夏の記録:27返してください。私の感情返してください。 アイツらと一緒にいて、今までたくさん笑って、泣いて、怒って、でもそれは全部無駄な事だって分かった。苦しくて、ただでせさえ悪い視界を涙で滲ませた。 後ろの、遠くの方で誰かの呼ぶ声が聞こえる。きっと私を探してるんだと、何となく跡部の私を見るときにするあの飽きれ顔を思い出した。…ああ、怒ってるだろうな。私は立ち止まって振り返った。よくこの中を走ってきたもんだと思えるほどに暗闇に飲まれている。…もしかしたら、いや、もしかしなくても、幸村だって怒ってるに違いない。…なんて。 「…ばっかじゃないの。今更幸村とかどーでもいいわ」 涙を拭って歩きはじめた。もうどちらに歩いているかなんて分からなかった。ただ、後ろに私を呼ぶ声が聞こえたし、さっき、この雑木林の中に何故か柵のようなものがあって、それをよじ登ってきて、それっきり柵は見てないからそのまま真っすぐ歩いてきているのだとは思うけど。それにしても、跡部は雑木林に入ることを禁止していたけど何故だろう。柵があるって事は本当に入っちゃいけないって事を意味しているのか。だとしてもここで助けを待つ気は毛頭ない。 そして逃げるように一歩を踏み出した瞬間だった。地面を踏んだはずなのに、ない。地面が、ない。 「っ!?」 ホントに今更だが跡部がここに入るなと忠告した意味が分かった。何だよ、皆に切り捨てられて、そんで一人で勝手に逃げてきて、最終的に崖に落ちるとかもう最悪じゃない?馬鹿馬鹿しさも通り過ぎて笑えてくるよほんと。思わず苦笑した私だったが、その瞬間私を呼ぶ声が、今度ははっきりと近くで聞こえた。 「…真田がいる」 「馬鹿者!何しているのだ!!」 やっぱり怒鳴られた。間一髪で私の腕を掴んで落ちるのを阻止した真田は、真田の腕にぶら下がる私を怒鳴り付けた。私は謝らないけど。迷惑かけたし、こうやって助けてくれたことには感謝するし、悪かったとは思うけど、元を正せば全部コイツらのせいじゃないか。 「真田、離していいよ」 「何を言う!今引き上げるからな!」 「皆に会いたくないんだよ」 そう言ったがやっぱり真田が手を離すわけもなく、私を引き上げると逃げないようにと私の腕を掴んだ。最悪だ。そうしてしばらく黙っていると、真田はただ一言、戻るぞとだけ言って、私はしぶしぶ合宿所に戻ることになった。 合宿所には真田が連絡したのか、もう皆が集まっていて、皆に囲まれるような形になったから若干ビビりつつ頭を下げてみた。 「えーと…すいません、でした?」 「。お前俺様の話を聞いていなかったのか。ここには入るなっつたろうが」 「ごめん。そんな事どうでもいいと思えるほど腹が立ってたから」 私がこんな嫌味言うようになるなんて思わなかったなんて思いながら私はソノちゃんを視界に捕らえると、彼女の名前を呼んだ。ソノちゃんにお願いがあるんだけど。彼女は怪訝そうに眉を潜め、首を傾げた。まあソノちゃんにお願いというか、皆にお願いというか。 「ほんとに迷惑かけました。私はもう静かにしてる。でもひとつだけお願いしたいことがあるの」 「…何?」 私はちらりと立海の方に視線を移すと丸井や赤也が肩をびくりと震わせた。彼らがどんな反応しようと私の知ったことではないけど。 「他の所ならいくらでも手伝うから、だから私を立海の担当から外してください」 甘いだけの嘘は要らないよ (うん、いいよ) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 1100821>>KAHO.A |