夏の記録:16

「…ったく、いきなり掃除かよ」


雑巾で床を磨く私はまるで家政婦の気分だ。初日から何で私がここまでしなくちゃいけないんだ。ドリンク作れば良いんじゃなかったのか。てか掃除任されたの私だけだし。
ソノちゃんは夕飯の買い出しで青学臨時マネの、えー…と確か、そう!何とかさん達、…どうしよう。まるで名前覚えてない。ええと、あ、竜崎さんと小坂田さんだよ、思い出した。流石私。で、何だっけ?…あ、そうそう、そんな彼女達は私と違って普通にマネージャー仕事やってるし。

何で私が…なんてしくしくと廊下に倒れ込んでいると、不意に背中に何か乗っかっでででででで!いっ、痛!痛いっつってんだろうが。


「お、床が喋った。ホラーや」
「誰が床じゃい!お前人様の背中踏み付けといて何て奴だよ!」


キッと顔を上げると、目つき悪そうな緑のジャージを来た少年が私を見下ろしていた。え、てか誰?そう言う私に彼はこっちの台詞やと返してくる。


「まあ何でもええけど、ほら」
「え、ああすいません、はい」
何で雑巾渡すんやぼけえ
「いてっ」


え、だって手伝ってくれるんじゃないの掃除。誰が手伝うかって、えええ。ひっでええ。そうやって喜ばせといて突き落とすとかどうかと思うよ、うん。
え、何、勝手に喜んだって?ほらきた責任転換ー。


「あ、てか思い出した!お前立海のマネージャーやろ。確かとかなんとか」
「私も思い出したよ。君は後輩に罵られてた人だね
なんちゅー覚え方やねん


いやだってさ、先輩キモいっすわー、とか言われてんのにへらへらしてるし、え?M…?とか本気で思ったし。で、Mなんすか?M疑惑かかるならぜひ私とソノちゃんの「ちゃうわ」あ、あと丸井も隊員だったか「だからちゃうわ」なーんだ。


で、お前誰
「…、一氏ユウジ」
「…」
「…」
「…ぶ、」
何で笑った


いや、韻踏んでるなあと思ってさ。四天宝のひとうユウぶははははぃいででででっ!
思い切り抓られた私は慌てて笑いを堪える。いやでも仕方ないよね。どんだけ「じ」って言ってるの。学校の名前にも韻踏まれてるとか最早運命?運命的?


「あ!てか一氏ユウジって…毎 蹴 瑠 じゃん…っ!
「誰やそれ…ってうわ、抱き着くなや!」
「へぶっ」


ごろごろどんがっしゃーんとまさしく漫画のような音を出して転がる私は生まれて37回目の鼻血を出した。ホントかって?は、いや嘘だから。


「…おま、良い転びっぷりやなあ。お前みたいな奴初めてや。惚れ惚れするわ」
君みたいなの私も初めてだよ。ぜんっぜん惚れ惚れしないけどな


何だこの男。四天にはこんな奴が沢山いるのか。コイツらのマネージャーとか正直嫌だ。
一氏ユウジはさっきと打って変わってキラキラした目で私を見つめてくるから白石君の時同様に若干引いた。


「お前よくよく見るとオモロイ顔してんねんな」
てめえ喧嘩売ってんのか


彼は褒めてんや!とかボケにええ性格しとる!とかわけの分からない事を言っていて、私は鼻血を垂れ流しながら彼に腕を掴まれてるから鼻血も拭えないまま残念な状態で彼の話を聞いている。ちょ、ちょっと待って。せめて鼻血拭かせて。知り合いに見られたら何か勘違いさ「…お前らどうしたんだ」柳キター。


また拾い食いでもしたのか
「なにゆえーっ!なにゆえそうなるー!」


拾い食いなんて…拾い食いなんて一度しかしたことねえよ!どーん、とね。効果音。


「おうおう柳君やないか。この鼻血は俺が悪いんや。スマンな」
「…お前は一氏か」


私の鼻血はいつの間にか止まっていて、柳に渡されたティッシュで手についた血を拭って立ち上がると、急に柳に腕を引かれた。うおい。何だよ。
柳は世話をかけたなと一言言うと行くぞなんて私を一瞥した。あ、ああうん。
慌てて雑巾を持ち、何だか少しぴりぴりしている柳に戸惑いつつも、目つき悪い少年の方に向き直る。


「とりあえずじゃあね。何か印象的すぎて忘れられないよ君」
嘘つけ思い切り忘れとった癖に


苦笑した彼に、分かったよ、もう忘れない、と思うと続ける。嘘くさ、と呟いた。


「嘘じゃないよ。忘れないけど。えーと、で、名前何だっけ?
お前ホンマに死なすど。ユウジや。一氏ユウジ」


目つき悪いのに睨んでくるから余計怖くなったよ一氏君。とか言ったら怒られそうだから言わないけどね。


「あー…一氏君、また後で」
「ユウジでええぞ。じゃあな


誰も呼んで良いなんて言ってない。馴れ馴れしいなあとか思いながら彼に背を向けると、柳が掴んでいる私の腕に力を入れたから私は彼を見つめた。


「柳…?」
「…ん?何だ」


何か怒ってる?
とは何故か聞けなくて、首を振ると、柳はいつも見たく綺麗な顔をして微笑んで、掃除よりも俺達のサポートに入ってくれなんて言った。あれ、怒ってないし。私の勘違いか。


「ん、了解」




あー、沁みる。じわじわ。ぐさり。
(まざるよ、)(感情)(でも知らないふり)

←まえ もくじ つぎ→

----------

またまた凄いお久しぶりです。次の更新はいつでしょうか。
おそらく次は財前出てきます。
110430>>KAHO.A