夏の記録:07

「何で君がここにいんの?」
こっちの台詞だ。ここお前のクラスじゃねえだろ
「まあそうだね」


もしゃっと焼きそばパンにかじりついた私は我が物顔で隣に座るソノちゃんを見つめる。そこはが座る予定なのに。お前にやる席はねえ!なんて椅子を思い切り揺らしたらぶっ飛ばされたからとりあえずすぐにやめた。


「てかさあどこ」
「図書委員で今日はとご飯食べれないって」
「何…!?もしやお前がを…!?彼女をどこにやったぁあああどりゅあああ痛ー!」
図書委員っつってんだろ爆ぜろ
「少しくらい乗ろうよ、ねえお嬢さん」
「…」


シカトか。シカトですか。いいよ慣れてるよ。…あれ?慣れてるとか私淋しくない?
もそもそと焼きそばパンを食べて教室に戻ろうと立ち上がるとソノちゃんはふいに顔を上げて私を見つめた。噂というか、情報が回ってきたんだけど、と。


「切原赤也と喧嘩したの?」
「してないけど?」
「ふうん、したんだ」
いやいや今してないって言ったよね?


まあちょっと座りなさいよと、せっかくしまった椅子をソノちゃんは再び出して、私に勧めるから仕方なく腰を下ろす。
彼女はお茶をぐびぐび飲んでオッサンみたく机に「どふあーっ」とか息をつきながらペットボトルを机に置いたからちょっとギョッとした。オッサンだ。もう今までの可愛いソノちゃんはいない。つまり無我のオッサンだ。


誰が無我のオッサンじゃ、思考だだ漏れだぞゴルァ
「やっべええもうオッサンだよそれええ」


ケラケラ笑ってるとビンタを食らわされて私は椅子から転げ落ちた。真面目に聞きなさいと立たせてもらった私はしぶしぶ椅子に座り直す。


「てか情報が回ってきたとか流石不幸な会のボス
不幸の会ね。不幸な会とか可哀相な会でしかねえから」
「まあ名前変わったけどね」
「うるせええぇえあああほらもう脱線してく!」


一人で何盛り上がってんだろう。楽しそうだなあ。にへらと笑ってあげると笑うなキモいなんて言い放ちやがった。ひでえ!バッサリか!
真剣に聞いてよ!なんてヒスを起こしてるソノちゃんを落ち着かせようと背中をさすっていると、やめろと弾かれた。おま、人の優しさを…!
ぷくーっと頬を膨らます私に彼女はため息をついて、アンタがいけないのよ、なんて唐突にそう言った。はい?


「赤也の気持ちがよく分かるわ」
…何それエスパー?
「お前さあ、いい加減にしろよ」


本気で怒られたので私は口を尖らせて黙り込む。てか帰ってこないかな。早く帰ってこいよマジで。
てか、大体喧嘩の内容を全く知らないソノちゃんが赤也の気持ち分かるとか、…やっぱりエスパーでしかないだろうが。


「アンタの態度がいけないのよ。赤也の事考えてやんなよ」
「うええ、私はいつでも赤也の事考えてるよ。赤也萌え」
「そうじゃなくて!」


バンッと机を叩いたソノちゃんに私は頭をおさえる。周りから視線がチラチラ集まっていた。その中に幸村も当然いて、彼は怪訝そうな顔でコチラの様子を伺っている。(C組になんか来るんじゃなかったなあ)


「てかソノちゃんは私やテニス部がどうなろうと知ったこっちゃないんでしょー」


干渉するなよう、とそっぽを向く。それが彼女の怒りに触れたのか、しばらくソノちゃんは言葉を発しなくて、ちょっと不安になった私はソノちゃんが完全に沈黙した!とかふざけた瞬間、私は彼女にギロリと睨まれた。


「ハッキリ言うわ」
「うええ、」
「…アンタの、そういうとこがっ」
「う、ちょっソノちゃん!?」


ガッと胸倉を掴まれて引き寄せられる。(う、く苦し…っ)
え、これマジでやばいんでねえの?ソノちゃんと喧嘩した、あの日よりやばいかもしれない。どうしよう、情緒不安なのかも。おしるこ持ってきて和やかに会話した方が良いかも。そうだ、そうしよう。彼女に手を離すように言うとふざけんなと怒鳴り散らされた。


「そういうのやめて」
「…皆『そういうの』って言うけど、私にはどのことか全く分かりませんね」
「そうやって逃げてることを言ってんのよ!」
「…そりゃ逃げるよ」


エゴだもん。
開き直ってやった。皆だって知ってるでしょ?それでも私と一緒にいてくれるって言うから一緒にいるんだよ。嫌なら君らの前から消える。
ソノちゃんはそれじゃ後悔するよ、と呟いた。は?後悔?


「アンタ、テニス部の奴ら好きじゃん」
「好きだよ。嫌いだったら一緒にいない」
「そういう意味じゃないわよ」


アイツらの前じゃ、自分のエゴが通用してないことくらい、気づいてるでしょ?
その意味が分かる?そう問われた私は思わず舌打ち。


「…ああ、めんどくさいな…」
「…っ」


そう呟いた瞬間、パンと渇いた音が響いて、それと同時に頬に痛みが走っていた。ぶたれたのだと分かったの数秒してから。頬をおさえてソノちゃんを見つめていると、バタバタと足音が聞こえて、それから誰かが私を呼んだ、否、真田だった。どうやら揉め事が起きたと誰かが真田に報告したのだろう。仁王や丸井までもが集まって来る始末だ。


「…そんな、大した事じゃないのに皆集まって、」


目立つのは好きじゃないよと苦笑した私は頭をかいてため息をつくと、幸村が近づいてきて、私とソノちゃんの間に割って入った。…おおう、私睨まれてる?
へらっと笑いながら私は、穏やかに行こうよ幸村さんなんて言うと彼は言った。「気が変わったよ」…え?


の好きにするといい」
「…ゆ、幸村?」
「お前のその性格を直してやろうと思ったけど、お節介みたいだね」


大分上から目線だと思う。幸村が何を言いたいのかよく理解できなくて、少し眉をひそめて彼を見つめると、幸村は睨みつけるように、私を見つめ返した。


「無理にマネージャーをさせて、悪かった」
「…は、何、」
「俺達を切り捨てるつもりだったんだろ?あの時に」


あの時とは、多分屋上で倒れた時の事だと思う。
そう、こんなエゴの塊だって知られたら、幸村達は軽蔑するだろうと、…彼らを切り捨てるしかないと思った。実際は幸村の言葉で、もう少し一緒にいるつもりだったんだけど。


「切り捨てて良いよ」
「おい、幸村何を言って…、」
「真田は黙って」


俺達の存在がを苦しめてるなら、面倒ならもう良い。エゴで自分を守りつづければ良いよ、と微笑んだ幸村に、私は一瞬、目の前が真っ暗になった。
息苦しい。その場から逃げ出したくなって、でも足が動かなくて、震える手を握りしめた。


「…じゃあ、切り捨てるよ」


私には、がいれば十分なんだ。

何でお前はいつもそうなんだよ…!と丸井が悔しそうに言ったその言葉が、やけに耳に残った。




あちらにこちらに角が立つ
(でも、本当にそれで自分が守れるんだね?)

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なかなか上手くいかないのが立海マネジ。
ってか合宿前にこんな調子でいいんだろうかー。
110326>>KAHO.A