春の記録:05

久々にの美脚でも眺めるかあ、と昼休みにC組に赴くとどうやらは図書委員の仕事があって、今は図書室にいるようだった。
図書室と私は縁がないから一人では行ったことがないのだけれど、しょうがないから一人で行ってみることにした。初めてのお使いみたいに緊張するわあ。って、んなわけあるか。

廊下を歩きながら一人でノリツッコミを繰り広げていたら私の横を通りすぎていく人達に無茶苦茶怪訝そうな顔をされたけれども気にしない気にしない。

図書室に入ると、あの独特な埃っぽいような、本の匂いが鼻についた。やはり私はどうもこの匂いが好きではない。そんなことを思いながらカウンターの所に座っているを見つけた私は小走りにの元にかけた。


「会いに来てやったぜ」
来んなよ


カウンターに肘をついた私はナンパするみたくに声をかけると彼女はあからさまに嫌そうな顔をして私の顔を手の平で思い切り押してきた。ちょ、ちょちょちょ、何これ何これ!無茶苦茶顔面押されてる。押されてもくじけない私の顔はタコ顔だ。残念過ぎる。


さん…」
「かーえーれ、かーえーれ」
「何その帰れコール!」
「かーえーれ、かーえーれ、さっさとかーえーれー」
「ぴいいいいい」
うるさいよ


仕事があるのでさっさと帰ってくださいとばかりに私を外に追い出さとするはなんて冷たいのだろう。最近皆の私に対する態度がちょっといただけないのだけれど何なんですかねこれは。皆もしかして打ち合わせでもしているんでしょうかね。


は仕事と私、どっちが大事なのよさ」
「仕事ですが」
うん知ってた
「かーえーれ、かーえ、」
「ヤメテッ地味に傷つくからそれ!ていうか何がいけないんだよ。私には一体何が足りなかったんだよ!」
「足りてるとこを探す方が難しいし」
「ぴいいいいい!」
だからうるさいって


まず頭が足りてないしねえ、と苦笑したは私の後ろを指差したから30度だけ首を傾けてやる。そこには見慣れた奴が本を沢山持って私の後ろに立っていた。


「なんだ柳か。…あ、てかー」
いやいやどいてやれよ。つか帰れよ


我が物顔で私の前に存在するな、と言われて涙がちょちょぎれそうになった。


「…このっ…おのれ柳…!」
「何故何も言っていない俺に矛先が向く」
「柳君悪いんだけどさ、本のついでにこの馬鹿も連れていってくれる?」
「ああ了解した」
「了解すんな!」


柳は私の言葉なんて聞こえてないかのように本を持ち直すとこちらを一瞥してがしりと私の腕を捕まえる。何だか今にも開眼されそうな勢いがあったので、私は結局その後は何も言えずに図書室から出ていく柳の後ろについていった。


「それにしても、は何故図書室にいた」


図書室を出るなり柳は借りた本をぱらぱらめくりながらそう尋ねた。そんなものの美脚を拝みにである。そんなこと、聞かずとも察しはついているだろうに。柳は私の返答を聞くなりあきれ顔で「懲りないな」と本を閉じて歩きだし、私もそれに続く。


「柳は本好きだよね」
「まあな。そういうお前は本を読まないが」
「だってつまんないもん」
「面白い本に巡り合っていないからそういうことを言う」
「ふうん」


そんなにいいか、本。私はゲームの方が好きだがね。柳は私の方を向いたから私も視線を移す。も何か読んでみたらどうだ、なんて言われたからちょっと驚いた。私に読める本などあるだろうか。これはかなり前の話だけど、の下の弟に絵本を読み聞かせるのでさえ1ページ目で断念したくらいだ。
そんでもって余談だが、あまりにも早く断念したからの弟に切れられて髪の毛を毟られそうになった。むっちゃ怖かったの。泣いて謝ったら許してくれた。それからというもの絵本を見る度泣きそうになる。


が好きそうな本がある。今度持ってきてやろう」
「あ、うん。じゃあお願い」


柳が言うくらいだから私に読めないことはないだろうけど、読む時間がない。仕方ないからツイッターの時間を減らすかな。

そんなことを考えて唸っていると、前に仁王がだらだらと歩いているのが見えて、私は反射的に仁王の名を呼んでいた。だるそうに振り返った仁王はセーターからちょっとだけ出ている手をひらひらと振る。萌え袖か。それが萌え袖というのか。仁王似合うな。


「珍しい組み合わせじゃの」


くあ、と欠伸をした仁王はそう言って目を擦る。私はちょっとをナンパしに行ってた、とグーサインを出すと、仁王は興味なさげにさんも大変なりと呟いた。
その時丁度予鈴が鳴って、じゃあ、と言った仁王は教室とは反対方向に歩いていこうとした。多分サボるんだ。


「仁王、サボり過ぎは良くないぞ」
「今回は見逃してくれんかの参謀」
「えええ私もサボりたいーさんぼーう」
「…」


仁王だけずるいんですけど、と頬を膨らますと仁王は首を振った。お前さんはダメじゃ、って。なんでえええ。


「ブン太も赤也もおらんしな。授業はちゃんと受けんしゃい」
「…うええい」


あ、なら辞書をかして欲しい。重くて持ってくるのをあえて忘れたのですよ。「感心しないな」柳が私の頭を持っていた本で軽く叩いた。そうだ君がいるのも忘れていたよ。勝手に取れと雑に答えた彼はだるそうに踵を潰した上履きをぺたぺた鳴らしながらサボりに行ってしまった。
前々から感じていた違和感をまた感じ取った気がして、彼の背中が見えなくなってから小さく息を漏らす。


「…なんか、アイツ」
「どうした
「いや、別に」


へらへらと柳に作り笑いを向けると柳は首を傾げたが気づかないふりをして辞書を借りに私はB組に足を運んだ。


「丸井ー仁王のロッカーから辞書取って」


目に留まった赤髪にそういうと丸井はあからさまに嫌そうな顔をした。アイツのじゃなくて俺の貸してやろうか?っていいよ別に。君の辞書お菓子のゴミとか挟まってそう。
思った事をそのまんま口にだしたら頭を叩かれた。いたい。


「まあ次回借りるよ。今回は仁王にも言っちゃったから」


教室にズカズカ入り込んだ私は仁王のロッカーを探していると丸井はコレだよ、とロッカーを開けた。丸井が取り出した辞書に私達は驚愕。


「「未開封…!」」


もう3年なのに一度も使ってないのか…!てか開けていいの?これ。仁王の辞書を使う第一号が私でいいのかい!?なんかまあ仁王らしいけども。私が固まっていると丸井は苦笑して辞書を私に渡した。ま、使っていいんじゃね?って適当だな。


「まあいいや。仁王にお礼言っといて」
「んー」


新品の辞書を片手にB組を出ていこうとした私だったけど、ドアの所で足を止めて丸井に振り返った。


「あのさ、」
「何だよ。本鈴鳴んぞ」
「あー…うん、いや、あのさ」


柄にもなく神妙な顔で私が呟いたから丸井は私の所までやってきてどうした?と問い掛けた。私の思い違いかもしれないからこんなこと言うのは間違ってるかもしれないけど。


「気のせいかもしれないんだけど、」
「ん?」






「仁王って私が嫌いなのかな」
「は?」




なんか、なんかさ、




他人みたいで寂しいな
(ん、あれ?さびしい?この私が?)

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ブン太よりになってるって?気のせい気のせい。
まだ全員出てない…すいません…だってジャッカルが…
110110>>KAHO.A