春の記録:03「廊下に立ってろ馬鹿者が!」「うええい」 何故か国語の先生にヤカンを持たされた私は眠い目を擦りヤカンをぷらぷら振って廊下に出る。すると授業中にも関わらず何故そこには丸井と仁王と赤也がいるわけで、出かけたあくびが引っ込んでしまった。 彼らはヤカンと私を交互に見て、ほぼ同時にふきだす。彼らは授業中ということを忘れてはいないだろうか。声がデカいぞ。まあ、そんな彼らは放っておいて目の前の水道でヤカンに水を入れると3人に「見て見て」と手招きした。 「遠心力ー」 腕とヤカンを振り回すと3人は余計に笑い出してついに私のクラスから国語の先生が出てきた。ほらみろ、怒られんぞお前ら。 「うるさい!」 「ええええ、何でええ」 私の反応に先生は一度教室に入り、出てきたと思ったらヤカンを3つ渡してきた。 いくつ持ってんだよヤカン。どうやら目の前の三馬鹿の分らしいけれど。4人で立ってろ!なんて怒鳴られて私達は仕方なくヤカンを片手にA組の壁の前に並ぶ(すごくシュールである)と先生はぴしゃりとドアを閉めたから、私達はヤカンに水を入れて遠心力を楽しむことにした。 「君達はサボタージュか」 「まあそんなとこッスね」 「つかは何で廊下立たされたわけ?」 「何か黒板見えなかったから『先生マジでみにくい』って言ったらヤカン渡されて追い出された」 「ああ、…」 「『醜い』ってウケ狙いだったんだけどなあ。誰も笑わなかった」 そりゃ笑ったら廊下行きだからな、って丸井が苦笑を零すと先生が再び廊下にヤカンを投げてきたので私達はとりあえずそれを取ってその場を離れた。多分、うるさいって意味なんだと思う。 ヤカンはジャンケンに負けた赤也が持つことになった。五つも抱えている赤也がなんだか哀れである。手伝わないけど。 外に出ると温かな春の日差しが私達を包んだ。ヤカンさえなけりゃ、最高なんだが。私達はしばらく赤也な手の中のヤカンを見つめて、それから仁王がおもむろに中へ水を入れ始めたので私も丸井もそれに続いた。中の水を花壇にあげて、隣に置いておく事にしよう。幸村辺りが使うんじゃなかろうか。 空を見上げた私はあくびを一つ。やっべえ、立ったまま寝れる。 私は近くのベンチに腰を下ろすと三人もその隣に座って、ぼんやりと桜を見上げていた。左隣に座る赤也も、その奥に座る丸井も眠そうだ。仁王は人前では寝たふりはしても絶対に寝ることはしない奴であるが、こうもぽかぽかしていれば流石にうたた寝くらいはするのではないか。しかし私がちらりと右隣の様子を伺うと、存外目が冴えているように見える。 「何じゃ」 「…いや別に」 仁王は初めから良く分からない奴だったけれど、どうにも最近私に冷たいような気がしてならない。すぐに外された視線を疑問に思いながら、私も前に向き直る。左側からは寝息が聞こえ始めたので、恐らく二人とも完全に夢の世界へ旅立ったのだろう。仁王だと共通の話題がテニスくらいしかないので二人が寝てしまうと正直気まずいのだが。どうしよう。まあ仁王はもともと口数が少ない奴なので、無理に話す必要はないのだろうが。 「私には未だに君がよく分からないよ」 なんとなく思ったことを無意識のうちに口にするのは良くないことだと思う、ほんと。自分の言った言葉を後悔しながら仁王の返答を待っていると、彼は不敵に笑ってこう言った。「俺には褒め言葉ぜよ」と。 「でも仲間にさえ自分を分かられてないって、一人ぼっちみたいだね」 あれ、これも言うべきじゃなかった気がする。しょうがないよね、私は正直者だから。あくび混じりに告げた言葉にうんうんと納得している私の横で、仁王は一体どんな表情をしているのだろう。見る気はしない。 さて、彼はとうとう黙ってしまったので、膝を抱えて私も寝る体勢に入ることにした。 ふぁああああ… ああ、ねむい、な (一人ぼっち?お前さんも似たようなもんじゃろ) ←まえ もくじ つぎ→ ---------- 遠心力なんて、わたしゃあ小学生で卒業したよ。 110108>>KAHO.A 131224 加筆修正 |