夏の記録:20

はてはて跡部ちょんは一体いつキャビアを出してくれるんだろう。いつもの庶民的な夕飯にもそもそと箸をつけていると、ふいに誰かが私の隣で止まったから顔を上げる。まっきんきんの頭してるなあ。反骨精神の塊っぽい。しばらくその少年と見つめ合っていると、向こうが照れて目を泳がせた。変な奴。


「何」
「いや、ってどんな奴かと思ってな」
「こんな奴です」
「おん」


何だコイツ。私は彼からご飯に目を戻して再び箸を動かす。さっさといなくなってほしい。人に見られてご飯とかやだ。てか早く幸村達来ないかな。バイキング形式で好きな物取って来て良いからって時間かかりすぎだ。ちらりと彼らのいる方を見るが戻って来る気配がない。箸を置いて、四天のジャージを着ている少年に向き直ると、彼はへらりと笑って見せた。


「忍足謙也や」
「聞いてねえよ、ぶわぁーか」
おま…何か絡みづらいやっちゃなあああ
「じゃあ絡むなし」


立海にはいないタイプだ。絡み方が分からないっつーかあれだよね、私のボケポジションが危うい気が。明らかな敵対心を放っていると、彼は逆に燃えてきた様で私と仲良くなる気満々である。迷惑なことこの上ない。何でこう最近中二病な奴らばっかに話し掛けられるんだろう。早くいなくなってくれることを願っていると、不意に慌ただしい足音と共に赤い髪の少年(決して丸井ではない)が突撃してきた。


もしや丸井ジュニア
「けーんーやー!白石が呼んどるでー。皆で一緒に夕飯食うんやて」
「ああ、金ちゃん。分かった分かった」


金ちゃんと言うらしい。丸井より数倍愛嬌がある。たまたまポケットに入っていた飴を彼に上げたら金ちゃんはキラキラした目でそれを受けとった。かわいいなおい。


「ねーちゃん良い奴やな!ワイ遠山金太郎言いますー。ねーちゃん名前はー?」
言いますー」
「ほなまたな!」


早速名前呼びか。馴れ馴れしい。が、許す。可愛いから。頭まっきんきんと金ちゃんが去っていくのを見届けていると、私の隣に誰かが腰を下ろした。ああ仁王お帰り。ほかのメンツも(ソノちゃんも)戻って来た様で、私の周りはあっという間に立海ゾーンとなった。


「何話してたんスか」
「んー?誰が?」
先輩、四天宝寺の奴らと話してたじゃないッスか」


ああ話してたけど、大した話じゃないよ。正直まともに話したの金ちゃんだけだし。皆より一足早くご飯を食べ終わった私は箸を置き四天の集まる席に視線を移す。また飯食おうって誘われたのかよ、と丸井が口を開いた。まさか。


「行かなくて良いのか」
「柳は行って欲しいの?」


頬杖をついて私は彼を見る。誘われたわけじゃないのに何でそんなこと聞くんだ。柳の返答を待っていると、彼が答える前に赤也がドンと机を叩いた。「俺は嫌ッスよ!」


「私だって嫌だよ、あんな学校」
「ふうん」


意味深に声を漏らしたのは幸村だった。俺はに合ってると思うけどなと呟く。えー、と赤也が口を尖らした。どうしたんだろう。こんなこと幸村が言うとは思わなかった。四天宝寺について話す度空気が悪くなるのはきのせいだろうか。

場を和ませようととりあえず仁王にちょっかい出すことにした。「このピーマン食べやがってくれてもいいよ」「いらん」うえええ。ちょっと仁王、ピーマンくらいトライしてみろよ。世界が360°変わるかもしれないだろ。もし変わったら「あのさん、」え?誰?


「…あ、昼のキノコ!
殴られたいんですか
「めっそうもない!私に構わず頑張ってりんぷん撒き散らしちゃってくださいでっ…!
キノコは胞子だろ馬鹿かアンタ
「うおおい敬語!キノコ君敬語!」
「…です」
「『…です』じゃねえよ今更遅せえかんなーお前分かっ、痛!
「うるさいよ


ごめん幸村。てへ。
おいそこのキノコ。嫌な顔で笑ってんじゃねえぞ。捻くれすぎだぞおい。笑ってませんよとか、その顔で言われたって説得力ねえからなあああちくしょおおお!


「何でも良いですけど、跡部さんが呼んでます」
「何でも良いとかふざけ、って…跡部ちょん?」
「『さっきの場所に来い』だそうです。じゃあ伝えましたから」
「え、だって7時にって言ったじゃん」
「そんなこと俺に言われても知りません」



…そうだけど、まだ6時なのに。




くつくつと煮詰まる感情は
(幸村部長、最近先輩、…)(言わなくても分かるよ。そうだね)

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色んなキャラを出しすぎて話しのまとまりがなくなった。いつもか。
正直言うと謙也の存在をすっかり忘れていました。なので慌ててこの話しに組み込むというね!
110612>>KAHO.A