![]() 慣れない下駄をカラコロいわせて、私達は立海までの道をのんびりと歩く。待ち合わせ場所に着くと、すでにそこには男共が全員揃っていた。幸村は私の後ろにいる達を見て、ああ、さん達も誘ったんだと彼女達に微笑む。「それじゃあ行こうか」そう言って幸村は先頭を歩きだした。 ちなみに、相変わらず丸井はソノちゃんに敵意剥き出しで彼女から離れるようにして歩く。ソノちゃんは全然気にしてないようだったけどね。 「それにしても先輩が浴衣着てくるとは思わなかったッスよ」 「ソノちゃんに借りたの」 「へえー」 ニコニコして話しかけてくる赤也はもう本当に可愛い。赤也は、私に気を遣ってか何だか分かんないけど、似合ってますよ!なんてしきりに声をかけてきたから、私は、大丈夫、赤也が一番可愛いよと返しておいた。微妙な顔をされた。丸井も仁王も微妙な顔をしていた。ああん?文句あっかよ。 丸井達を睨みつつ、赤也の頭をわっしゃわっしゃと撫でていたら、不意に太鼓やら笛やら、賑やかな音が聞こえてきて、私はそちらに視線を移した。お祭りはずいぶん盛大にやっているようだ。 屋台が見えはじめると案の定、丸井はジャッカルの腕を引いて走り出した。早速奢らせるとかかわいそすぎる。 「、何食べる?」 「うーん、何があるんだっけ?久しぶり過ぎて忘れたわ」 「馬鹿ね。お祭りの最初はやっぱあんず飴に決まってんでしょ」 ソノちゃんは何から食べ始めるのか決まってるんだね。 あんず飴はあそこね!、と私からはどこにあるんだか全然見えないんだけど、ソノちゃんは目ざとく屋台を見つけたらしい。人混みを縫うように、ずんずんと先へ歩いていってしまう。は慌てて彼女の後を追ったが、私も着いていった方が良いのだろうか。 つーかぶっちゃけると、もう私疲れたし。帰りたい。人混みは嫌いだ。人混みが好きな人はあまりいないと思うけど、この人混みを我慢してまで祭に来ようと思えない。花火くらいなら見てやってもいいけどさ。 私は達が完全に見えなくなってから、ああ、これは追い掛けられないやとぽつりと呟いた。 先行っちゃったみたいだよ、私はそばにいた幸村達に声をかけたつもりで横を見たら全然知らない人だった。知らない人に話し掛けてしまった。 その人は、はい?なんて首を傾げる。誰アンタみたいな顔されても、そんなの私が聞きたい。 無償に泣きたくなった。恥ずかしいな私。人違いでしたさーせん。仲間全員に置いていかれて、それで知らない人にへらへら笑う私は最早間抜けでしかなかった。 時間が経つに連れてどんどん人が多くなる。 思わず舌打ちした。道に迷ったわけじゃないけど、皆とはぐれてしまったわけで、いやはや一体どうしたものか。 とりあえず、ソノちゃん達が歩いて行った方に進むか、と足を踏み出す。なんでこんな歩きづらいんだ。よくソノちゃんは進めたな。もしかしたらもはぐれてしまっているかもしれない。 周りを見回して皆を探していると、色んな人にぶつかって私は後ろによろける。そしたら案の定、背中が誰かにぶつかった。 「あ、すいませ、…何だ赤也か」 私の肩を押さえてよろついた体を支えてくれていたのは赤也だった。 彼は、俺じゃ駄目ッスかと不服そうに口を尖らせる。ああ可愛いいい。マジエクスタシーだよ。 拗ねんなよ、ごめんね。赤也で良かった。赤也が良かった。これで幸村とかだったら私泣いてるから。 「てか、あれ?赤也、皆は?」 「あー…何か俺もはぐれちゃったみたいで」 「ふうん」 「いやあ、つい屋台の方に一人で突っ走ってっちゃって。気づいたら皆居ませんでした」 お前は丸井か。後先考えずに行動するからはぐれるんだぞと彼の頭を小突いたら、先輩だってはぐれた癖に、なんて文句を垂れた。うるさいな。私のはあれだよ、えーと、そう。不可抗力だよ不可抗力。意味わかんないけど。 「ま、はぐれた者同士仲良く屋台回りましょうよ」 「えーもう十分楽しんだよ。私帰りたい」 「来たばっかッスよ」 赤也は、ほらかき氷!とか、わたあめ!とか食べ物ばっか指さして騒ぎ出す。はいはい、じゃあ一つくらい食べていこうかな。 とりあえず私達は、一番近くにあったわたあめ屋台の方にだらだらと歩いていくと、おじさんに、わたあめ下さいなあーと間延びした声を出す。だけど赤也はそれを見ているだけで、何かを買う気配はない。 「…あれ、赤也は買わないの?」 「え!?あ、…実は俺、今日金持ってきてなくて…」 「ジャッカルに奢らせるつもりだったのか」 「…まあ」 あははーとぎこちなく笑う赤也。しょうがないなあ。 赤也に聞こえるように、わざと大きくため息を零せば、私はおじさんにわたあめの追加を頼む。 「えええ!良いッスよ!男が奢ってもらうのはちょっと、格好がつかないっつーか」 「お金ない時点で格好ついてないから大丈夫」 「…すまんません」 「いーよ。はい」 わたあめを赤也に渡して、近くのベンチに彼を手招く。 だいたい、赤也は後輩なんだから良いんだよ、わたあめ安いし。わたあめをもぐもぐやりながら、そう言う私に、赤也はしゅんとした声で再び謝った。だから別に良いって。 「…てか私、わたあめって久しぶりに食べたわ。甘いんだね」 「そッスね」 「ところでさ」 「…何スか?」 赤也はこちらを見つめたから、私はわたあめを食べる手を止めた。浴衣という事も気にしないでだらしなく足を放り出し、空を見上げる。 「赤也、わざとはぐれたでしょ」 「え」 「だから、わざと皆とはぐれたんでしょ」 ちらりと、空から赤也に視線を移す。明らかに動揺している所から見て、どうやら図星みたいだ。ふよふよと視線をあちこちに泳がせている赤也は、きっと言い訳を考えている。しかししばらくすると、それは諦めたのか、不意に私と目を合わせた。 「どうして、」彼の口が開かれる。 「どうして…分かったんスか」 「理由は二つ。簡単な事だよ。一つ、私より早くはぐれたみたいな口ぶりだった割に、私がはぐれたことを知ってた。この時点で何となく赤也嘘ついてるなって思ってたけど。二つ、お金がないくせに赤也が一人で突っ走るなんて有り得ないから。仮に突っ走ったとしても、皆とはぐれるほど突っ走らないよ。お金なくて何も買えないんだから」 だいたい、真田がいるんだから赤也が隙を見て、自分からはぐれようとしない限り皆からははぐれないよ、アンタは。 さらりと言ってのけると、赤也の肩がガクンと、効果音がなりそうなくらい勢いよく落ちた。 「なんでアンタは変な所鋭いんスかあ…」 「別に、普通でしょ」 「……。じゃあ、…それなら!」 急に大声を出したかと思えば、私にずいずいっと顔を近づける赤也。そして、近づかれた分だけ後退する私。 え…何。何ですか。 「俺がはぐれた理由!」 「…は?」 「俺の嘘が分かったんなら、俺が皆からはぐれた理由も分かりますよね」 「知らない」 私が早口にそう答えると、赤也は大げさに「ええええ」と口を尖らせた。彼の言いたいことは分かるし、何故皆から自主的に離れたかも大体は想像がついている。しかしここでそれを答えたところで、面倒なことにしかならないことは目に見えているし、今の私が得するようなことは何もない。しかし、私の態度に納得がいっていない様子の赤也は、ぐぐぐ、と恨めし気に私を睨んだ。分かっているくせにと言いたげである。 「先輩といたかったからですよ!」 「へえ、ありがとう」 「…先輩、性格悪いですよ」 「何のことだか」 「先輩がその気なら俺も勝手にやらせてもらいますから」 一体何なんだ。何を言われても流しておけば問題ないと踏んでいた私の予想はどうやら大外れだったらしい。勝手にさせてもらうと宣言した彼は何と、するりと私の左手に自分の手を絡めたのである。色んな意味でどきりと心臓が跳ね上がる。 「離して」「嫌ッス」この野郎。どんなに振り払おうとしてもがっちりと捕まってしまった手は、どうにも外れそうにない。なんだか妙に焦った気持ちになり始めて、どうしようかと思案していると、そんな私を赤也が不敵に笑った。その彼の表情は、私がいつも可愛がる赤也の顔ではない。もっと、含みのある、人を引き付ける表情。 「あ、先輩が照れた」 「あほか。この私が?馬鹿言うな」 つい意地を張ってそんなことを言ったけれど。 どうしよう。なんか汗かいてきた。 誰か言ってよ (こんな感情嘘だって。気のせいだって)(面倒な感情はいらないから) まえ もくじ つぎ→ ---------- 赤也が好きすぎてつらい。 111107>>KAHO.A |