春の記録:18「!…面貸しなっ」A組に男らしい女の子の声が響き渡る。告白のために私を呼び出すとかなんて非日常。うきうきしながら廊下に出ようとしたら真田に止められた。行かないほうがいい。え?何で?もう一度廊下を見ると私を呼び出したのはなんとソノちゃんだった。彼女なら平気だよと真田に伝えると渋々私の手を離した。 「なあに」 「相変わらず腑抜けてるわ」 「う、うえ、えええ」 とりあえず、ついてきてなんて言われて連れてこられたのは屋上で1限目の本鈴が鳴ったのにも関わらず彼女はその場に腰を下ろした。 「まず聞くわ」 「はあ」 「…その返事むかつくからやめて。もっと他のシャキッとしたの」 「は、はあ…あ、違ったうえええ…い、いえっさ!」 「馬鹿にしてんの?」 「馬鹿にしてますん!」 噛んだ。馬鹿にしてる、と殴られた私はとりあえずジャンピング土下座したら今度は投げ飛ばされた。何この子何でこんなにアクティブなの。こんなツッコミ初めてだよ。 「ホント、アンタといると話が進まないから、私が大人になることにする」 「ありがてえ」 「…」 睨まれた。うええ何でだ。もういい、喋らない。しょぼしょぼしながら正座から体育座りに変えると彼女は口を開いた。 「は、私の演技に気づいてたの?最初から」 「…」 「ねえ、」 「気づいてたよ」 だから君の事は一番信用してなかった、早口に言ってしまうと彼女は黙り込んだ。 それもエゴ?彼女は私を見つめる。「その嘘はエゴなの?」 「…言ったらエゴじゃなくなる」 「つまり今エゴじゃなくなったわね」 「なんてこった」 「馬鹿だろお前、なあ」 いや、違うんだ、私は最初から知ってた、なんていくら嘘ついても彼女は信用していなさそうだった。 「それと、何で丸井から私を庇ったの」 聞いたわ、アンタ丸井と絶縁中なんでしょ?なんて続けたソノちゃんは、ポケットに入れていたらしい飴を口に放り込みガリガリやっている。いいなあと呟いてみたらあげないって返された。うええ。 「庇わなくて良かった」 「…え、ソノちゃんまさかM…!?そうなんですかっ」 「ちげえよ。勝手にM疑惑かけんな」 「ああ、実は私もM疑惑かけられてるんだ」 「仲間意識すんなよ」 えええ、M疑惑かけられてる者同士頑張りましょうと背中を叩いてやると振り払われた。傷付いた。私にM疑惑かけてんのは君だけだからねって、確かに…! 「もう何でも良いけどさあ、…私もうアンタの邪魔しないから」 ごめん、と小さく呟かれた言葉を私は聞き逃さなかった。よく分からないけど、こう、胸があったかくなった。まただ、なんだこれ。気持ち悪い。 「それでね、私色々考えたんだ。よくよく考えるとテニス部キャラ濃くない?」 「とんでもなく今更ですね」 「つまり、私とテニス部じゃ釣り合わないのよ。アイツらじゃ全然駄目」 つまりはどこに係っているのかよく分からなかったけどとりあえず、はあ、…じゃなかった。いえっさと答えてみせる。 スルーされた。 「私はもっと普通にカッコイイのをゲットしたいあんな化け物嫌よ」 「いえっさ」 「…」 「…え?あ、いえっさ」 「それでね」 「流された」 もういいの。気にしてないよ、うんうん。いじけながら彼女の話に耳を傾けていると、ソノちゃんは、私アンタの事はまだ嫌いよ、なんて言ったから私はえええと彼女を見る。うえええ。 「邪魔はしないけど、嫌い」 「…う…いえっさ…」 「だからね、アンタが困るの見るのが楽しいわけ」 「はいキタS疑惑ー」 「もういいから」 「そうですか」 テニス部と付き合うとか絶対お先真っ暗じゃない?ってか、波瀾万丈よね、と苦笑したソノちゃんは、だからと続けた。コチラとしては何を言い出すのかハラハラである。 「アンタがテニス部と付き合いなさい」 「…」 「それで困りなさい。お先真っ暗になればいい」 「……ぽげえ」 なんて事言い出すんだこの子は。私が不幸になればいいと。私かわいそすぎる。そして疫病神扱いのテニス部かわいそすぎる。 「まあテニス部のレギュラーの中だったらどれでも良いわ。より取り見取りよ」 「より取り見取りですか8人しかいないよ」 「8人いれば十分でしょ」 …。 黙る私に彼女は私としては仁王雅治か丸井ブン太か切原赤也、いわゆるプリガムレッドがオススメよ、なんて推された。なんだコイツ。 「この3人とか付き合うの大変だろうなあ。仁王は気まぐれ、丸井は浮気っぽそう、赤也は馬鹿。まあどれもわがままね」 「…え、…赤也のはちょっと可哀相では…」 いや他のも十分可哀相だけどさ。 どうしていいか分からない展開に、彼女は更に一枚の紙を取り出した。何か名前がズラズラ書かれていますがこれは? 「派閥よ」 「派閥…」 アンタとテニス部がどうなるか気にしてる人結構いたみたいなのよね、って、そうですか。 「それでね、が不幸になるのを見守る会を作ったわけ略して「不幸の会」!」 「嫌な略し方だな」 「アンタが誰とくっつけば良いかで派閥に別れたから。ほら例えばこれが幸村派閥」 「ほんとどうでもいいよ何なの君」 私がツッコミに徹したくなる人間なんて初めてだ。 「とりあえず、恋愛相談で困った事があったら言って。まあそこら辺の女子生徒に声かけても相談乗ると思うよ」 女子生徒の殆どが会員だからなんて爽やかな笑顔を振り撒いたソノちゃんは私をおいて屋上を出ていってしまった。え、じゃあはどうなんだろう。授業終了の鐘に耳を傾けながら私は小さくため息をついた。 そしてその場に残ったのは、飴のゴミと春の花粉と、 小さな非日常。 来たれ、暴君! (サヨナラ日常、こんにちは非日常) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- やっとこかまできたか。 まあこんな感じでソノちゃんと仲良くなりました。 110315>>KAHO.A |