![]() 『7時にお金を持って立海に集合ね』 今日は誰も尋ねて来ない、と安堵の息を漏らした午後3時。 私は本日もツイッターで呟き明かすつもりで、朝からパソコンに向かい合っていたのだが、しかし、訪問者がいない代わりに幸村から電話があった。つまりそれが冒頭の台詞にあたる。 一体何事ですかと問おうとした私だったが、次の瞬間には電話は切られていて、結局何のために集合をかけられているのか聞けず仕舞いだ。 しばらく受話器を見つめていた私だったが、当然私の問い掛けについて返事が返ってくるわけでもなく、仕方なくそれを元に戻して代わりに携帯を開いた。 メールを送る先は誰でも良かったが、とりあえず一番最近登録した赤也に。『幸村から電話あった?』そう送れば速攻で返信が来る。『今ちょーど来たッスよ』ふうん。 彼に電話の詳細を聞いてみると、どうやら夏祭りがあるとかどうとかで、皆で行こうよみたいな話が幸村と丸井なんかの間で出たらしい。 何故、幸村は赤也に詳細を話して私には何も言わなかったんだ。 試しに赤也に送ってみれば『祭なんて言ったら、先輩めんどくさがって来ないっしょ』なんて返ってきて納得した。確かに行きたくない。 だけど赤也に来ないと部長が怒って五感がどうとか恐ろしいことを言われたのでよく考えもせず、すぐに承諾した。 それにしてもめんどくさい。 「夏祭りなんていつぶりだろうなあ」 呟いた言葉は一人きりのリビングにゆんらり溶けていって何となく切なくなった。改め家に一人ということに気づかされる。 無音なのが淋しく思えたので、しばらくテレビをつけて凝視していたが、私はふと、握りしめていた携帯を開いた。 かける先は一つである。 あ、二つ、かな。 ▼ 「あんたが夏祭りなんて意外ね」 私の浴衣姿を見てしみじみと言ったのはである。彼女の問いに、私はまあと曖昧に答えてへにゃりと笑った。 現在、私達はソノちゃんの家に来ていた。この浴衣はソノちゃんのものである。何だか成り行きで、彼女の浴衣を借りることになり、女子3人でめかし込んでいる。 あの後私が電話をかけたのはこの二人で、テニス部の事は伏せて夏祭りに行こうと誘ったのだった。何故テニス部の事は言わなかったのかというと、ソノちゃんが来なさそうだったからで。 「、どうせ幸村あたりに強制参加的で誘われたんでしょ」 だけど早速ソノちゃんにはバレているようだ。何だこの子。鋭いじゃないか。 バツが悪くなり、俯いて足を見つめていると、が驚いたように、え、そうだったの?なんて声を上げる。そうです騙してごめんなさい。 「だってが夏祭りとか有り得ないでしょ」 「テニス部に誘われたから行くっていうのも有り得ないよ。今まで誘われても、部に関係ないことだったら殆ど断ってたから」 「あーまあ、そうかもねえ」 「…へえ」 私の言葉を聞いて、意味深にソノちゃんは私を見てくる。だから私は見つめ返してみたら気持ち悪いとガチな顔していわれた。かなり傷ついた。 はというと、彼女も私を見ていたのだけれど、ソノちゃんの視線とは明らかに違うものだった。 どこか悲しそうな、でも少し怒りを含んでいるような。 の名前を呼ぶと、彼女はハッと顔を上げていつもの笑顔を見せた。 「え、何?」 「あ…いや、なんでもない、です」 その時、そろそろ出るよといつの間にかいなくなっていたソノちゃんの声が玄関の方から上がる。どうやらテニス部がいても彼女は夏祭りに行くようだ。良かった。 外に出ると、浴衣を着ている女の子達やら子供やらがちらほらと見えて、ああ大きなお祭りだからなあと、空を見上げる。少しだけ夏の夜の気配が感じられた私はフッと笑みを零した。 「変わったね、」 危うく聞き逃しそうになるくらいの小さな声がから発せられる。 彼女の方へ振り向けば、再び変わったねと、は微笑んだ。 「…あ、うん?」 素直に喜べない私がいる。 合宿の時は、あんなにに私の変化を知ってほしいと感じていたのに。いざ彼女に会ってみれば急に言葉が出てこなくなるのだ。 言いたくない、というより、言わせないという雰囲気が、から感じられた。 しかし今それが彼女の言葉と共に消えた。 それと同時にの台詞の一つ一つが自虐的に聞こえる。以前のレンヤの表情と重なった。 「、、何してんの」 「あ、ごめんごめん」 ソノちゃんに追いつこうと走り出すの後ろ姿を見つめた。 どうも彼女の表情がひっかかって、離れない。 プラスとマイナスのダンス (あんな顔の、初めて見た) まえ もくじ つぎ→ ---------- 土曜なのに学校が休みなことに感動。 さて、新しい事件の匂いですね。 今度はヒロインというより、友人よりの問題。 111104>>KAHO.A |