![]() さて。丸井だけが保健室から練習に戻り、私が赤也を寝かしつけた後の話になるが、あの後、午後練は中止される事となった。柳が幸村達にそう促したらしい。赤也に続き、具合が悪くなる選手が出たからだろう。だって今日の日差しは強すぎる。 そんなわけで、早急に部活を切り上げた私達――丸井、仁王、ジャッカル(柳とは先程別れて、柳生が学校に残って勉強)は現在、炎天下の中、足取り重く帰路についていた。ちなみに赤也は保健室に置いてきた。いや、別に好きでやったわけではなくて、柳がもう少し休ませてから帰すべきだと判断したからだ。勿論幸村もその意見に賛成して、だけどマリコもいないし赤也一人を残すわけにも行かないので、幸村と真田が彼が起きるまで保健室に残ることになったのだ。柳ならまだしも、ちょっと赤也には可哀相なメンツを残したと思う。まあ真田は恐らく、具合が悪いのに気づかず怒鳴った事を赤也に謝りたくて残ったのだろうけど。幸村は念のための真田のストッパー係ってとこかな。 「……あっつ…俺もう無理…」 そろそろ赤也は目を覚ましただろうかと、私は隣を歩くジャッカルと話していると、先程から無言を決め込んでいた丸井が不意にそう呟いて、道路の真ん中にしゃがみ込んだ。引かれるぞ丸井。ジャッカルがおいおい大丈夫か、なんて丸井の肩に触れる。丸井はジャッカルの手を払い、無理、とだけ答えて無言を決め込んだ。…私達にどうしろと。私だって暑い。 この赤いのどうする。呆れて仁王に目配せすれば、彼も死にそうな顔をしていたから私は思わず噴き出した。そして爆笑した。そしたら仁王は私をラケットで撲殺しにかかったもんだからもう涙もんである。ジャッカルがそれを止めて事なきを得たが、畜生、全部丸井のせいだぞおい。 「早く立って歩けよ丸井いい!お前のせいで仁王が一般公開できない顔してる!修羅顔だよ修羅顔!」 「やかましいわ」 「ひいいい」 助けてジャッカル!私は慌てて彼の背中に隠れると、視線を私から丸井に移した仁王が、彼の前に立った。「ていうかブン太、お前さん引かれるぜよ」そうだそうだ。引かれるよ。私も仁王に続けば、丸井は別に良い…、なんて命を捨てるぜ発言をしやがる。だから見よう見真似の真田鉄拳でも食らわせてやろうとした瞬間。「じゃあ引かれろ。さよならじゃブン太」「どえええ!!」何だこの脆い絆!ていうか仁王、暑さで頭逝っちまったのかよ。なんてこったパンナコッタ。 一人でオーバーリアクションを取ってみたが、仁王はオール無視で既に数メートル先を歩いていた。ひでえ。残ったジャッカルはというと、ははは、なんて優しさなのか、乾いた笑いをエールにくれたのでめちゃくちゃ虚しくなった。あのなあ!気を使って笑うなら、全力でもっと満面の笑顔でお願いしたい!って、そんな事より仁王、ちょっと待ってよ。 「仁王マジで置いてくのこの人。引かれるかもよ」 「車くらいちゃんと避けるじゃろ、馬鹿じゃあるまいし」 「何その猫みたいな扱い。つーか丸井は馬鹿だよ」 「……」 「…仁王?」 「ブン太良い奴やったのにご愁傷様」 「見捨てたよこの人」 ていうか勝手に殺したよ。…ってあれおかしいぞ私がこんなにツッコミに徹するなんて…!あれか!丸井が死んだからかっ 私は未だに道路のど真ん中でうずくまる丸井をしばらく見ていたが、だんだんと暑さに耐え切れなくなって、私は仁王の後を追おうと歩き出した。 「丸井、もう知らないかんね、私――」 「させるかああ捕獲!」 「おおおま、ふざけ…っ足掴むなああああ!手を離せえええ!」 「お前も道連れにしてやるぜい」 「ついにトチ狂ったか丸井。どうしようジャッカル」 「お…おいブン太、もういい加減にしろ。アイス買っ、」 「マジで!よっしゃ!」 ジャッカルはまだアイス買うなんて言ってねえよ!なんて現金な奴なんだ…!私はいきなり立ち上がった丸井をじとりと見ていると、彼は私の腕を掴んだ。先程の脱力っぷりが嘘のようである。も行くだろい、ジャッカルの奢り。…いつの間にかジャッカルの奢りになっていやがる。なんて可哀相な。 しかしながら私は早く家でパソコンがやりたかったのでパスをした。案の定、丸井は何だよ付き合い悪ぃなと口を尖らせたのだが、今度は仁王を顧みる。 「んじゃ仁王は行くよな」 「俺もパス」 「はああ?何で」 「そうだよ、ちょっと仁王行ってきなよ」 「それこそなして?」 いや、最近君と一緒に帰るの抵抗あるんだよね、なんか。ほら、キスされてからさ、私の操が危ないじゃないか。いや緊張とかそういうんじゃなくて、純粋に怖いんだよ! 私は体全体から来るなオーラを仁王に向けて発する。すると彼はそんな見つめんでも一緒に帰っちゃる、なんて――頼んでねえよばあああか! 「なん、文句あるんか」 「大有りだよ」 「あんまり反抗的じゃとあの事言ってしまおうかのう」 「あ、あの事…!?」 まさか…っ………どうしようどの事か分からない。何か弱み握られてたっけ…。頭を抱えて悩む私に、丸井が何か思い当たらないみたいだぞなんて興味なさ気にガムを膨らました。なんて事だ…。しかし思い当たる事は三つ、バレたら死亡フラグ乱立ちレベル! 「…仁王っお前が言っているのは私が幸村の屋上庭園の花に思い切りおしるこを零した事か、それとも真田の歴史の教科書に載っている肖像画の全てにアフロ頭を書き足した事か、それとも丸井のポテチを粉々に砕いた事か…!」 「うおおおお前かああああ!!」 「しまった!丸井にバレた!」 「お前さん馬鹿じゃろつーかカマかけただけやのに見事にぺらぺら喋ってくれたの」 おのれ仁王…!謀ったな。え、私が勝手に勘違いを…?知るか私は帰る!くるりと踵を返して逃げるように走り出した私はお菓子関係になると俊敏になる丸井に捕まった。おい待てゴルァ、なんてガラ悪いよ丸井。これで許して。握りこぶしを丸井に突き出すと、彼はためないもなく手の平を向けた。「何、食いも、ってゴミ!」「あげるよそれー」「いらねえええ」仁王、逃げるぞとばかりに彼の手を掴んで走り去りながら私は叫んだ。丸井は私を睨みつけて地面にゴミをたたき付けたけどそれポイ捨てだぞ。別にどうでもいいけど。 「ばははーい丸井!」 「…てかお前ら結局一緒に帰んのかよ!」 後ろで丸井がそんな事を叫んだように聞こえたが、だってあまり仁王を邪険にするのも可哀相だし、弱みも握られちまったのでこれは仕方ないのである。 それに丸井は知らないかも知れないが仁王って、キレると怖いんだぞ。幸村みたいに腕を捻り潰そうとするんだぞ。…あれ、そういやさっき赤也も私の腕を…どうしよう腕もがれるフラグ! そんな事を考えながらひたすら走っていると、不意に仁王がクスクスと笑い出すもんだから、私は足を止めた。どうした。 「いや、何でもないぜよ」 何でもなくはないだろうが。そう思ったが、仁王は教えてくれる気はないらしい。何だか愉快そうに笑う彼は、ただ私の手を引いて歩くだけだった。 雑音かと思ったらえ?ぼくの心臓?嘘でしょ?? (何だよアイツら…前からあんなに仲良かったか?)(…さあ)(…面白くね。てかこのざわめき、何) まえ もくじ つぎ→ ---------- 今年最後の更新か。なんだかめちゃくちゃな話になった。 111231>>KAHO.A |