![]() 寿葉はやはりスパイスだったらしい、間違えた。スパイだったらしい。らしい、っていうのは私が直接聞いた訳じゃないから。北海道から遠路はるばるやって来たようだが柳や幸村あたりがそろそろ邪魔だよなんて威圧して追い出したんだって。可哀相に。ちなみにそれが午前中の話であり、お昼を過ぎた現在、何故か私は幸村と真田とで捕獲された宇宙人ごっこを繰り広げていた。もちろん宇宙人役は私だが。 「え、ねえ私どこに連れていかれるの」 「さっき説明しただろ」 「そうでしたっけ」 そういえば、全体に集合かけて何か言っていたような気もするが、その時仁王が今練習中の幸村の真似をしていたのでそれを馬鹿にしていて微塵も聞いていなかった。首を傾げる私に、旧校舎で抽選会があるのだと、真田が呆れたように口を挟む。 「へえ、幸村福引きするの、いいなあ。私もガラガラやりたいんだけど一回しくらいさせてくれない?ねえ、」 「全国大会の組分け抽選に決まってるだろ」 「いいいだだだだ冗談だってば!食い込んでる幸村、爪が食い込んでるよ!」 「ああ、ごめんね。つい」 「ついじゃねえよ、こんにゃろう」 「ごめん聞こえなかった。何?」 「何でもないです」 いやはや最近の若者はどうもすぐに力に訴える奴が多くて敵わない。落ち着こうよの意味を込めてポケットからおしるこを出したら、いつも持ち歩いているのかと真田に驚かれた。嫌だなあ。たまたまだよ。私がおしるこ好きそうに見える?あ、見えますか。 「ていうか、はさっきの女子がわざわざスパイのためだけに神奈川まで来たと思うかい」 「…あ!スパイなだけにスパイス手に入れるために来たんじゃないですか。でも本場はインドだって教えてあげた方が」 「お前馬鹿なの?ああ今更か」 「うーわーひでええ」 じゃあ他にどんな理由があるというのか。二人に掴まれていた腕を振りほどいて私はしっかりと地に足をつける。そんな私を見て、幸村は真田と顔を見合わせてからやれやれと肩を竦ませた。どうにもテニス部の連中は私を馬鹿にするようなそぶりをする節があるのだが、これは部内イジメと捉えて良いのだろうか。とソノちゃんに訴えるぞ。 「恐らく立海で抽選会があるから部長達とここまで来たのだ。偵察は来たついでだろう」 「偵察なんて、まったく私達も買い被られたもんだね!」 「真田、コイツの事殴ったら全国出場停止になっちゃうかな」 「…」 幸村から恐ろしい台詞が聞こえた気がするけど気にしない。朝ボールを置きに行った時、いつもより少しだけ騒がしく感じたのは抽選会の準備があったからかと納得した。抽選会入口と書かれたドアを確認してからそれを思い切り蹴飛ばす。たのもー!ばあん、と予想以上の音を立てて開かれたドアはいとも簡単に外れ、中にいた人達は唖然と私を見つめる。あ、やっべ。壊しちゃったよ。 何故かそこには校長もいらっしゃったので、彼にこっぴどく怒られ、更に幸村と真田にも、それは鬼のような顔で怒られた。いや、だって旧校舎だしボロイから仕方なくね。 「ははは、さん相変わらずやらかしとるわ」 ちらちらと視線突き刺さる視線を背に受けながら、そそくさと私は席につく。後ろから聞き覚えのある声がかけられた。振り返ればそこにいたのは予想通り白石蔵ノ介であり、その隣には地味な人間が一人。どうやら合宿にも参加していた副部長らしいが。全く身に覚えがなかった。 それにしてもどないしてさんがここに?前に向き直ろうとする私に、白石君はそう問う。しかし私は黙ったまま幸村の方へ視線を移した。私が知るわけがないから。 「があまりに緊張感がないからここに連れて来れば気合いも入るかと思ってね」 「で、気合い入ったん?」 「いや全然?」 白石君の笑い声に被さるように立海の名前が呼ばれた。幸村が立ち上がる。どこと当たるのだろうか。「早く試合できるとええな」私の心を読んだかのように白石君は頬杖をつき、幸村に視線を移した。こういう時に私は融通が利かないので返答に困る。社交辞令として笑顔で頷いて見せれば、それが心からではない事に気づいたのか、白石君は眉尻を下げて肩を竦ませた。 その時だ。不意に立海に対する侮辱の言葉が耳に飛び込んできた。「今年の立海恐るるに足らずだな」「地に堕ちたな。なっさけねえ」 もちろん真田が黙っているわけはないだろう。立ち上がった彼にまあまあと私が宥めて彼の代わりに私が一歩、歩みでた。くるくると弄んでいたおしるこの缶を開ける。 「おっと足が滑った」 陰口を叩くならバレないようにお願いしまーす。六里ヵ丘とかいう学校だったと思うが、ぼたぼたとユニフォームをしるこまみれにした彼らはギロリと私を睨みあげた。おい女、テメェふざけんなよ。だって。 「自分が撒いた種だろうが。陰口言うならこれくらいされる覚悟しとけよ」 あっかんべーなんて舌を出せば、誰かに腕を掴まれた。君、いい加減にしないか!誰だか知らないが、さしずめ会場にいた大人Aという所だろう。出て行きなさいとドアの方に私を押したので、言われなくともと鼻を鳴らしてやった。 肩を怒らせて私は大股で出口へ進む。 「やーしんけんマネージャーだばぁ?」 「…はあ?」 「やめなさいよ甲斐君」 帽子野郎に声をかけられたので足を止めた。まぶやーまぶやーなんてほざいていやがるが、お前それは一体何語だ。宇宙人語か。何言ってるか分かんないんですけどと睨みを利かせる。ついでに隣にいたリーゼント眼鏡にも威嚇したら彼は困ったように私を見上げた。 「しかし、本当に品のないマネージャーですね。ウチはこんなの御免ですよ」 「私だってお前らみたいな宇宙人御免、」 「おい、」 私の言葉を遮ったのは跡部である。ああ、いたの?的な心境だ。彼は突っ掛かるなとでも言いたげな視線を私に向けた。ああ、ここは知り合いがいるから私に不利か。私は分かってらあ、と口を尖らせる。 「帽子宇宙人とリーゼント宇宙人め。覚えてろよ」 そうして会場を飛び出した私はテニスコートへ全速前進するのである。 ああ、こんな私を 笑いたければどうぞ (気合い満タンマンハッタン!) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 本当はヒロインと寿葉をぶつけたかったんだけど、めんどくさかったから幸村たちに任せた。 話がぐだぐだですが、見逃してやってください。無理やり比嘉中なんて出さなければ良かった。 120205>>KAHO.A |