冬の記録:13

小さな窓から見える空を眺めていた私は、ふっと息をつく。飛行機なんて初めて乗ったが、雲を見下ろすというのも、また不思議な感覚だった。
しかし両親はというと何度も海外に行っているだけあり、飛行機から見える外の様子にさして興味も抱かず早速アイマスクをつけて寝に入っている。やはり慣れているなあと、少しばかり驚かされた。
まあ、こうなってしまえば仕方がない。私もあまりはしゃぐと二人に悪いので、黙ってもらってきた部誌を読み返す事にしよう。

そうして私は、ずっと手に持っていたその冊子をゆっくりとめくり始めた。


全ての始まりである春の記録、
怒号の合宿があった夏の記録、
全国大会に奮闘した夏休みの記録、
恋を知った秋の記録、
そして、別れを知った冬の記録。

今までこんなに、皆と共に過ごしてきたのかと思うと、胸がいっぱいになる。皆の事を思うだけで、自然と笑顔が零れて、胸が暖かくなる。

そのまま私は、ぱらぱらとページをめくり、たまたま最後の項が開かれた。そこには、いつの間にやら皆からのメッセージが書き込まれているではないか。



皆からへ一言。

◎立海のマネージャーはしか務まらないんだから、必ず帰ってくる事。コートで待ってる。
幸村精市

◎帰ってきたらまたのたるんだ精神を叩き直してくれるわ!
真田弦一郎

が帰って来るまでに、お前が好きそうな本を揃えておこう。も引っ越し先で良い洋書があったらぜひ持ってきてくれ。
柳蓮二

◎ツッコミなんて任された覚えねえけど、まあ親友だしな!それくらいやってやる。あ、俺の弟がよくやるんだけど、腹出して寝るなよ。
丸井ブン太

◎俺に騙されないようになるなんて、ソイツは楽しみじゃのう。なら、俺もとっておきのペテンを考えておく事にするぜよ。
仁王雅治

◎外国の美味いコーヒーがあったら教えてくれよな。あと、なんかあったら気軽に連絡しろよ。
ジャッカル桑原

◎外国の流行に乗るのも良いですが、日本人としての品位をお忘れのないように。またお会いできるのを楽しみにしています。
柳生比呂士

◎今度は皆でテニスしに行きましょうね!俺が先輩にテニス教えてあげるッス!あと、どういう風の吹きまわしか知りませんけど、ハーゲンダッツ楽しみにしてます。俺、そう言うの忘れないんで!
切原赤也

◎人見知りをしない事、嫌な事から逃げない事、たまに連絡する事、ここに帰ってくる事。約束しなさいよ!待ってるからね。


◎一応、帰って来るの待っててあげる。
原西ソノミ



皆の言葉を噛み締めて、私はほほ笑む。ソノちゃんは本当に一言だけど、彼女らしい。そこに全てが詰まっているようだった。
それから、皆の一言を読み終えて、視線をページの下へ移す。そこにはソノちゃんの字で、こう書かれていた。



心が歪んで歪んで歪みきった立海マネージャーと
8人の少年の青春記




――私達の、記録。
泣くのも笑うのも、非日常に巻き込まれるのも、全て彼らと一緒だった。

…そう、
そうか。

それなら、最後はきっと私が、この言葉で幕を引くのが相応しいだろう。

私の日常は非日常だ。
これまでも、そしてこれからも。

だから、





「立海マネジの非日常!」
(アンタ達と一緒なら困難も堪えられる、)(いや、それどころか楽しんでいけるよ)

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