![]() がうんがうんと不安になるような音をたてて風を送っていた我が家の扇風機1号がついに壊れた。私が生まれるよりもずっとずっと前、確かお母さんが高校生の時から使われていたらしい扇風機だ。扇風機の寿命なんか知らないけど、そんな使ってるんだからいつ壊れてもおかしくないと思っていた。が、しかしこんな時に…、両親がいない時に壊れるとは。 もうこの扇風機はおじいちゃんだったのだろう。いや、おばあちゃんかもしれない。どっちでも良いけど。おじいちゃん扇風機昇天。ちーん。 おじいちゃんは稼動をやめて今まさに羽根が止まりそうだけど、辛うじて力無く回りつづけるそれを見ていたら妙に切なくなった。当たり前だ。私を涼しくしてくれる機械がもう、ない。 扇風機が完全に止まったのを見届けてから私はそれを蹴飛ばした。扇風機が倒れた拍子に、フタみたいなのが取れて、がらんがらんと耳障りな音を発する。そんな音を発するくらいならもっとハッスルして羽根を回してほしかった。…くだらない。 よしとりあえずアイス食べようと私は立ち上がるとその時インターホンが鳴った。「宅急便でーす」 私はハンコ片手にベタベタとフローリングを踏み鳴らす。はてはて田舎のおじいちゃんがさっき電話で言っていたスイカだろうか。今送ったからと言っていたがいくらなんでも早過ぎやしないか。そうか速達か。最近は瞬時にものが送れる時代になったのか素晴らしい。 笑顔でドアを開けた瞬間、見慣れたメンバーが視界に飛び込んできたから私はすぐにドアを閉めた。鍵もしっかりかける。何て言うことだ…!配達の人がアイツらに拉致された、だと…?!ばくばくとうるさい心臓をおさえてドアを見つめると、向こうから「えー何か閉められたんだけど」「照れてんだろい」なんてそんなわけあるか!「ていうか配達の人どうしたお前ら」私がそう問えば幸村が口を開いた。 「だってさ仁王」 「まさか仁王が宅配の人を殺、」 「宅急便でーす…ピヨ」 「お前かあああああ!」 ひでえよありえねえよ馬鹿じゃないのマヌケだよアホ!お前の母さんデベソ!詐欺だ詐欺!思い付く単語を並べられるだけ並べて罵ってみせると、ドアノブががちゃがちゃと勢いよく動きはじめる。ひいいい! 面白い事言うね、ちょっとここ開けて直に聞いてあげるよ。仁王に言ったつもりが何故か幸村がキレた。 そこからはひたすらに持久戦である。まあしかし私は家の中に閉じこもっていれば何も怖いことはないのだ。 そう思ってドアに用心深くチェーンをかける。その時ぴたりとドアノブの動きが止まった。恐る恐る玄関をインターホン用モニターに写すが案の定そこには誰もいない。 「…帰ったのか」 私は安堵してリビングに引き返す。案外あっさりと引き下がったことを疑問に思っていないと言えば嘘になるが、そういえば食べかけのアイスをリビングに置いてきたんだと私はその疑問を頭の隅に追いやって足を踏み出した。 「あーホント、いきなり押しかけて来るんだから私、」 「あーお邪魔してるよ」 「お前ら何故ここに。イリュージョンかイリュージョンなのか」 リビングのドアを開くと絶賛くつろぎ中の幸村と仁王と丸井と赤也がいて私は腰が抜けそうになった。この年でギックリ腰とかやだよ私。ていうか何で厄介なのしかいないの柳生はどこ助けて。 泣きそうになる私の目は、お前はこの家の人間ですかと問いたいほどにソファーで偉そうにしている仁王に向いた。殴っていいかな。一体どうやって中に。 「種は言わん方が夢があるじゃろ」 「おいこのアイス溶けてんぞ」 「種明かしとかいう問題じゃねえよもう君達完璧に不法侵入だからなそれええ」 窓の方に視線をやると皆の靴がそこにあったから多分ここから入ってきたんだと思う。窓が空いていたのは不覚だった。 揺れるカーテンを思い切り掴んで開けると、出て行けと目で訴える。母上達が帰ってくる前に出ていって。 「あれ、ご両親またトレジャーハントしに外国に行ってしばらく家には戻らないって聞いたけど」 「幸村それをどこで」 「ふざけただけなのに当たっちゃった」 「あああもう嫌だあああ!」 「天才的な夕飯作りに来てやろうか?」 「いらねえよ!」 最悪だ。何だよ天才的な夕飯て。 私はその場にしゃがみ込むと赤也が、先程私が蹴飛ばして倒した扇風機をいじりながら言った。 「これ何で壊れてるんスか」 「それはね、ついさっき昇天したんだよアーメン」 適当に十字を切ったらノリが良いのか何なのかそこにいた皆が扇風機に手を合わせた。アーメン。 ぞんざいに扱われるその理由 (そんなの使えないからに決まってる) 夏の記録へ もくじ つぎ→ ---------- こんなシチュが好きです。 ちなみに扇風機は調べた所、ちゃんと使えば30年くらいもつそうですよ。 111024>>KAHO.A |