夏の記録:21「うえええ!」「うるせえ。良いから行け」 「あ痛ーっ!」 というわけで(どんなわけで)私は跡部ちょんに命令され施設内にある倉庫にやって来ていた。冒頭から何の情報も得られない事は一目瞭然だがそれでも話を進めようとする私は神だと思う。 え?何をしにって、懐中電灯を探しに。ついさっき私はキノコに跡部ちょんが呼んでる事を告げられ、昼間の部屋に来たわけだが、そこで彼は何て言ったと思う。 「ここは1時間後に停電する」 「わあ大変だあってえええええ!?WHY!?WHY!?」 「うるせえな」 「アウチ!…殴んなよ!」 私達は、そんなしょうもないやり取りをしてきたわけだ。私はもう大混乱で壁とか机に足やら頭やらぶつけて、あびゃびゃーとか叫んでみた。一通り慌て終わると(跡部ちょんは冷ややかな目で終わるのを待っていた)私は彼に向き直った。「私にどうしろと」 どうやら彼は懐中電灯を取ってきて皆に配るつもりでいるようである。そんでそれは誰が配るのかと言うと私なんだって。まあ跡部ちょんもやるみたいだが。 てか何だよ停電て。良く知らないけどここに電気を送っている所でちょっとした事故があって少しの間電気が止まるとか。ここ、今は予備電力使ってるらしいぜ。ついさっき施設内にその放送をして懐中電灯を配るまでは自室で待機とか言ってたけど、私も待機していいかな。スタンバりてええ。 頭をぐしゃぐしゃかいて薄暗い階段を下りていく。わー華やかな跡部グループの裏世界みたい。(なんて言ったら跡部ちょんに殴られるな、)(確実に、) 「お、懐中電灯発見」 何故か夕張メロンの箱に割と乱雑にしまい込まれた懐中電灯を一個取る。カチリ、試しにスイッチを押すと薄暗いこの部屋もまともに照らせていない。つっかえねええ夕張メロン!(に入った懐中電灯!)叫び終わると箱を抱えた。おも、重い。ざっと30個くらいありそうだが正直こんなに必要か甚だしく疑問だ。 まあ、また取りに来るよりはいいかと腹をくくると降りてきた階段を上りはじめる。 数段上った所で私は目を閉じふっと息をついて、開いた。が、おかしいことに真っ暗である。 「え、え、まさか私まだ目つぶってるのかな。だから周り暗いのかないやいやそんなわけあるかい、私の目は全開だよどどどうどうした」 パニックから立ち直るまでに数秒かかった。暗いところにいると目が慣れると言うがまったくの嘘っぱちだ。実際は物の配置すら微塵も掴めない。本当に、暗い。 そしてたった今さっきまで辛うじてついていた電気が消えたのだという見解に至る、私。 「停電か」 1時間後とか言わなかったっけ。残念ながら腕時計が見れない、暗くて。ちなみに、突然変異で小さくなった名探偵が持っている麻酔が打てる時計みたいに、生憎私のものはライトなんぞつかない。携帯は部屋でスタンバっている。ちくしょう。 とにかく動かないほうが良いだろうと踏んだ私は足元に箱を置こうと身を屈める。瞬間。 前につんのめる私の体がふわりと浮いた。わあ、ティンカーベル私飛べたよ。場違いなギャグもぶっ飛ばした時には既に腕やら足やらに痛みを感じている。 痛い、と呟く暇もなくバラバラと嫌な音を立てて何かが降ってきた。顔面にぶつかるぶつかる。質量材質から分析するに懐中電灯だ。 てか懐中電灯で足元なり時計なり照らせば良かったんじゃね。そんな事今更気づいたのは私だけの秘密にしよう。落ちたものは仕方がない。 「おーいてーよー。足くじいたよー」 しゅんと体育座りで助けを待っていると、階段の上の方でドアが開く音がした。 いやった!助けか!相手は懐中電灯を持ってない様で、手探りで落ちているそれを取ると相手を照らす。てっきり跡部ちょんかと思っていたがそうではなかった。 「…仁王、」 彼は私を視界に捕らえると微かに動揺したのが見て取れた。普段ポーカーフェースを決め込む彼だから微々たる変化だけど。仁王は言葉は発さずに懐中電灯を持つ私の腕を掴むと自分に引き寄せた。懐中電灯が手から落ちて明かりが消え、再び辺りは暗闇となる。 「…私、大丈夫だけど」 仁王がどんな表情をしてるかなんて分からなかったけど、心配してくれてるんだなって私は彼の背中をぽんと叩いた。大丈夫だよ、と私が言う。大きな音がしたから、嫌な予感がした、仁王はやっと口を開いた。 「階段から落ちたんか」 「みたいだね、はは」 「…あんま、心配かけなさんな」 「ごめん」 でも仁王こそ部屋で待機って言われただろうに。どうやら仁王は小坂田さんに私がいない事を聞いて探しにきたらしいけど。 しばらくすると跡部ちょんと樺地君が私達を探しに来て、私が怪我した事以外はなんら問題もなく、この停電騒動は幕を閉じた。 白い衝撃 (あ、財前)(聞きましたわ。階段から落ちるとか、ただでさえ雑用やる人少ないんやからそういうの止めてくれます?)(財前ってツンデレだね) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 「心配なら心配って言えばいいのに」 110619>>KAHO.A |