夏の記録:06全然本の内容が頭に入って来ない。「…ああだめだ」 「どうした、」 図書室で柳に薦められた本をめくることすら放棄して、机に伏せた頭を本でポンと叩いたのは柳で、私が顔を上げると彼は苦笑して、私の隣の席の椅子を引いた。 本を閉じた私は頬杖をついて昨日の話を少しだけ話してみた。 あの感じ悪い赤也は一体何なんだろう。気になって気になって、仕方がない。 「…今までにない感じ。何か嫌だ」 膨れて机に顎を乗せる。こういう感情を何て言うんだろう。何かこう、ムカつく、というか、ん?…ムカつく?あれ? 「…私、赤也に、ムカついてる?」 自分で口にした後にすぐ否定した。有り得ない。だって、エゴで固めたはずだ。 私は無駄な感情は抱かない位置にいたはず。だから、有り得ないのだ。それにこんな感情、中学に入って今の今までに抱いた事なかった。 先程から黙っている柳の方に視線を移す。彼は視線を私を、少しだけ悲しそうな表情で見つめていた。どこかで見たことがある。 「…昨日、仁王もそんな顔した」 「…そうか」 何でそんな顔するんだ。分かんない。 分からない事だらけだ。何で赤也があんな態度を取るのか、そして私のこの赤也に対しての感情、柳達の表情。ああ、面倒。 そう思うことは多分、酷い事なんだろうけど。 「赤也に関してその感情を抱く事は、お前にとって、いい傾向に違いない」 「…え?意味がよく、」 「そして俺と、恐らく仁王は、その感情を抱く対象が、」 そこまで言いかけて、柳はすぐ言葉を濁した。ずるいじゃないか。だったら初めから言わないで欲しい。 …別に、もうなんだって良いけど。唸った私は立ち上がると、柳が何故か、私に謝った。はい? 「う、うええ?大丈夫だけど、柳?」 「いや、もう行った方がいい。授業が始まる」 それは貴方も同じ事でしょうが。 しかし柳はそこから動こうとしなかったから私は一人で図書室を出ていく事にした。 ふと、視線を感じる。顔を上げると赤也が少し驚いたような表情で私を見つめていた。 「赤也」 何で赤也がここに。 だってこの階は三年の階で、…ああ、また幸村とかに話があったのか。 何かもう、どうでもいいや。 ため息をつき、赤也の横を通り過ぎようとした、その時、俺が悪いなんて、思いませんからなんて赤也が呟いたのを聞き逃さなかった。 「ふうん」 赤也は既に、いや、最初から、私が切り捨てようとしている対象になっていたのかもしれない。 一番最初に懐いてきて、慕ってきて、可愛がった、やっかいな後輩だ。でも今更何を言われようが、どうだっていい。 「そう思うなら、それでいいよ」 「…っ何で…、何でアンタはそうなんスか!」 −何故お前はそうなのだ− 真田に同じ事言われたなあ。もはや他人事に感じる。 大体「何でそうなんスか」と言われても、どのことを言われてるのか全く分からない。 「…もう、嫌ッスよ!」 「何が嫌か私にはよく分かんない」 何でそんなに悲しそうな顔をするのかも。 皆言葉を濁すんだ。はっきり言わないで、それで理解されないからって勝手に怒ってく。いい加減にしてほしい。 「…避けないで下さいよ」 「避けてるのは赤也の方で、私は避けてない」 違うっ、と赤也は唇を噛み締めた。これ以上彼を逆撫でしない方がいい事を悟った私は、授業始まっちゃうよ?と感情を殺していつものように言葉を紡ぐ。赤也は黙って俯いたままだったから、彼に背を向けて歩きだした。 しかしそれは叶わなかった。壁に押し付けられた私は、思わず持っていた本を落とす。 「ちょっと、あか、」 「俺をちゃんと見ろよ!」 そう言った赤也が一瞬、の弟であるレンヤと重なって、私は目を伏せた。 放棄したらきっと終わる、そんな気がしてる (もう、無理なんだ)(一緒にいるなんて、) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 赤也って私が書く話だと一番かわいそうなポジションなんですよね。 110325>>KAHO.A |