夏の記録:35

「いやあ、なんかほんと、すいやせんでしたあ…」
「いや、気にせんで。さん悪くあらへんから」


4泊5日の合宿もあと1時間で終わりを迎えようとしているそんな時、私は幸村に首根っこを掴まれて合宿所中を巡らされていた。というか、主に迷惑をかけた奴らに謝りに行かされていた。ちなみに冒頭で私が謝ったのは白石君である。もうこれで謝るのは終わりかと思えばあと一人いるというから面倒で仕方がない。


「ほら次行くよ」
「えええいいじゃん!もう全体で謝ったじゃん!皆も許してくれてると思うよ私は!」
「俺は許してないよ」
「えええ私君に何もしてねえよ!?」
「うるさいなあ。ちょっと黙、あーいたいた、跡部。ちょっと、」


幸村に声をかけられて、あーん?と振り返った跡部は私の様子を見るなり何かを悟ったのか、口角を上げた。私はコイツのこういう所が嫌いだ。頭良さそうな顔してるし、空気も読める奴だということは最初から何となく気づいていたが、やはり、俺全部分かっちゃってるぜみたいな雰囲気はうざい。
幸村にぽいと投げ出された私は情けなくぺしょんと床に落ちる。跡部は、分かってる癖に、何か用があるのか?なんておかしそうに聞くもんだから、ねえよぶわあかと鼻で笑ってやった。頭にひじ鉄が落ちてきた。泣いた。


、早くして」
「…跡部迷惑かけてごめんね」
は?ごめんね?
ごめんなさい


こええよ幸村。同い年なんだからタメ口でよくない。フランクで私は好きだよ。…まあしかし、謝るのは跡部で最後だからこれで私の肩の荷が下りましたわけで。そろそろ帰りのバス来てくれてるんじゃないかと、早々に帰りたいアピールをすると、跡部が口を挟んだ。「まだ閉会式があるじゃねえか」そんな馬鹿な。
私は閉会式なんぞ出ないよ。は?そんなこと認めない?誰も君の許可なんか期待してないよ。


というわけで私は閉会式で跡部の話が始まった時点で会場を抜け出し、一人公衆電話に向かっていた。幸村にばれなくてホント良かったぜ。赤也にはバレて止められたけどね。
ああ、何故公衆電話に向かっているかについては、この合宿所が山奥で携帯が使えないからなんだ。私には不便すぎる。ハードな練習がぎっちりだったから公衆電話に近づくことさえ叶わず。跡部の所有地にかなり不釣り合いな公衆電話に触れるとちょっとばかし緊張した。なけなしの200円を入れる。(全財産200円とか、私…)


「…あ!もっしーだけど」
『え?誰』
「えええ!」
『冗談だって。何、合宿終わったの?』
「閉会式中抜けてきた」


受話器の向こうで彼女の笑う声が聞こえる。幸村君に怒られるよ?なんて、そんなのもう良いよ。慣れた。
それよりああ、の声、久しぶりでホッとするなあ。早くに会いたい。合宿中にあった事を話したい。私変われてる?って、聞きたい。


の声聞いたら何かニヤニヤしてきた」
『きっも』
酷いよ。私は早くと会いたいだけなのに」
『…』


急に向こうがしん、と静まり返った。私は?と声をかける。
早く喋らないと200円が切れてしまうよ。


『ねえ
「ん、何?」
『合宿、楽しかった?』
「え、全然?」
『…ぷ、あはは!何それ。つまり何かしらイザコザがあったのね』


良く分かったな流石さんだ。もうこんな合宿絶対来たくないね。5日間しかいなかったけど、私的には夏休み中いた気分だよ。近くの壁に額をぶつけて文句を垂れると、は、馬鹿ね、と呟いた。「夏はこれからでしょ」
彼女の言葉に私は空を見上げる。みんみんうるさい蝉も、真っ白な入道雲も、確かにやっと本調子って感じだ。


「…、あのね。私、立海好きだよ」
『うん。…知ってるよ』
も、幸村も真田も柳も仁王も柳生も丸井も赤也もジャッカルもソノちゃんも、皆、好きだよ」
『分かってる』
「皆のお陰でね、私変われてる気がする。…前の私とは違って、今は本当にアイツらが大事なんだよ」
『そっか』


話せる時間も限られていたから、私は家に着いたらまた連絡する、とだけ残して受話器を置いた。
閉会式が終わったらしい皆がぞろぞろと出てくる。


「あーこんなとこにいたのかよ」
「俺もサボりたかったぜよ」
「仁王君、」
「ピヨ」


彼らのやり取りに苦笑していると、隣に柳がやって来て、に電話していたのか?なんて彼にとっては分かりきった事を聞いてきたから私は、まあねと、丁度やってきたバスを顧みる。


「夏はこれからだね柳」
「そうだな」
「あとさ」
「なんだ」
「首痛いんだけど、」



これ完全に寝違えたわ
(…そうか。俺にはどうすることもできない)

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しょうもない感じに終わるのがマネジです。
111002>>KAHO.A