奴に感情を込めて演技しろなんて無理に等しいであろう。まあ演劇が面倒であろうにとっては、その方が都合が良いのだろうが。まあ頑張んなさいよと言えば、彼女はけだる気に頷いて、そしてやっと皿から顔を上げた。「ていうかソノちゃんは何も食べないの?」ああ、そういえば何も買ってなかった。 「食べるわよ。私もアンタと同じやつにするわ、買ってきて」 「うええい」 相変わらずよく分からない返事であるが、素直に行ってくるらしい。彼女の背中を見送りながら私はお腹すいたと一人ごちた。 それにしてもずっと気になっていたが、はどうしたのだろうか。最近あまり一緒にいる所を見かけないが。前まではあんなにいつも昼食を共にしていたくせに、喧嘩でもしたか。いや、喧嘩ならばが私に愚痴って来るだろうし、何よりが彼女に敵意を剥き出しにするはずだ。私が気づかないはずがない。そうして考えを巡らせているうちにはプレートを持ってやって来たから試しに今の事を問うてみた。その瞬間、彼女は表情を曇らせる。 「…別にいつも一緒にいるわけじゃないもん」 「まあ、そうね。どちらかと言えばアンタが付き纏ってる感じだったし」 「…」 わざと挑発的な台詞を口にして、私はちらりと横目で彼女を伺えば、彼女は今にも泣きそうな顔をしたから思わず私は口ごもってしまった。そして彼女はまるで何かを思い出すかのように、憂いを帯びた表情で視線を私から逸らす。一言で言えば『らしくない』。どんな辛い事があろうが、それが仮にテニス部が関わっていようと、は己の感情を押し付けて周りに敵意だけを剥き出しにして来た。ただ、それにはまるで「辛い辛い」と訴えるような痛々しさが、いつもあったけれど。なのに今はそれが感じられない。焦りと悲しみだけが彼女を支配しているように見える。 私は黙って次の彼女の言葉を待つ。しばらくすると、彼女は今までゆるく持っていた箸をテーブルに置いて私を見た。「ねえ、」の口が開かれる。 「私が人に嫌われる理由って、何かな」 終わりのない孤独について (…それは、誰かに言われた言葉なのね)(そうでしょ、) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 「それは間違ってるよ、」 1203171>>KAHO.A |