秋の記録:21


「待てゴラァアアア!!」
「ぎゃあああ何とかしろよ仁王おお!」
「ピヨ」
「おいいい!」


ドタドタとせわしない足音が三つ、生徒達が穏やかに昼休みを過ごしている廊下に、それは唐突に割り込んできた。
先頭を走るのはあの有名な立海テニス部のマネージャーを勤めている。――つまり私である。かっこよくナレーションを始めたのは気が動転してキャラを忘れかけているからである。
ちなみに私の一歩後ろを走るのは仁王雅治。この状況を生んだ張本人だ。
彼はちらりと私達を追いかけてくる丸井に目をやってから小さく息をはいた。「そんなに怒ることか…」ぽつりと聞こえた呟きに、私はきちんと突っ込む余裕はなかったので、心の中でイヤイヤイヤ、とただひたすらに繰り返していた。


「ねえこれこの後どうすんの!丸井の事だから本令鳴っても追いかけて来るんじゃ、」
「む、困ったナリ。ノープランぜよ」
「テメエエエ」


廊下を全力疾走する私達に、廊下や教室にいた生徒達までもが、なんだなんだとこちらに注目し始める。
正直今は何があったか説明している場合ではないのだが話が進まないので簡単にさせてもらうと、……あ、あれやっとく?
――回想VTR、どうぞ。

それはほんの数分前の話だ。私がたまたまB組を通り掛かった時、中にいた仁王に呼び止められたのだ。別段用事がなかった私は、そんな事からB組に立ち寄ることになった。
ちなみに彼が一体何をしていたかと言うと、私が来るまではポテチの袋をただ片手に持っていただけである。


「どうしたポテチなんて持って丸井じゃあるまいし。くれる気なら私はポテリッチよりオーザックのサワークリームオニオン派である」
「いや潰す」
「いやいや赤也じゃあるまいし」
「ポテチ潰すん手伝って欲しいぜよ」
「は?」


いや良いけど何で?ていうか一人でできるんじゃね?なんて疑問は沢山抱いたのだが、仁王のすることにいちいち反応していたらキリがないので仕方なく袋の端を小さく切って空気を抜くと、私は上から思い切り潰しにかかった。正直私は楽しんでいたし仁王も満足気だったのでその場には誰も止める者はいなかった。ちなみにそのポテチが丸井のものだと言う事を知る者も、――仁王以外いなかった。


「で、これどうするの」
「ふりかけ」
「へーポテチご飯にかけるわけ?アカン飯にでも投稿するのかい」
「ブン太に、文化祭の時の仕返しぜよ」
「…」
「…」
「は、ちょ待ってこれ丸井のなの」


理解するまで時間がかかったが、仁王と一緒になって動かしていた手を、私はぴたりと止めた。袋の中を覗くと、それはもう粉末も良いところな状態だった。
ええと、これはつまり共犯にしたてあげられた系?
横にいる仁王に目をやれば、彼はニヤリと笑っただけ。えええええちょ、勘弁!マジ勘弁だかんなあああ!私は嫌な汗をかきはじめる。


「あ、すんません私逃げますわ」
「へえ、誰から」
「いや決まってんじゃんすか丸井大先輩からっすよ。あの人の彼女(ポテチ)に手を出したとか知れたら私生きて帰れな、………」
「そうだなあ、もう生きて帰れないかもなあ」
「…」


ちょっと私ってば誰と話してるの。なんて、ベタな展開を繰り広げて目の前の仁王に助けを求めようとするが、彼の視線はただ私の後ろに注がれていた。仁王がいつになく真顔だ。いやいつも真顔のポーカーフェイスだが、この顔はきっと本気で「どないしよ」とか考えてる顔である。
さて、ここまできたら後ろに誰が立っていたかなんて問うのは愚問というもの。


「んで、最期に言っておきたい事は?」


あ、これ私殺されますね。…そらそうだわ。ポテチ粉々だもん。丸井のって知ってたらやらねえわ。
私は怖くて後ろを見れなかったので、その状態のまま謝罪を繰り返していたのだが、それは突然に、今まで微動だにしなかった目の前の仁王が素早く私の腕を掴んで教室を飛び出したのである。もうそれからは冒頭の下りだ。


未だ廊下を疾走中の私は、ちらりと後ろを見やるといつの間にか後ろに真田が増えていた。最早苦笑しか出てこない。しかし予測の範疇である。あんなに騒いで、真田に怒られない方がおかしい。


「あああていうか諦めてくれるかないい加減!」
「廊下を走らなければ俺とてこんな事をせんわあああ」
「テメエじゃねえええ!」


後ろを向いて真田と喧嘩を繰り広げていると、仁王が「前見んしゃいコケるぜよ」と口を挟む。


「おま、そういうフラグ立てるから私が転、」


ズシャアアア。そんな勢いで私はコケた。というよりスライディングに近かった。ちなみに前を向いていた仁王ですら転んていた。どうやら私は廊下に置いてあったバケツに足を突っ込んだらしい。そうして私がぶちまけた水に仁王も滑ったわけだ。
そして最悪な事に、私達はたまたまそこにいたやかん先生に向かって突っ込んでいった。
私達に巻き込まれて倒れているやかん先生は、痛む頭をおさえて呻くように「何をしとるんだお前達は…!」と怒りを露にする。


「何で廊下を走っている!」
「あー…何と言いますか。そこに廊下があったからとしか言い様が。ねえ仁王」
「そうです」
「そんな『言い様』しかできない事を先生は哀れに思うぞ、仁王」


私達をその場に正座させてやかんはギラリと睨みを強くした。そういえば後ろにいた丸井と真田は、といえば怒られている私達を満足そうに見て笑っていた。(主に丸井が)
舌打ちのオンパレード。そんな後ろの様子を伺う私に、先生の喝が飛んだ。


「お前達には罰則を科す!」
「いやちょっと待って下さい先生知らないんですか。アレは今アメリカで流行の挨拶ですよ。ほら、ハグとかするじゃないですか向こうの人」
何スライディングキックってお前の中じゃハグに値する挨拶なの?
「まあ、オブラートに包めばそうなりますね」
ごめん、一体何をオブラートに包んだんだのか先生ちょっと分からなかった。っていうか使い方間違ってない?」


先生ツッコミ流石っす。だけど、キャラ壊れかけてるよ。口調迷子ですよ。
ていうかそんな事よりも私がさっきこれほど言い訳を並べてあげていると言うのに、仁王ときたらだんまりを決め込んでいやがる。おいお前も何か言えよと肘でつつくと、彼は少し離れた所の床を指差したので私は釣られてそちらへ目をやった。何か落ちている。否、髪が落ちている。


「……先生、頭のお召し物が落ちてます」
「カツラじゃ」
「こら仁王」
「これぞ『かっこわらい』とか言うヤツじゃな」
「あの先生?もしかしてこの間私が禿げとか言ったからですか。ごめんなさい悪気があったわけじゃ。…今のままでも十分カッコいいよね仁王!おい仁王頷けよここは。――あ!カッコいい、カッコいいです先生!」


ベラベラと饒舌に喋り散らすが、全ては隣りでわざとらしくクスクス笑っている仁王のせいで台無しである。
しばらくやかんは黙って俯いていたが、急に顔を上げると息を大きく吸った。


「お前達は罰として放課後、化学実習室掃除を言い渡す!」





やっぱりそうなるよね
(…広すぎで掃除担当がなかなか決まらなくて困ってたんだって)(かったるいのう)(なんていうか、仁王の馬鹿アホドジ間抜け)

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100話です。いえい。なんていうか、こんなグダグダ連載でも、2年くらい続けてるから愛着がね。私マネジ書くの好きだよ。内容は意味わからないけど。
ていうか、久々にギャグを割と入れた?ギャグもう思いつかないよ、最近は一話一話体から絞り出してる。渾身の一撃だよ。え、そろそろうるさい?
130306>>KAHO.A