春の記録:06

ー。久々に一緒にご飯食べない?」
「うわわわわわわ様ああああ!」


ずぞぞ、と自販で買った缶のおしるこを啜っていると、が自分のお弁当をぷらぷらと持って私の隣にやってきたから私は嬉しさのあまり椅子から転げ落ちた。(だって本当に久しぶりだったんだ)床に転がる私はおしるこを床にぶちまけたが構わず椅子に座り直す。クラスの皆が変なものを見るような目でこっちを見てきた。え?何?何かいるの?
とりあえず私は何事もなかったように缶の中に辛うじて残っていたおしるこを啜ると、近くにいた真田が、ちゃんと拭かんかばかもん、なんてご丁寧にも雑巾を持ってきた。


「拭いてくれるの?ありがとよ」
自分で拭け
「うええい…」


何でが怒るんだ。
真田から雑巾を受け取った私はさっと床を拭いて、雑巾を真田に返すと彼は無言で雑巾を洗いに行ってくれた。真田やっさすぃ。
エナメルバックから新しいおしるこの缶を取り出す私はそれを一気飲みして真田の背中を見送るを一瞥してから自分の前を指差した。それに気づいた彼女は誰かの席の椅子を勝手に借りて、私と向かい合うように腰を下ろす。


っておしるこ好きだっけ?」
「どうしたいきなり。なんでそう思う」
「君がさっきからおしるこばかり食べてるからだよ」


私は手に握っているおしるこの缶を見つめてああ、と返す。いや、別におしるこを飲んでいたのを忘れていたわけじゃないのだよ。決して。


「えっとねえ、おしるこダイエットだよ」
やせる気ねえだろ
「いや、ばりばりあるかんね。もう頑張っちゃうから」
「じゃあこれは何だ」


エナメルバックの中に詰まった大量のおしるこの缶を指差したに、これは何って、おしるこだよって答えると、んな事は分かってんだよと返された。分かってたか。


「私が言ってるのはダイエットしてる奴がおしるこをこんなに大量に所持してないでしょって話。というかダイエットしてなくてもこの量はおかしすぎる。一体いくつあるんだ」
「んーと、ざっと56くらい」
「う、…わ」


引くわ、と自分のお弁当のから揚げを口に放り込んだはまるでそれを封印するかのようにエナメルバックのチャックを閉めた。
なんだよ。聞いてきたのはそっちなのに。確かに私の家の近くにある3台の自販のおしるこは買い占めてしまったがね、皆の視線を背中に浴びながら何十回もおしるこのボタンを押した私を称えて欲しいよ。
しかも途中から下から缶を取り出すのが面倒になって取り出すのを後回しにしてたら詰まって取れなくなったって言うのに。近くにいたサラリーマンを捕まえて取ってもらった。お礼におしるこあげた。
顔を引き攣らせているにおしるこを差し出したら投げ返された。避けようとして、椅子に座りながらマトリックスみたいに体をそらせたら上手く避けれたけど椅子が後ろに倒れて床に頭を強打した。いってええええええええ!!
後頭部を抑えて椅子に座ったままの形でおしるこの缶と一緒に倒れている私は床で悶えまくっていると、ふと周りがざわついた。気になるけど、今はそれどころじゃない。


いるかー…って、どうした


顔を覆っている手をどけると丸井が呆れたように私を見下ろしていたから、へるぷへるぷと呟いた。起こしてくれた。


「かわいそうな子なの。気にしないであげてね」
「それは分かってる」


おしるこの缶を拾い上げながら丸井にそう言ったは私の頭をさする。ぶわあああ。大好きいいいい!
に抱きついた私をやめろと引き剥がすは席に座りなおして再びお弁当を食べ始める。(ツンデレなんだから。って殴らないでよ。ごめんて)


「ああ、そういえば何で丸井ここにいるの」


私に何か用かいと首をかしげると、丸井は何故か口ごもった。


「いや…昼休みなのに今日は、来なかったから」
「えー?いつも行ってたっけ」
「むちゃくちゃ来てただろぃ。赤也が好きすぎるって話をしに」
「…ああ。まあ今日は話すような内容がなかったんだよ。内容がないよう」
帰れ
ぽげえ
「なんだ『ぽげえ』て」


というかが話すのっていつもおんなじ話題だろうがってツッコまれた。た、確かに…!!
私はから渡されたおしるこの缶を手で弄んでいると、ふとの視線を感じてそちらを向いた。「めずらし」彼女は一体何に対してそういったのかは分からなかったが、いやに神妙な顔をしていて、正直突っ込んだら面倒そうなことになる気がしたので、気づかないふりをさせていただいた。
その時丁度、やっとこさ雑巾洗いから真田(と、何故か柳生)が戻って来たのが見えた。彼らは私を見て怪訝そうな顔をしたわけだが、なんで皆は私を見ていつもそういう顔をするんだろう。


「また汁粉か」
「お味噌汁もあるよ」


親切にエナメルバックからなめこのお味噌汁の缶を出して、わざわざふたを開けて真田に渡してあげた。(真田なめこ好きだよね、なめこ)
いらぬわ、と突っ返されてムカついた私は無理やり押し付ける。真田の制服にお味噌汁がかかった。ああ、なんてこった。ふるふるとしみを見つめて震える真田を覗き込む。
な、泣くなよう。悪かったよう。とりあえずこれでも使えよう、と真田の手から雑巾を取って再び彼に渡す。


「…泣いてなどおらぬわこの、たわけえええええ!!」
「うええい」




真田は泣いてなかった。
でも怒られた。

まあとにかく、




笑っちゃうねハッピー
(え、今度は何したの)(真田がお味噌汁こぼして泣いちゃった)(断じて違う)

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ヒロインとんでもねえな。
ここで終わらなかったので、このネタ次に続きます。
110129>>KAHO.A
131224 加筆修正