夏の記録:37ゆらりと頭が通路の方へ傾き、座る彼女の体も釣られて不安定に揺れる。それを見つめていた俺は彼女が倒れる寸前の所で腕を捕まえて元の位置まで引き寄せた。倒れそうになった本人であるはというと、俺に掴まれた腕を見つめ、一瞬自分に何が起こったのか理解できていなさそうな顔をした。しかしそんな彼女はすぐに眉を寄せて俺を見る。ああだいじょーぶだって、そう言って俺の腕を振り払うの声は言わずもがなで最早覇気がない。「眠いなら寝ればいいだろう」 「うるさいなあ柳はあ」 重そうなまぶたを必死に持ち上げるは前に設置してあるテレビに目を向ける。確かが行きのバスで見たいと騒いでいたもので、わざわざ跡部に言って帰りのバスで見れるようにと手配させたらしい。 彼に申し訳なくなった。帰ったら幸村と共に詫びの電話でもいれておこうと思う。 そんな事は良いとして、しかしながら、俺からするとこのアニメは眠気と格闘して見る程、価値のあるものだとは思えないのだが。 どの辺りが具体的にいいのか試しに問うてみると彼女からは「猫型だと偽称してまで猫でありたいという想いが溢れたロボットと情けない男のハートフルストーリーを見ないなんて人間じゃない」と色々とズレた返事をされ俺は正直苦笑しか零れなかった。 (質問の答えになっていないし、そもそもこのアニメはそんな話だっただろうか) はそんな俺の反応が気に食わなかったのか余計不機嫌そうに口を尖らせた。ぐずるその姿はまさに小さな子供の様だ。 「いいじゃんべつにいいい」 「…」 やれやれと肩をすくませる俺は少し周りを伺ってみるが以外はあまりテレビには興味を示していないようだ。やはりたいしたものではないのだろう。殆どの部員は疲れが溜まっていたのか眠りこけている。 ただしレギュラーに関しては赤也は真田に先程から小言を言われ、ブン太は休むことなく何かしらを食べているし、そんな彼の話し相手になるジャッカルが寝れるはずもない。レギュラーで寝ていると言えばここからでは見えないが、恐らく仁王ぐらいではないか。 そこまで考えた所で隣のの頭がかくん、と俯く。なかなか起き上がらないところから見るにどうやら本当に寝た様だ。 安堵の息を漏らして再びが傾く前に、彼女の頭を引き寄せて自分の肩に乗せた。まあこれでしばらく静かになるだろう。 そう思った俺の考えは浅はかだったようで、後ろに座っていた赤也がひょこりと上から顔を出した。せんぱーい、って寝てる。携帯を構えながら落胆した赤也に、立つな危ないだろうと弦一郎の小言が再び始まるが赤也はさして気にしていない。 「も疲れているのだろう。この合宿中、色々な事があった。寝かしておいてやるべきだな」 「そうッスね。……つか、柳先輩ずるいッスよ」 「何の話だ」 赤也は俺の肩にが寄り掛かっている事について文句を垂れた。ああ、そんな事か。 俺はの体勢が辛そうであるからこうした事を告げるが、しかし赤也は相変わらず不服だと言わんばかりだった。そんなとき、ついに痺れを切らしたのか、弦一郎が一段階声を上げて一喝しに入った。 「赤也!何度言えば分かる、立ち上がるな馬鹿者が!」 「ちょ、別に良いじゃないスかこんくらい!」 「お前のそのような所が、!」 「何でも良いが二人とも黙ってくれが起きる」 慌てて口をつぐむ二人に息をついてからを伺うがどうやら起きる気配はないようだ。 俺はちゃんと席に座れと赤也に促していたが、何故かふいにその場に精市が現れた。彼も携帯を構えているが赤也と同じ理由ではなさそうだ。 「幸村までけしからんぞ。席に戻れ」 「その通りだ。何をしている精市」 「ちょっとくらい良いだろ」 何かを企むような笑顔を浮かべて精市が起こそうとしている行動というのは何となく予想がついた。次の瞬間、携帯からシャッターを切る音。何に使うつもりだと言おうとして、その前に精市が答えを告げる。「ちょっと脅す時にね」「笑顔で言う事ではないだろう」「あはは」赤也は先輩ご愁傷様、と呟き、本人はというと幸せそうに眠っているわけだから憐れで仕方がない。 その1時間後、立海に無事到着した俺達はを起こすのに30分以上費やす事となる。 普段は起こされたらすぐに起きるという彼女の話から、ただ本当に疲れていたのか、起きれなくなるくらい、精神的な部分がそれ程まで擦り減っていたのか、どちらにしてもとにかく俺達は合宿中の事をひたすらに反省するだけである。 「合宿お疲れ様、合宿も終わったことだし明日から3日間だけ休みをあげるよ。だけど、夏休みはそれだけだと思ってね」 消せないメモリー (ええええ三日!すくなっ)(文句あるの?ああ、そういえばさっきこんな写真撮ったんだけど)(私の寝顔…ってええええ最悪だあああ!) ←まえ もくじ 残りの夏休み編へ→ ---------- やっとおわったあああああああ! 111022>>KAHO.A |