春の記録:02

「…何してんの?」


ふと、聞き覚えのある声が聞こえてしゃがんだまま後ろに顔をちらりと向けてやると、そこには怪訝そうな顔で私を、否、私達を見ている丸井の姿。彼はぺたんこの鞄を振りながら立って、答えない私達にもう一度同じことを問う。その時虫の居所が非常に悪かった私はふん、と鼻を鳴らした。


「捕獲された宇宙人ごっこだよ。見りゃ分かんでしょ」
わかんねえよ


踵を潰した上履きをペタペタいわせながら丸井は私の横までやってきて「だいたい何でそんな遊びやってんだ」と私の右手を掴んで引っ張る柳生に尋ねている。私が聞きたいというか、好きでやってるわけじゃないのだがね。「おや、私もですが」「…そうでしたか」柳生が丸井の質問に答える前に私が嫌みったらしく言ってやると彼は眼鏡を押し上げて私を見た。眼鏡越しの鋭い視線が私を射抜く。ぴいいいいい。怖いぴいいい。
へらへら作り笑いを浮かべ、心の中では舌打ちのオンパレードだ。

まあ私がしゃがんだ状態で柳生と、それから真田に腕を引っ張られているそもそもの理由というのも、私が原因なわけだけども。
というのも今日は服装点検の日で、門の前に風紀委員がずらりと並んでいたわけで。スカートが短い私が捕まらないわけがない。つまり自然に同じクラスの二人の説教部屋行きであり、私はもちろんいじけますよ、ええ。せっかく朝練がないのに睡眠不足だしテンションもがた落ちな私は、サボタージュを決め込もうとしたけどやっぱり失敗して、二人に教室まで強制連行されている最中なのだ。


「腕もげるし、離せし、真田氏」
「何かリズム良いな」
「だろう?」


ドヤァという効果音を自分の口で言って笑うと真田のチョップが私の脳天に直撃した。私は声にならない悲鳴をあげた。多分漫画だったら記号オンリーで表現されるような悲鳴だと思う。痛いじゃろがい!私は彼を睨みつけたら真田が手加減はした、などと偉そうに言う。そういう問題じゃねえんだよぶわあああか!ムカついて真田のすねに頭突きしてやろうと思って勢いよく突進したら壁に突っ込んだ。


「っひぉおぉぉぉ…っ」
「…大丈夫か?」


両手をつかまれてるから負傷した額をさすることも出来ずに痛みに悶えまくって、廊下であることも忘れ、床に倒れると丸井が私の前にしゃがんて額をさすってくれた。
「とんでもねえ悲鳴だった」と丸井はケラケラ笑ったが、良いよ、笑うが良いよ。今のお前なら許してやる。


「ねえ柳生、さんこのままじゃ頭痛くて死んじゃうよ。だから保健室行くって名目で屋上行っ、」
「駄目です」
「けちいいいい!お前なんか今日から『ジェントルマンっぽいけど実は腹黒かったぜ!ペテン師だぜ!仁王だぜ!でもやっぱり柳生だったぜ』って呼んでやる」
「なげぇよ」


丸井に突っ込まれたけど別に気にしない。いつもの事だもの。
私はぷくっと膨れていると真田が呆れたようで力の限り私を引っ張った。私ってば軽いからズルズル引きずられていくわけで。てか私廊下に倒れたままだから!顔擦れてるから!痛い痛い痛い!


「ちょっと今日くらい見逃してよ真田!」
「駄目だと言っているだろう!」
「じゃあもう皆でサボろうゼ!」
「駄目です!」
「…うっわ、マジ有り得ないわ…丸井なら絶対一緒にサボってくれるよ。むしろサボろうぜって言ってくるよ。ねえ丸井」


後ろで引きずられていく私を見ていた丸井がビクリと反応して自分で自分を指差した。え、俺?そう、お前。
真田と柳生はギロッと丸井を振り返る。何も言ってないけど「そうなんですか?」「けしからん」って顔に書いてあるからウケた。丸井が大分焦っていたから引きずられながらニヤけてたら丁度私の横を通り過ぎた親友であるさんが「ってMなんだ」と呟いてC組に入って行った。ええええ。妙なところで妙な誤解を生んだ。腑に落ちないです。


「え、ちょ、俺!?今ここで俺に振る!?」


の背中を見つめていたら丸井が急に私の名前を出したから、丸井が何て言ったか分かんなかったけど慌てて丸井の方を向いて口を開く。


「うん、餃子はりんご味だよね」
もういいからさっさと連れてかれろよお前
「なんてこった」


自分でもすごく良く分からないことを言った気がするけれどもしかして、今私は言葉を選び間違えたんだろうか。ちょっと最近日本語が弱いからどうにかしないといけない。


「…もうそろそろHRが始まりますよ」
「よし、行こう」
「おーい、様を助けやがってくださいよ丸井このやろー」
「なぁもう俺行っていい?」
「あぁ、お手数おかけしました。それでは部活で」
「おう、じゃあな、真田、柳生」
「えぇ、えええー…?私はー…?」


ちゃっかりというかしっかり省かれて私は悲しいよ。そんな私に背を向け爽やかにB組に入っていこうとする丸井はドアの近くにいたらしい仁王に声をかけて、笑いながら私の方を指差している。
真田と柳生に手を掴まれたまま廊下に寝そべる私に仁王がちらりと視線をくれたので、捕まえられている手の代わりに足を上げて振ったら真田に怒鳴られた。ごめんなさい。

ついに抵抗を諦めた私は二人に引きずられていると、ふと視線を感じてC組の方を見るとがドアから半分だけ顔を出して私をガン見してた。ガン見ガン見。


「うっわあぁああ…めっちゃ見てるめっちゃ見てる」


から目が離せないでいるとの後ろから幸村が顔を出してにこやかに手を振ったから私はやっぱり足を振返した。


「はしたないですよさん!」
「うええい」
「…何だその返事は」




どっかの王子様につぐ
(私をさらってちょうだい)(お前制服埃まみれだな…)(あ、先生これには訳がありまして、)

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逆ハーなんだ。何と言おうと逆ハーなんだよ!

あ、超どうでも良いのですが、今日から3学期が始まりましたー。でもまたしばらく休み。
110108>>KAHO.A
131223 加筆修正