春の記録:10「ー!一緒にご飯たー、ぶぉう」「え、何だって?」 愛しのに会うべくC組に顔を出した私はソノちゃんと楽しげに話すを目撃し、口に出しかけた言葉を飲み込んだ。いや、ほぼ言っちゃったけどね。飲み込めなかったから濁してみたら上手くいかなかった。 邪魔しちゃいけないと思ってがこちらに気づいているのに気づかないふりして方向転換する。が、ちょっと?なんて言った気がした。気がしただけ。気づかないふり。 「おーい?」 「やあ幸村。今日も幸村だね」 「やあ、今日もはわけわからないね」 「ガン無視か。声かけてるのに」 いつの間にか私の背後に瞬間移動していたは私の首ねっこを掴んで引きずる。あーれー。 幸村はひらひらと私に手を振ってきたから私は薄情者ーと呟いてみた。ああ、最近ツイッターやってねえわ。 「何の用かな」 「こっちの台詞だ。てかご飯食べるんでしょ」 「だってお邪魔だと思いまして」 邪魔じゃないから。食べようよ、とは購買で買ってきたらしい焼きそばパンを見せたから、私は自分の手の中のおしるこの缶を見つめる。 「焼きそばパンいいなあ。あのさーあのさー、もし良ければこの、」 「却下」 「う、うえええ」 しょぼくれながら私は近くにあった椅子に腰をかける。ぷし、とおしるこの缶のフタを開けてちびちびと飲みはじめる。おしるこ生活が始まって早一週間。そろそろ飽きてきた気がする。 先程職員室で先生方に電気泥棒と罵られながら、電子レンジを拝借し温めてきたパパッとライスを口に運んだ。 「え、ちゃんご飯それだけ!?てかとんでもないメニューだね…」 「そうなの。この子一週間くらいこれでさあ」 「えええ!」 それはまずいよとか体に悪いよとか、心配そうに私を見るソノちゃんはいと可愛い。にやけたらに殴られた。 「あ、先輩」 「うえ?」 振り返ると私は椅子から転げ落ちた。どうやら幸村を訪ねてきたらしい赤也が私を見て大丈夫ッスかなんて苦笑していた。いつものことなので、へらりと笑って見せる。 「あ、そうだ。あか、」 「君が噂の切原君?」 「へ?」 私の言葉を遮るようにソノちゃんはそう言うと赤也の方に駆け寄って行った。赤也は誰ですかと言わんばかりの表情をして私とソノちゃんを交互に見ている。私はソノちゃんのことを簡単に紹介すると、ふうんと彼が彼女を一瞥する。いつも思うが彼らは初対面に冷たいから近寄りがたく思われる。そういう態度は良くないぞ、と叱ろうと思ったのだが、その言葉が私の口から出ることはなかった。 「君の話、仁王とかから結構聞いてるよ。あと真田からも」なんて言う彼女の台詞に、赤也は単純にも気分を良くして途端に笑顔になったからである。彼は褒められるのに弱いから。まあそういうところが可愛いんですけれども。 真田と知り合いなんだあ。と、床に座ったまま、ぼーっと二人のやり取りを見ていると、赤也は自分を称賛するソノちゃんの話に気を良くしたのか、まあエースッスからね!なんて嬉しそうに笑った。 「赤也、あまり調子に乗らないことだね」 「…う、ウィッス…」 「ははは切原君ビビりすぎだって」 「いや、だって」 「で、赤也は何の用だい?」 「え?あ、実は今日、」 幸村に促されて赤也から伝えられた用件というのは、簡単だった。どうやら今日、彼は英語の補習で部活に来るのが遅れるとかいう、いつものあれで。 用件を伝えた赤也は教室に戻ろうとしていて、ソノちゃんがそれを引き止めた。一緒にご飯どう?と。 「あー俺もう食べちゃったんスよね。また誘ってくださいッス」 「残念ー。じゃあまたね」 「ウィッス」 パタパタとどこか楽しげに走って行った赤也の背中を見送りながら、おしるこを啜る。 席に戻ってきたソノちゃんは、再びご飯を食べ始めるなり急に「あ、」なんて口を開いた。「ちゃん、数学の宿題やってきた?私忘れちゃったみたいで」 「あ、見る?」 「いや、やり方教えてくれる?」そんなやり取りを尻目に私はソノちゃんに感心せざるを得ないよ。あくまで自分で解こうとするところとかさ。 はささっとパンを食べ終えてしまうとノートをソノちゃんの方に出した。 ちょっと覗いてみるけど全くわかんない。どういうことだ。同じ所を習ってるはずなのに。 「あーなるほど!そう解くのね。流石ちゃんだあ」 「いやいやあ」 私は照れるが可愛くてもうちょっと拝んでいたかったけど、あんまり長居すると邪魔になるだろう。ちりりと痛んだ胸を無視して、黙って退散することにした。 廊下をとぼとぼと歩きながら私は深くため気を付く。ああ、どうしようかなあ。まさかここまで来るとは思いもしなかった。正直このままではまずいと思う。ただ仁王と違ってこればかりは対処法を知らないわけで。 「怖いことが現実になりそうだよママン」 呟いた言葉は誰に伝わることなく、 空気になった (こればっかりは切り捨てえたくないからね) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 以前修正した際にタイトルがおかしくなっていたので、今回の加筆修正で直させていただきました。(131224) 110308>>KAHO.A 131224 加筆修正 |