![]() 冬休みが2日後に迫っているから、どうやら長期休業中の非行防止のために、風紀委員が今以上に厳しい取り締まりを始めるらしい。4限目の授業が終わるなり真田と柳生が教壇に立ち、その話をした。なるほど、だから柳生はさっき風紀委員に呼ばれていたのかと私は納得する。確かに、3 年はもう数カ月で中等部を卒業するから、羽目を外す奴が出る可能性を考えれば分からない話ではない。 「いやしかしまったく、面倒な事になりましたな、モブ坂君。これじゃうかうか校則も破れないよ」 「校則なんてうかうか破るもんじゃねえだろ」 「ナーイスツッコミ!」 「あ、今のボケだったの?本気で言ってんのかと思った」 モブ坂君の辛辣な物言いに、私は口をへの字に曲げた。しかしそんな私の様子を気にも止めずに、「そういえば、」なんて彼は新しい話題を繰り出そうとする。 「前の休み時間に別のクラスの奴とカメラ持って何かしてたけど、」 「ああ、あれは思い出作りだよ。とりあえずテニス部の皆写真撮るかって事で、丸井とジャッカル、あと仁王や柳生とも撮ったんだけど」 そこまで話すとモブ坂君は、俺もさんと撮りたいなぞと言い出した。まあそれは良いけども。私はソノちゃんから預かっていたカメラを取り出すと、周りの子にシャッターを頼む事にした。すると、他の子も写真に入りたいと集まってくるではないか。表情からして、皆、私の引っ越しを少しは寂しいと思ってくれているのだろう。口には出してやらないが、正直嬉しかった。 それから写真を撮り終えるなり、モブ坂君は思い出したように口を開いた。 「ところで真田はもうとっくに教室出て行ったぞ」 「もっと早く言えよ」 私は慌てて教室を飛び出した。タイミングが良い事に、丁度そこにはもいるではないか。真田君捕まえられた?なんて言うの台詞に、私は視線を泳がせながら小さな声で否定した。ソノちゃんからのお咎めがあったのは言うまでもないだろう。 「ていうかソノちゃんのクラスにも幸村いるじゃん」 「…いつの間にかいなくなってたの!」 「うーわー私の事言えないじゃんか」 「うるせえええ!」 ぱちーん。ソノちゃんからのビンタを食らった私は黙り込んだ。横暴である。 まあ最終的にはがその場を納めて、私達は、再び当てもなく歩き回るしかないよね、な形に落ち着いた。 その後、幸村達は案外すぐに見つかった。駄目元で声をかけた生徒が偶然にも彼等の居場所を知っていたのだ。 「3人で花壇の前にいるとかなんか似合わない」 幸村と真田に加え柳までもが、外の花壇の前に立っていた。彼らを視界に捉えるなり、苦笑をこぼしたのはソノちゃんだ。おそらく真田と柳は幸村に花が咲いたから見にきてくれとかなんとか言われて連れてこられたのだろう。 「あれ、にさん、原西もいるじゃないか。どうしたの?」 「アンタ達を探してたのよ」 ソノちゃんがいつの間にか私の手から攫っていたカメラをちらつかせる。勘の良い柳が、ああ、と頷いた。 「なんだ。どういう事だ?」 「さしずめ引っ越す前に皆と写真を撮って回っているのだろう」 「そうだよ。流石柳君だね」 皆が話を理解すると、ソノちゃんは早速カメラを構えた。幸村が花壇をバックにすると仕切りに騒いだので、花壇も映るようにソノちゃんは遠くに立つ。 「は真ん中だよ」 「なんでも良いけど、・・・何か三強揃い踏みだと怖いんですが」 「3年間ずっと一緒に部活を共にしてきたというのに、お前は今更何を言っている」 真田が呆れ顔で言った台詞が、その時じんわりと胸に染み込んできた気がした。 ――そうか、3年もコイツ等と一緒にいたんだなあ。 ほんのり寂しく思って、だけど、そんな表情で写真を撮りたくなかったから私は無理矢理笑顔を作る。すると、何を思ったのか、そんな私の頭を幸村が撫でた。 「まったく、素直になったもんだね」 「え・・・」 「そんな今にも泣きそうな顔で、笑うなよ」 幸村が苦笑をこぼした。こっちまで泣きたくなるだろ、と。彼の言う素直というのは、恐らく以前に柳にも言われたそれと同じ意味のものだろう。私が思っている以上に、私はうまく笑えていなかったのかもしれない。 「確かに俺も寂しい。多分より俺の方が寂しいと思ってる自信もあるしね」 「はっ・・・」 「はい、チーズ」 「あ、」 驚いて横を向いた瞬間、シャッターを押されて私は見事横を向いたまま写ってしまった。ソノちゃんはやはりそんな私に文句を言い放題だったけど、撮り直す気はないらしい。あーあと笑う幸村に確信犯なのではと思ったが、どうせはぐらかされてしまうと思ったので、黙っていることにした。 「何か言いたそうだね」 「別に」 「好きだねーそれ」 「あああうるさいよ馬鹿あああ」 「あははは」 ぐしゃぐしゃと頭を撫でて、まるで私を子供の様に扱う幸村をじとりと睨む。私が幸村にからかわれるのは日常茶飯事なので真田も柳もやれやれとこちらを見るだけで助けに入ってくれそうな気配は微塵もない。 相変わらずニコニコと笑う幸村の表情を見ているうちに、私はまた妙な物悲しさがポツンと影を落としたのを感じた。幸村は私の引っ越しを知った時こそ怒って、寂しげだったが、今はそれが嘘の様だ。やっぱり私より寂しいなんて、信じないぞ。 「そんな顔してもどうにもならないだろ」 「そこまで顔に出てますか」 「うん。『幸村と離れたくない』って書いてあるよ」 「・・・仕方ないじゃないか」 「・・・」 「しかも幸村は寂しそうじゃないから余計ムカつく」 「暗い顔してが引っ越すの取り消しになるなら俺はいくらでもそうしてやる」 でもそうはいかないだろと、彼はまっすぐ私を見つめて言った。そんな事は私にだって分かっている。俯いて小さく頷くと、柳が私の頭をぽんと叩いた。 「いじけたまま別れてしまったらきっと後悔するから、俺達は笑うんだ」 「そうだよ。泣くなんて一生の別れみたいじゃないか。俺はお前がちょっと長い旅行に出かけるくらいに思うことにしてるよ」 「いつまでも不貞腐れているなど、たるんどる証拠だ」 女の私にも容赦無く、力一杯に背中を叩いてきた真田に私はぎこちなく笑い返す。背中痛い。でも、そんな叱咤のおかげで少しだけ、元気が出た気がした。 「絶対また会える。だから今は笑え」 そんな事、本当は分からないけど、きっと幸村には、・・・いや皆には、また私達が一緒に馬鹿をやって、笑い合っている未来が見えているのだろう。 それなら、私もそれを信じようと思う。 「、次いくよー」 「あ、うん」 の声に、幸村達には礼を告げて、私は今度こそ笑った。その姿に満足そうな三人は私を送り出す。それから駆け出した私は、既に先を歩いていたやソノちゃん達に追いつくと、は前を向いたまま、そっと口を開いた。 「、立海マネジは永久不滅、でしょ」 彼女の言葉に、私は今なら力強く頷ける。 だから繋ぎ止めて (私達がまた会える様に) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- あと少し。 130322>>KAHO.A |