夏の記録:10今日学校行かない。つか行けない。殺される。布団に包まりながら呟いた私の言葉を両親が聞き入れてくれる事はなく、私はやっぱり今日もしっかり立海の校門をくぐった。マジ鬼だよ父様も母様も。 「お前の顔はデンジャラス!俺の時計はアンジェラス!」とか意味不明な事言われて家を追い出された私は非行に走る気満々で。つか父様の時計のメーカーがアンジェラスとかマジどうでもいい。 さて、1限目の授業は担任であるミスターの社会だったか。よしHRからレッツサボタージュ。いつまでも廊下にいたら暗殺されかねない。教室に鞄を放り出した私はそそくさと屋上へ足を向けた。 屋上の扉を押して空を見上げる。湿っぽく、でも少しひんやりした風が吹いて私は肩を落とした。雲行きが怪しい今日はここに長居は出来そうになかった。 ストンとコンクリートに腰を下ろし、することがないからぽかんと空を見上げているとふと誰かが私の隣に座った。…はい? 突然の事、ていうか屋上には私しかいないと思ってたし、バッと横を見ると仁王が空を見上げて、雨が降りそうじゃのと、呟いた。多分私に言ってるんだろうから、彼の存在に若干同様しつつもそうっすね、と答えてみる。すると仁王は少しだけ安心したような表情で、空から私に視線を移した。 「…に、仁王は、…」 「1限目国語でのう、あのやかんの授業なんよ」 かったるいからサボる。 聞いてもないのにそんなこと言った仁王はらしくなかった。 ふうんと呟いて携帯を開く。時刻はまだホームルームの始まる時間にもなっていなくて、ため息を漏らした私は再び曇天を見上げた。 「昨日、」 突然仁王が口を開いて、私は肩を揺らした。彼が口にしたのは今日学校に行きたくなかった要因でもある幸村の事だった。仁王は私が幸村をひっぱたいた事を知っていた。 「ブン太に聞いた」 「…幸村怒ってた?」 「さあ」 分かってる癖に。体育座りした自分の膝に顎を乗せる。仁王はそんな事気にしてるんか、と口元を歪める。 心臓がはねた。馬鹿じゃないの。気にするわけない。切り捨てた人達なんだから。 「……それより、皆私から距離を置いてるのに仁王は違うんだね」 「隣にいられんのが嫌なら俺はいなくなっちゃる」 そんなこと言ったくせに動こうとしない仁王は、多分私の返事を待ってるんだと思う。いてほしいかいてほしくないかの答えは出さずに、嫌い、と呟いた。 ぽつり、と雨が頬に当たる。 「皆嫌い。私を傷つける人は、嫌い」 自分で思っていることを言っただけなのに、まるでそうでないといけないと自分に言い聞かせているように聞こえた。それが悔しくて、知っとるよ、と馬鹿みたいに、今まで見せた事ないような切なそうな顔で笑った仁王にも腹が立って、頭に乗せられた手を振り払った。 「…」 「…そんな顔しないでよっ」 「…」 「…アンタ達のせいなんだからっ!アンタ達が私の、」 「…っ俺は、」 ぐっと腕を掴まれて、私は言葉を飲んだ。 仁王の手に力が篭る。私は何も言えなくて、彼の言葉を待つことしかできなかった。 「に嫌われるのが、怖い」 「…っ…はぁ…?」 何、それ。 仁王の手が私の手から離れて、彼は小さくすまんと呟いたのを、聞き逃さなかった。何で謝るの。そうは言えなかったんだけれども。 少しずつ雨脚が強くなり、私達の間にある沈黙を雨音が埋めていく。 ホームルーム開始の鐘が雨の中響いて、それに反応したのは仁王だった。 彼は、やっぱ戻るなりと立ち上がり、私は無意識に腕を掴んでそれを止めていた。 「…待って」 仁王は何も言わずに振り返り、私は彼を見上げた。酷く辛そうな表情をしていた。 「・・・行かないで、仁王」 自分の口から出た言葉に自身が驚いていた。 「・・・そばにいて」 自分のした事に後悔して、でも今更どうする事もできなくて、私はもう、擦り切れちゃいそうなくらい、限界にきていたのかもしれない。 空がこんなに白々しい事実をそっと誰かのせいにして (ええよ、いてほしいなら、)(いつまでも) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 仁王に時たま弱いところを見せられると良い。 立海マネジを始めるにあたって、こんな感じのシーンを書くことは何となく決めていたのですが、書き出す前の私の予想ではヒロインの隣にいるのは丸井か幸村でした。いやあ、変わるね。 110401>>KAHO.A |