夏の記録:13

少し夏らしさも出てきた7月。
私はうだうだと部室の中でだらけていると、不意に誰かにぼこんと頭を叩かれて、仕方なく顔を上げた。


「何かね丸井君。構ってほしいのかな?」
「ちげーよ。仕事しろ仕事」
「よし丸井も一緒にサボタージュ」
「しねえよ」
うっわノリが悪ー。今のでかなり場がシラケたよ
あー元から盛り上がってなかったしな


ちょっとちょっと、丸井冷たくない?何もしかして私が皆を切り捨てた事まだ根に持ってんの?器の小さな奴だねホント。よし日誌に書いといてや「二人とも遅いよ」あ、幸村さん。
私は日誌を閉じて慌てて椅子から立ち上がった。仲直りしたとはいえ幸村が少し怖いというかね、ビンタしちゃったし。
赤也とも結局まだ距離が空いてるというか。
小さくため息をつくと幸村は淋しそうに笑ってまだ駄目?と問いかけた。


「まだ、俺が怖い?」


多分怖いのは永遠に直んねえよ。だって私一回頭をぐしゃって潰されかけた。うわグロッ
恐ろしいことを思い出した私はびくびくしながら幸村の顔色をうかがう。


「もう怒ってないのに」


苦笑した幸村に安堵した私は彼の頬にそっと触れた。それと同時に隣にいた丸井がガッと派手な音を立ててロッカーに衝突する。え、大丈夫?何でそんな挙動不振なの。まあいいや。いつものことだよね


「…幸村、ほっぺ痛かった?」


私がビンタしてしまった場所に触れて呟くと目を丸くしていた幸村がふっと微笑み頬に触れている私の手の上に自分の手を重ねる。大丈夫だよ、と答えられてかなり安心した。痛かったに決まってるだろ死んで償え、だしゃあああとか言いかねないからね。


「…俺先行くわ」


ふいにそう言ったのは丸井で、彼は私から目を逸らして部室を出て行ってしまった。邪魔したな、なんて捨て台詞みたいな言葉を残して。え、邪魔されたの私?てか何で不機嫌だったんだろう。んん?おかしいな。何もしてないのに何かちょっと罪悪感。

そろそろ行く?なんて私は幸村の頬から手を離そうとしたら彼はその手をギュッと握りしめたから私はドアに伸ばしかけた手を引っ込めた。うお、何か、ちょっと動悸が激しいぞ。どうした私。


「もう少し、このままじゃ駄目かい?」
「…え、幸村?」


何だこの手を繋いだカップルみたいな感じ。あああれ?何か恥ずかしいぞ。恥ずかしくなってきたぞ。
…ハッもしかして羞恥プレイ!?まさか、幸村に限ってそりゃねえよおお。
あれか、まさか頭を潰すのじゃ飽きたらず私の右手までを餌食にするのか。ぐしゃっと、うわグロッやべええグロい。グローバルワーミング。それは地球温暖化。あれ私英語で地球温暖化とか言ってちょっとカッコイイ?


お前って思考だだ漏れだよね
「うえええ!」
「流石に手までは潰さないから大丈夫だよ、フフ」
あのそれって頭を潰される可能性残ってますよね?幸村さん?
「そろそろ戻ろうか」


流されたー。解放された手をぷらぷら振りながらとりあえず頷いてみせる。
すると幸村は何故かドアを開ける前にそれをトンと叩いた。首を傾げてそれを見ていると幸村はクスリと口元を歪める。


「ブン太には悪いけど、そろそろ俺は本気出すから」
「…え、あの幸村?誰とお話してるの?ドア?ああドア
「負けるつもりはないよ」
無視ですか


口を尖らせて幸村を見つめていると、彼は私の方に向き直りドアノブに触れた。


「まだドアの前で立っているブン太に、だよ」
「え、立ち聞きですか。趣味悪い」
「まあもし俺がブン太の立場なら多分そうしてるし」
嘘です無茶苦茶良い趣味っすね!
「いや、むしろ邪魔しに入ってるかな」


全然話についていけねえ。どうしよう。私馬鹿なのかな。馬鹿なんだな。ジャージを翻して部室を出ていく幸村を見つめてため息をつく私は幸村の言う通り部室の前に立っていた丸井に視線を移す。


「幸村と勝負でもするの?」
「…」
「彼が相手なら勝ち目はないよ。引き下がりな」


慰めるつもりで彼の肩に手を載せるとまっすぐ見つめられて、私は体を硬直させた。あれ、ん?どうした私。


「諦めねえよ」


まあ穏便にすませばいいよ。じゃんけんとか。とりあえず私には無関係だからね。うんうん。
一人でそんなことを呟いていると、のばーか、なんて丸井に罵られた。




気づけよバカ
(俺がお前を好きな事に)

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おーいぇーイッツ宣戦布告。
110404>>KAHO.A