春の記録:14

チャイムが鳴り響き思わず私は足を止めた。一度来た道を振り返るがすぐに前に向き直る。今更戻っても先生にどやされるだけだし、確か1限目はやかん先生の授業だった気がする。怒られるにしてもやかん貰うだけだ。幸村にあげればいい。
再び走り出した私は少しだけドアが空いていた空き教室をゆっくり開けた。


「えーあーソノちゃんさん」


私が声をかけると俯いていたソノちゃんがバッと顔を上げて私を睨みつけた。何で来たのよ、と。何で来たのよと言われましても。
まさかそんな事言われるとは思わなくてオロオロしていると彼女は私に近づき、突き飛ばすように私を壁に押し付けた。


「アンタどうせ、ざまあみろとか思ってんでしょ」
「…は?」
「私が丸井にあんな事言われて、」


あれ、あなたさっきまで丸井の事君付けしてませんでしたっけ?私の目の前にいる彼女は先程とは打って変わって、目つきも雰囲気も鋭い。まあ大体こんなことだろうとは思っていましたけども。。


「よくも私に惨めな思いさせたな」
「いっ…痛いっすソノちゃん」
「知らないわよ!」
知らないですか。ですよねすいません


掴まれた腕が悲鳴を上げているよ。痛いよ。そう言ったら更に怒らせたようで何と私はひっぱたかれてしまった。世にいうビンタというやつだ。初めてされた。感動…!ドラマと漫画でしか有り得ないと思ってた!これはアレだね、アレ言うべきだよね。


「な、殴ったね…!親父にもぶくっ


最後まで言わせてよ!てか今度は殴られたし!「馬鹿にしてんの!?」なんてどうして丸井と言い、君と言いそんなにイラついているのかいまいち分からないんだが…。
きょとんとソノちゃんを見つめていると、彼女は余裕ぶっているところが余計にムカつくと、どうしようもないことを言いなさる。この顔を元からです。

「電波装ってかわいこぶってるつもり?全然可愛くないんですけど、気持ち悪いんですけど」
「え、誰が?そんな子私の知り合いでいたかな…」
流れ的にてめえだろ
「ああ、私か。…ってえええ私かわいこぶってませんけど」


そう答えたらガンッと再び壁に押し付けられて後頭部を強打した。痛い。ちょ、頭くらくらしてきたよお嬢さん。つか首苦しい。


「あのさあ、そういう喋り方とかウザイ。それをかわいこぶってるっつってるの」
「えええ…ボケさせてくれない上に存在否定ですか。つまり私のアイディンテ、噛んじゃったよ何だよアイディンテティーて笑える」
あああお前もう喋んな。脱線する


私の胸倉を掴む手が少し緩んだからここぞとばかりに腕を振り払って離れた。ソノちゃんは舌打ち。やば、悪徳みたいでカッコイイよ。


「可愛くない奴がかわいこぶるのマジ許せない」
「あ、分かりますよ」
同調されたし。何だしお前


お前の事言ってんだよばーかってえええ。マジでか。だから私かわいこぶってないというのに。今更気づいてしまったんですけも、この子お話しするのがとても疲れる。へなへなと座り込むと蹴飛ばされて、抵抗する気にもならなかったので、そのまま流れに任せて私はころころ転がっていった。「さよおおならああああ」「おい待てコラ」逃がしてはくれなかった。


「…こんな奴が、何で幸村達に好かれてんのか意味分からないわ」
「…はあ、ところでソノちゃんは何がしたいの?私とお友達になりたいの?」
ちげえーよ馬鹿!なんであんたと友達になんなきゃいけないんだよ!
「あれ、違ったの…!?びっくり」
「むしろそうだと思ったあんたにびっくりだわ!」


彼女は床に正座したままの私に視線を合わせるようにしゃがむと、不敵に笑った。「簡単に言えばあんた、邪魔なんだわ」と。どうやら私の位置が欲しいらしい。ああ、そういえば前にもそんな子がいたと以前先輩マネージャーが同じような嫌がらせを受けているのを思い出して一気に興ざめをする。いやはやテニス部というのはとっても人気者だからたまにいるんだよねえ、こういう面倒な女の子が。


「何、その顔。何か言いたげね。言いたい事があるなら言っ、」
「馬鹿だなあと」
「…っはあ!?」


ソノちゃんはクラスや学年で上位をとるって柳に聞いたことあったし、頭良いのかと思ってた。でも馬鹿だわあ。けらけら笑うとソノちゃんは私が何故そんなことを言うのか理解ができないようで、眉間に深くしわを刻む。怒ってる。


「ソノちゃんはとってもとってもつまらない人間だったんだね」
「どういうことよ」
「こんな位置を欲しがって何になるんだろうと思って。人とたくさん関わるだけめんどくさいよ」
「じゃあそういうアンタはどうしてそこにいるわけ」
「いや、それが私もこんなことになるとは微塵も思ってなくてさ」

ずっとずっと一人でいるつもりだったのだけれど、いつの間にか幸村達が傍にいただけのこと。そうは言っても今だってめんどくさいことには変わりはないよ。だからこの位置が欲しいならいくらでも譲って差し上げよう。しかし本当に譲るなら私のやり方に従ってほしいものだ。だからソノちゃんのやり方で渡してはやれないよと、私は立ち上がって教室を出た。うしろではソノちゃんが私の話について行けていないようで、わーわー騒いでるけど気にしない気にしない。さて、これからどうしようか。こういうことには早めに手を打っておかなければ後々に『私』が傷ついてしまう。それが一番困るのだ。



「私は自分が一番大事な人間だから」




ぽっかり穴が開く
(おかしい。こんなはずじゃないのに)

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ソノちゃんがやらかした。
というか、こんなアホなヒロインと喧嘩させるの難しい。
すぐにギャグの方に脱線するからいまいちシリアスな感じが出ない。
ツッコむソノちゃんも一苦労だな。
110312>>KAHO.A
131224 加筆修正