夏の記録:25結局あの後すぐに夕飯の買い出しに行って、ちゃんと夕飯の準備が普通に出来るまで復活した。ちなみに買い出しは何故か付き添いで金ちゃんがついて来てくれて、跡部ちょんに内緒でお菓子をかったり、とりあえず楽しかったよ。金ちゃんの可愛さが改めて分かったしね。それでもやっぱり夕飯を食べる気にはならなかった。立海の所では食べ辛いし、かといって四天にお邪魔する気もなかった。だってそれって何かずるいじゃないか。今まで蔵石君に誘われても嫌がってきたわけだけど、立海に居づらくなったら四天に混ざるなんて。お菓子食べたからお腹も空いてないし。 部屋で一人で篭っていると、いきなり部屋のドアが開いて、何と跡部ちょんがズカズカと入ってきた。ってええええ!? 「おい、夕食の時間だぞ。早く来い」 「なな何でマネージャーの宿舎に!?」 「私が同伴だから」 跡部ちょんの後ろから出てきたのはソノちゃんである。彼女は腕を組んでどこか偉そうだ。ああ、何か跡部ちょんとソノちゃんって似てるかもしれない。跡部ちょんは直々に呼びに来てやったんだからさっさと来いだなんて大分上からものを言いなさる。私は行かないと返すとアーンなんて睨まれた。が、しかし私は怯まない。 「今日は沢山動いて疲れたんですあー眠い寝ますグー」 「てめえふざけてんのか。さっさと、」 「やだ」 「…」 「…だって、やなんだもん」 顔見たくない。そう言うと困ったように二人は顔を合わせてため息をつく。最高に面倒な女だな、跡部ちょんの言葉が大分胸に突き刺さった。ひでえ。でもだって仕方ないだろ。立海でも四天でも食べれないんだから!何、青学!?無理だよ誰とも話したことないんだからアウェーだろがい! 「なら氷帝で食えば良いだろうが」 「……やだ」 「…」 「…皆に迷惑かけると幸村に怒られる。怖い」 「今私達に迷惑かかってるけどね」 確かに。いやでも他校にお邪魔するのはちょっと。でも一人で食べるのはもっとやだ。そう言ったら仕方ないわねえとソノちゃんが肩をすくませた。「私ここでと食べるわ」「え?」やった! そんなこんなで跡部ちょんは食堂に戻り、私は宿舎でソノちゃんと彼女が食堂から持って来た夕飯を食べることになった。 それにしてもソノちゃんは食事中あまり喋らないお方なので非常に気まずい。現在進行系で。 「あの、ソノちゃ」 「丸井と何かあったでしょ」 ソノちゃんが喋った。しかし視線はしっかり器だ。私なんかイチミリも視界に入れてもらえちゃいない。私はなんて答えたら良いのか分からなかったから、黙っていると、丸井が切原に当たってたわよ、なんて味噌汁を啜った。ふうん。私はまだ夕飯に半分も手を付けていないのに、ソノちゃんはもう食べ終わったようで、今度はまっすぐ私を見つめた。 「照れるよ」 「アホ。真面目な話だからちゃんと聞け」 「…うええい」 「…はそうやって真面目な話から逃げる癖を直さないと駄目」 「そんなつもりは、」 「あるでしょ」 ある。 何かご飯食べる気も失せて、食べ終わってないけど食器を端に寄せた私はテーブルに額を打ち付けた。…で、直してどうなるんですか。 「アンタってホントに腹黒いわよね。馬鹿な振りも演技なんでしょ」 「えー…?」 「いや、演技ってか、馬鹿なのは元々なんだけど、馬鹿みたいに『うええ』とか言ってはぐらかすのは演技ね。まあアンタはそれ程自覚はないと思うけど。言うなればあれね、癖?今まで馬鹿な振りで逃げてばっかだったからそれが当たり前になって、演技がの素も同然になったわけよ」 「何か難しい話だね」 「簡単よ。要は逃げるなってこと」 今の話をどうまとめたらそうなるのか甚だ疑問であるが、私はなるほどな、と頷いて見せた。彼女は満足そうに頷く。そんで結局私はどうすれば良いのかな。答えは教えてもらえずにソノちゃんは食器を持って立ち上がった。自分の分は持ちなさいよと私の食器を指すソノちゃんの言う通りそれを持って、彼女に続く。 「で、どこいくの」 「食堂に決まってんでしょ。食器どうすんのよ」 「えええいいいいかないよ!私はいかない!まだ無理だ!」 丸井がいるじゃんか。 そう反抗してもソノちゃんがそれを許してくれるはずもなく、私はズルズルと腕を引かれて食堂に行くはめになった。 まあ食堂には思ったより人はいなくて、食堂に入ってきた私達には大して視線は集まらなかったし。 食器を片付けた私達はダラダラと外に出た。太陽がないから大分マシだが、しかしながら案の定蒸し暑い。ソノちゃんは飲み物見てくるわ、と向こうでぼやーっと光りを放っている自販を指差し走って行った。私はその場に取り残され、生温い風にさらわれる髪を押さえる。 「後で財前達にお礼言わないとな」 ぽつりと呟いてそこにしゃがんでいるとふいに誰かの話し声が聞こえてきて私は咄嗟に近くの壁に隠れた。え、何で私隠れたし! 食堂から外に出てきたのは赤也と仁王で、彼らは傍のベンチに腰掛けて持っていたラケットでラケッティングなんか始めた。練習が終わったのにご苦労な事である。聞かなきゃ良いのに、彼らの会話に耳をそばだてた。後悔するとも知らずに。 「…にしてもさっき丸井先輩荒れてましたねー」 「となんかあったんじゃろ」 「でーすよねー」 「って掴めん所あるしのう。ブン太が荒れんのもわかんなくもない」 「ははっ」 結局皆私のせいってわけか。私がいない所でこそこそと腹立たしい。テニス部はそういう奴らじゃないって思ってた私が間違ってたな。 ああ早くソノちゃん戻って来ないかな。 「つーか俺らがこうなったのって全部アイツのせいだと思いません」 「アイツ?ああ、んーまあ」 「マジ近寄んなって感じなんスけど」 「仕方ないじゃろ。立海と四天の担当なんやから」 立海と四天の担当。どう考えたって私の事なのは明白だ。ふうん。やっぱ私が邪魔と。一緒にいるだけで腹が立つと。気分が悪いと。…聞かなければよかった。 悔しさと悲しさと、せっかく落ち着いたはずの感情が燻り始める。財前達に申し訳ない気持ちでいっぱいで、惨めで悔しくて、唇を噛み締めた。 「俺らに近づくなっつーの」 「こら赤也。そういうのは思っても口に出すもんじゃないぜよ」 「だって嫌いなんスもん」 「赤也」 「へーい」 ――俺が先輩の事嫌いになるわけないじゃないッスか。 嘘つき。 信じるだけ無駄なことを、改めて感じた。アイツらに貰った希望なんか所詮嘘っぱちだったんだ。この世界に絶対はない。いつか裏切られるって分かってたのに。こんなに辛い思いをするって分かってたのに。自分を守る唯一の術であるエゴまで捨てて、アイツらの優しさに飛びついたけど、やっぱりエゴは捨てるべきじゃなかった。そんなこと初めから分かっていたのに。 「?どうしたの…なんで、泣いて、」 「ソノちゃ…」 飲み物を買って帰ってきたソノちゃんは私の顔を見て眉間にシワを寄せた。その時、赤也と仁王が私達の声に気づいたようで、こちらに振り向く。赤也と目が合うと、彼はしまったと少しバツが悪そうに視線を泳がせる。仁王もまずいと感じたのか、ハッと息を飲んでから私の腕を捕まえた。しかし私はそれを思い切り払う。 「触んないで」 「……」 「最低」 「、違う。お前さん誤解しとる、」 「はあ?今更言い訳とか笑えるわ」 「先輩!」 「やめてもう何も聞きたくない!突き放すなら何で信じろなんて言ったの!…私を傷つける人は皆大っ嫌い…っ!」 制止する声も無視して私は走り出した。 駆け出してすぐに足を捻っている事を思い出したが、痛むからといって足を止めるわけにはいかない。 跡部ちょんに入っちゃいけないと言われていた雑木林に足を踏み入れてしまったが、走りつづけた。いっそアイツらに出会う前まで戻れたら良いのに。 捻っていた足を更に捻って豪快にコケた私は顎やら肘やらを地面に強く打ち付ける。 「…もう、全部やめたいよ…」 呟いた言葉は誰に届くことなく暗闇に溶けていった。 夢を見ていただけなの (もう以外、誰も信じない) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- うまく書けないんだが。 1100817>>KAHO.A 131224 加筆修正 |