夏の記録:31

「へーくしょーん」


風邪引くこと承知で風呂上がりに髪も乾かさず外に出た私は、タオルでわっしゃわっしゃと髪を拭きながらくしゃみを一つ。パジャマで外をぶらついていたら跡部に怒られるだろうか。彼の呆れたような表情を思い浮かべると、何故か一緒に財前の顔が思い浮かんだ。うわああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい成仏してくださいいいしゃがみ込んで頭から財前の顔を消し去るが如く頭をぶんぶん振ると、ふいに、はははなんて笑い声が聞こえて、肩をびくつかせた私は思い切り後ろを振り向く。


さんて見てると面白いねんな」
「お、お前は……蔵石白ノ介…っ」
白石蔵ノ介や

そんなコントも早々に、私は宿舎へ逃げようとすると白石君は私を引き留めた。外だと風邪を引くからと食堂の中に連れられ私は渋々彼の後に続く。何だか跡部といい白石君といい、最近私は食堂で諭されるフラグが乱立ちしているんだが何故だろう。
遠慮がちに白石君の隣に腰を下ろすと、彼は嫌な笑みを浮かべる。「さんて財前と付きおうてたんやな」「ぎゃああああ


「見てましたか!そりゃ見てますよね外ですもんねオープンでしたからねあははははっ!」
さん落ち着いてや。嘘やって」
「…」
「からかってしもて堪忍な」
「…っ…ううう」
「…さん?
「うううう…しらいし、くん」


ぎゅううっとパジャマの裾を握りしめた私が彼の名前を呼ぶと、白石君は私の頭をぽんと叩いた。何や?って、まるで私が何を言うか分かっているような口調で微笑む。
あのね、白石君。私、おかしくなっちゃったみたいだ。今すごい動揺してる。財前の事もそうだけど、幸村達の事に対しても。自分が、どうしたいのか分からない。私が皆を突き放したけど、それで良かったのか分からないんだ。


「…俺な、この前も言ったけど、初めて会った時からさんって変わった子や思ってた」
貴方に言われたくないです
「ははっまあ聞いてや」
「…」
「一緒に過ごしてるうちにやっぱさんは人見知りが激しくて、何かに怯えてるんやなって気づいて。でもパッと見は分からん程うまく隠しとるけど」


当たってる。隠してばかりじゃ前に進めない気がして、私は小さく頷いた。白石君も、自分を認められる所が私の良いとこだって言ってくれたから。あの言葉には凄く救われた。私にも良いとこあるんだなって、それを見つけてくれる人がちゃんといるんだなって。


「俺や跡部君の名前をちゃんと呼ばんかったのも、俺らが一番怖かったから、やろ。防衛本能っちゅーか、うまく言えんけど」
「…」
「…」
「…そう、です。…白石君や跡部には、幸村に似た所があって、…鋭いっていうか、他の人以上に色んな事に気づくから…だから、」


私のこんな格好悪い所までばれちゃうんじゃないかと思って怖がってた。ふざけて、はぐらかして、それだけで白石君達をごまかせるとは思ってなかったけど、このままじゃどうにかなっちゃいそうだった。立海の皆は私の性格の事は知ってて一緒にいてくれるけど、他の学校の人はこんな性格を知ったら嫌がるんじゃないかって。でもそんなことなくて、受け入れてくれて、嬉しかったんだ。


「合宿が始まった時より、さん良い顔しとる」
「…え?」
「皆と関わって、せっかく良い風に変わったのに、このまま幸村君達とぎくしゃくしたままでええん?」


ふわりと微笑まれて、私はふよふよと視線を泳がせた。相変わらず綺麗な顔をして笑う人である。自分の醜さが浮き立つくらいに。
幸村達との事に関する答えは既に私の中にあったし、自分でもそうしないといけないって分かっていた。


「私…傷付くのが怖い」
「そら誰だってそう。でもな、今そうやってさんが苦しんでるのは幸村君達が好きやからやで?」
「…」
「幸村君達もさんいなくて寂しそうやったで」
「…わ、たし…」
「ん?」


私、変われてる…?
白石君を見つめると彼は確かに頷いた。だから弱い自分に負けたらあかん、そう言って彼は立ち上がる。そっか、良かった。顔を綻ばせた私はお礼を言って宿舎に戻ろうとしたが、白石君はそれを止めた。ちょうどええわ、彼が指さす方に視線を移すと私は硬直する。


「言いたいことぶちまけるんやで」


最後の最後まで綺麗な顔して去って言った白石君に、初めて人で無しと叫びたくなった。


「やあ


…何で、幸村が。




繋ぎ止めようとして
(でも怖かった)

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熱が出たりなんやりでぜんぜん書けなかった。
1100907>>KAHO.A