夏の記録:19やっと四天宝寺の手伝いに一区切りついた私は立海のコートに行く前に休憩がてら跡部ちょん探しの度に出た。ついさっき氷帝のコートに顔を出してみたのだが、そこにはいなくて、近くに生えていた動くキノコに話かけてみたらシカトされた。そらそうか。キノコだもん。彼にできるのは胞子を散らすことだ。責めちゃいけない。結局、キノコの近くにいた背が高い子が跡部ちょんの居場所を教えてくれた。あれ、名前なんて言ったっけなあ。まあ良いや。 跡部ちょんはどうやら何かの調子がおかしくなったのを見に、何とか室に行ったらし、…どこだよそれ。今更ながら記憶力の悪さに幻滅する。私は仕方なくうろうろと適当に歩いているとふと、女の子を視界に捕らえた。 「あー」 「え…?」 「あー…」 「…あの、先輩、ですよね?」 「うん」 私の声にこちらを向いた女の子は長いみつあみを揺らして私にお辞儀した。えええ礼儀正しい。ところで名前、は、確か、…思い出した、竜崎さんだ。 彼女が持っている紙に視線を移しながら、どうしたのと聞いてみると、どうやら手塚とかいう人に頼まれて、跡部ちょんに備品貸し出しの紙を届けにきたらしい。 何かボールを借りたりしたら報告しないとなんだって。無くされたくないんじゃね。金持ちの癖に意外とセコい。 「で、何でここで止まってんの?」 「それが、あの…跡部先輩はここにいるらしいんですけど、中に入っていいのか…」 「ノックすりゃ大丈夫だよ」 「そ…そうですよね」 竜崎さんはドアに向き直るが一向にノックする気配がない。私も跡部ちょんに用があるからさっさとして欲しい。竜崎さんがやらないなら私がやるけど。 「けちんぼ跡部ちょーん」 「先輩…っノック!」 「いーのいーの」 ばーんとノックもせずに入った瞬間思い切り頭を掴まれたいたたたた。お前はノックって言葉知らねえのか、なんて跡部ちょんは私を睨んだから睨み返してやった。頭を潰されそうになったのは言うまでもないよね。ごめんね跡部ちょん。 「で、はどうでもいいとして、…お前はどうした竜崎」 「えええ、跡部ちょん、えええー…」 「あ、あの、これ手塚先輩からです」 「ああ、悪いな」 マジ二人して私無視とかないよ。竜崎さんは自分の用が終わると私と跡部ちょんに頭を下げて行っちゃうし。口を尖らせて跡部ちょんを見上げていたら彼は紙からちらりと目を私に移した。何かむかつく。村人もそうだったけど偉そうだ。 「は何の用だ」 「あー…それがですね」 実に言いにくい事なんだけど夕飯にキャビアを出して欲しいというか何と言うか。そこまで言うと、何故だなんて返される。理由言わないと駄目ですか。ああ当たり前ですか。そうですよね。 「いやあ、実はソノちゃんに合宿来たら高級なもの食べられる的なホラを吹きまして。跡部ちょん、何とか」 「面倒だ」 「えええーけちん坊さんだね。やーいけーち」 「お前殴られたいのか」 「さーせん」 ぷー。もういいもん。皆に言い触らしてやる。跡部ちょんはけちん坊さんでキャビアは独り占めする気だって。 交渉決裂に私は部屋から出ようとすると、跡部ちょんが、まあ待てと私を止めた。「叶えてやってもいいが条件がある」え、何。 「俺の言うことを一つ聞け」 「えええ」 「嫌なら良い」 「だって私逆立ちして牛乳なんて飲めないよ」 「誰がそんなことやれっつったよ」 ああ、違うの。何だ。 じゃあ何すかと壁にもたれ掛かって彼の返答を待つと、跡部ちょんは少し間を置いてから息を吐いた。あら、幸せが逃げるよ。 「まだ確定してねえから分からねえが、」 「うん。え?何が?」 「まあ、分かってから話す。とりあえず夜は俺に付き合え」 「…はい?」 何のこっちゃ。疑問に思いながらも特に支障はないから私は別にいいけど、と返した。一体何するんだろう。 「じゃあ7時にここに来い」 「あーい」 大変じゃないといいなあ。 早急に対処せよ (、皆で夜トランプしねえ?)(ごめん跡部と約束が)(…は?) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 110607>>KAHO.A |