夏の記録:15「ジングルベールジングルベールすっずがーなるー」「季節感丸で無視だね」 「うえ?」 蝉が本格的に活動を始めた8月某日。合宿所行きのバスに乗った私達は、というか私は自分の隣に幸村が平然と座っていることにかなり疑問を抱きながらも皆が少しでも涼しくなるようにジングルベルを歌ってやる。ま、冷房効いてて快適なんだけどさ。気にしたら負けだよ気にしたら。 「とりあえず、」 「うん?」 「ドラえもん見たいな」 「お前何しに来たの」 そんなものよりこれでも見てな、なんて幸村は私に紙を押し付ける。何か名前が沢山書いてあるけどこれは何。幸村の呪いの対象者とか?恐ろし…っ待って、私の名前は、 「ないよ。が他校生の名前を覚えられるように作ったから」 「へえ、」 いらん事をし、…いや、嬉しいですありがとう。 まあいいや、とりあえず笑えるような名前を探すことにしよう。 てか、何で名前がカタカナの奴おんねん。ひらがなはたまにいるけど。え、芸名なの?そうなの? 普通いないだろカタカナとか。外人なのかな。マイケルとか呼びたいな。私英語喋れねー。…あれ、てか、 「丸井ー」 「んー?」 名簿に目を這わせながら真後ろに座りお菓子を食べている丸井に声をかけると、彼は、何?と続けた。君の下の名前は何でしたっけ? 「は?…ブン太、だけど」 「キターカタカナ!今日から君マイケルね」 「え、何で?」 良いじゃん。あ、でもブン太の太がまさに和名な感じだよなあ。チッ面倒な名前つけやがって。そうだ!良いこと思い付いた。マイケルはマイケルでも漢字表記すればかっこよくね?!毎蹴瑠みたいな。うは、やべええ。 「あ、そういやジャッカルもカタカナじゃん」 「お、おう」 「うん」 「…」 「…うん」 「…」 「…あー…寝ていい?飽きた」 「勝手に寝ろ」 というわけで恐らくコンマ秒数で眠りについた私はそこから3時間ちょっとぐーすか寝させていただいて、長野だかなんだかの合宿所につくなり私はソノちゃんにたたき起こされた。 「さっさと起きなさいよこのグズ」 「ぐ…!?ソノちゃんひでええ!」 ぐすぐすと泣きまねをしながらダラダラとバスを降りると合宿所の馬鹿でかさに私はその場に立ち尽くした。 流石指ぱっちん。はっきり言って金の無駄遣い。 「あえて言わないけどさ、馬鹿だよね」 「言ってるじゃねえか、あえて」 まあいつも通りツッコミをいただいた私は満足して周りをキョロキョロ見回すと、氷帝を除く他校も丁度到着したようで個性的なオーラを放つ少年達がぞろぞろとバスから降りてきた。うわむさいな。 こりゃの美脚を納めたアルバムでも持ってくれば良かった。1週間弱、私の目は無事だろうか。早速ムリそうだ。助けて。 遠目に幸村と青学の手塚が挨拶的な何かをしているのを見つめながら私は一人黄昏れる。すると不意に肩を叩かれた。振り返るとそこには包帯男がいた。 「君、さんやろ」 「お前何故名前を」 「思いっきりジャージに書いてあるやろ。それに幸村君から聞いてるし」 お、なかなか絶妙なタイミングでのツッコミじゃないか。コイツできるな。んで、何か用ですか、そう尋ねると、幸村から私が四天の手伝いをすることになってると聞いたからその挨拶をしにきたらしい。ちょっと待て。私聞いてない。 「俺は白石蔵ノ介や」 「はあ、」 君の名前なんて聞いてねえよ、とか思いつつも適当に頷く。あー絶対名前忘れるし。まあいいよね。関わらなければ。四天の手伝いなんてソノちゃんに任せれば関わることもないし。 くあ、とひとつ欠伸をすると、早速名前を忘れた包帯男の何とか君は、少し呆れたように私を見つめる。つまり気まずい空気が流れた。 とりあえず何か言わねばと、私はあのーと口を開く。 「あーえー…その腕の包帯はギャグですか」 「え?…ああ、これはな、」 「あ、毒手でしょ。漫画で読んだことあります。恐ろしいね」 私の反応に、何とか君は一瞬目を見開いたが、すぐに演技っぽく表情を暗くして、視線を落とした。 そう、その通りや、実は毒手なんやでとか言いはじめたから若干引いた。うええ。 何だろう。イタいよこの人可哀相だよ。 後ずさりしながら彼を見つめた私は恐る恐る口を開く。 「…いや、…あの、冗談ですけど、貴方…まさか中二病…?」 「ああ冗談なん。扱い難いねんな、さんて」 何じゃコイツマジうぜえええ。 思わず舌打ちでビート刻んじゃったよ。チ、チチチッチチチチッみたいな。 「、何してるの」 急に幸村が私を呼んだ。どうやら開会式的なものが始まるらしい。 私は何とか君の方を一瞥してから会釈をすると、彼は一度ふわりと微笑んでからこれからよろしゅうな、なんて言った。なんか、フツーにカッコイイ人なんだなあとか思う。イタいけど。 仲良くなれそうな気がする。無意識のうちに、私は彼に小さく手を振っていた。 「あ、うん、じゃあまた後でね。白石君」 何だ。名前覚えてるじゃん私。 ぼんやりと指の隙間から世界を眺めて (やっぱ、どうせなら一緒に行こうよ)(そうやな) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- お久しぶりです。忙しくてなかなか執筆できません。 110417>>KAHO.A |