先輩の実力の話02



!attention!
・このお話は強いヒロインを書きたいがための回です。
・ヒロインに苦戦しているキャラを見たくないという方はブラウザバック!
・戦術を立てているように見えますが全く中身はありません。恐らく矛盾だらけの上にトリガーの使い方などなども間違っているやもしれません。
それでもよいですぜ、という方のみどうぞ…!


「マップどうします」
「ここは公平にランダムだな。そっちのが面白えし。良いですよね諏訪さん」
「おー」
「那須隊とか東隊のときみたいにめちゃくちゃな天候も入れようぜ」
「えー」

そんなやり取りを菊地原達がしているのを横で聞きながら、私は雷雨だったらテンション上がるんだけどなあとこっそり思っていた。あくまで思うだけ。実際雨だろうが雪だろうが戦闘には都合が悪い。というのはこの場にいる皆が思っていることだろうとは思うけど。
まあ、地形はランダムにすると言うのだから、考えても仕方がない。そんなことより、この時間暇だしせっかくなんだから混成部隊のチーム名を考えようじゃないか。ブースで設定を弄っている諏訪さん達の後ろでそう米屋に声をかけると、「だからうちはチーム米屋だって」と彼はふざけたことを言った。何言ってんの荒船先輩のメンツ考えろ。

「荒船先輩要素入れて、例えばチーム荒れ狂う米屋とかそう言うのにしなよ」
「結局ただの米屋じゃねーか」
「わー出水が盗み聞きしてるー」
「横にいるのに盗み聞きも何もねえだろ」

お前ら声でかいし、と出水が続けて、ふと前を見ると菊地原も相当馬鹿にしたような顔で私達を見ていた。かつてないよあの顔。傷ついた。

と出水のチームは名前どうすんだよ」
「は、続くのこの話」
「ん? えーとと楽しい諏訪さんチームとか? どう出水」
「俺要素皆無ですけど」
「つうか楽しい諏訪さんって何だよって言う」
「あっ、と楽しい諏訪さんチーム~アステロイドにのせて~は!?」
「いやいやどうせなら出水にのせといたら」
「勝手に俺にのせんな」

出水がそんなツッコミを入れたとき、「行くぞー三馬鹿ァ」と諏訪さんがこちらを振り返った。三馬鹿って誰。「お前達のことだろ」と荒船先輩。米屋と一括りで馬鹿扱いとかめっちゃ不名誉である。

「何でもいいからはやく来い」
「……ハァイ」

どうやらチーム戦用の設定が終わったらしい。誠意のない返事をすると、私と出水は諏訪さんの後に続いた。
ところで私はソロランク戦ブースでチーム戦をするのは実は初めてだった。ちょっと楽しみだ。そもそもソロランク戦ブースに来るのも、B級のときは良くいたけれど、A級になってからは殆どない。米屋はよく見かけるが。
諏訪さんは、私達の頭を乱暴に撫でて「気張れよ」と喝を入れた。もちろんだ。でもとりあえずスタートは地形と天候と、それから転送位置の運だな。

「地形は、こっちスナイパーいねえからあんま射線通らない地形が有難てえなァ」
「っすねー」
「それは大丈夫ですよ。うちにはスナイパーの代わりに出水がいます。それよりアタッカーが向こう3に対してこっちが私しかいないってほうが怖いんですけど」
「それこそ出水がなんとかすんだろ。火力も申し分なし」
「そっかー」
「ワー俺責任重大デスネー」

ブースに入るなりそんな軽口を叩きながら、私と諏訪さんは出水にプレッシャーをかけてやった。それから転送は間も無くで、(多分作戦会議を互いにさせないため)対戦に差し当たって、ほぼノープランのまま、「マップは転送されてからのお楽しみっつうことで」と、モニター越しに聞いた荒船先輩の声を最後に私達はマップのランダムな場所へ放り出された。


一瞬の浮遊感の後、地面に足が着いた感覚。
目を開くと暗闇の中にさあさあと柔らかい霧雨が降り注いでいた。濃霧ではないにしろ、やや視界が悪い。その中で街灯が心許なく灯っているところから、時刻はかなり遅めだろうか。私は水滴のついた鎌を大きく振ると、全体をざっと見回した。
三門市立第一高等学校周辺地区。スナイパーの狙撃しやすいポイントはいくつかあるが、可もなく不可もなくの地形。どのポジションから見ても有利、不利が特にない普通のマップだ。

「って、うわあ転送位置随分端っこだな」

学校の位置を北側とすると、私は南東の端に放り出されたようであることは、景色からすぐに分かった。レーダーを確認すると、既にバッグワームによる二つ分の反応が消えている。一つは荒船先輩だろう。他の反応は、私の位置からまっすぐ北のそう遠くない場所に一つと、私からマップの対角に一つ。そして学校付近に一つ。

、出水。聞こえるか》
《あ、はい! 聞こえてます》
《出水も聞こえてまーす》
《よし、まずは合流だ。荒船がどこにいるか分かってねえと単品じゃやり辛えからな》
《出水、了解》
、了解》
《火力勝負じゃこっちに分がある。もしかしたら逆に向こうはそれを阻止してくるかもしれねえ》
《合流前の奇襲に備えろってことですね》

どういう作戦かは分からないが、バッグワームを起動して狙撃の構えをとっている時点で、きっと菊地原か米屋とすぐに連携が取れるような手筈で移動をしているはずだ。いや、菊地原はカメレオンを使いたがるから米屋と組むだろうか。まあ、どうであるにしてもこちらは動きに制約を受けているのだから厄介な話だ。そこで援護に出水が付いてくれたら心強いから合流を急ぐわけだが、向こうはそれを良くは思わないはずだ。この時間を利用して荒船先輩の位置が割れる前に私達を各個撃破しにくるだろう。
二人の話によれば、学校にある反応がどうやら諏訪さんで、出水はバッグワームを使っているらしいが、学校の北東側に転送されたらしい。ということは、北側の一つと対角線上の一つは恐らく菊地原と米屋だ。転送位置としては、まずまずだが、やはり合流を急いだ方が良い。射線は考えずにスピード重視で行こう。こちらにはカメレオンがある。普段使わないけどステルスの風間隊なんだから、こういうときに積極的に使わないとね。動きは全く隠密じゃないが。
合流地点としては、射線が通りにくい場所の一つに学校から少し南に下った住宅街がある。ひとまずそこへ合流することにして、私は家屋に飛び乗ると、暗がりの中を走り出した。

《ところで落とすとしたら誰から落としますか》
《荒船を初めに落とせたら上出来だがそう上手くはいかねえだろうな》
《でも、この視界だし荒船先輩撃って来れないんじゃ……》
《そうは言っても荒船さんバッグワーム使ってんだろ》
《ああ、確かにこの視界じゃきちぃとは思うが何か勝算があんのかもな》

こちらから学校を見上げても、暗闇と雨であまりはっきり建物を捉えられないというのに、それでも荒船先輩は撃って来るつもりなのだろうか。今回は、自分の手の内が完全に知れた菊地原が相手にいるから、何かしら助言していそうで怖い。

《荒船さん落とせないなら、やっぱ菊地原が狙いすかね》
《だな。あの機動力とカメレオンはうぜぇ。米屋は最悪後で一気に畳み掛ければギリ何とかなる。、お前菊地原落とせるか》
《まあサシじゃ絶対負けませんよ。……って言いたいんですけど、今回菊地原はもしかしたら私との戦闘を避けるかもしれないですよ》

米屋か、もしかしたらスナイパーと見せかけて抜刀した荒船先輩が斬りかかってくるかもしれない。私の手の内がばれていると言っても、それは向こうにも言えること。結局戦況はさほど変わらないのだ。だったら菊地原が諏訪さんを倒しに行った方が確実だから自分が攻めるより、誰かに助言して潰しに来させる方が私が戦いにくくなる。

《つうと、菊地原が俺かあ? できれば米屋のが俺のトリガー的には有難かったけどな》

何にせよ荒船先輩の位置が特定できない時点で、誰とやったところできつい。狙撃を警戒しながら、住宅街の角を素早く曲がったそのときだった。ぱしゃ、と上方で何かの跳ねる音がして、飛んできた気配に、私は咄嗟に後ろへ飛び退いた。暗闇から出し抜けに現れたブレードの切っ先が首元のすぐそばを掠める。

「あっぶね!」
「相変わらずの野生の勘」

濡れた地面に滑りそうになって、私は鎌を支えにした。水が薄く張られたような道路は街灯に照らされ黒光りしていて少し気味が悪い。雨に濡れて頬に張り付いた髪を払って私は小さく息を吐いた。

「……あー、予想が外れたな」

スコーピオンを構えた菊地原は、「どーも」と相変わらず気だるげに言った。私は素早く合流地点まで道を確認する。逃げるか、いや、逃げらんないだろうなあ。菊地原には足音だけで捕まる。それに荒船先輩もまだどこに潜んでるか分からない。何より合流ポイントまでの最短距離の道を菊地原に塞がれていた。

先輩を捕捉しました。交戦します」
「……へー諏訪さんにつかなくて良いんだ?」
「別に、どっちとやったって一緒だよ」
「……」
「確かに相性的に諏訪さんの方が落としやすいけど、『サシ』でやって先輩に負ける気はしないしね」
「それは、こっちの台詞なんですけど――ね」

それから走り出すのは同時だった。息を吐く間も無く民家の塀を蹴った菊地原が二本のスコーピオンで首をめがけ斬りかかる。相変わらず動きが鋭い。つうか、また首かよ! 本気で殺しにきてるな。でも、勝負を急いてる感じ。

「おうおうやるじゃないの。やっぱ合流されたくないんだ?」
「喋ってると首なくなるよ」
「わあおもしろーい。……けどそれ誰に言ってんの?」

私は二つの刃ともを鎌の持ち手で受け止めて、そのまま柄の上を滑らせた。刃の弾けるような音。やっぱり斬撃はそこまで重くない。力じゃ負けないよ。
そのまま刃ごと菊地原を切り裂くつもりで右足に重心を移すと、それよりも早く、菊地原が上に飛んだ。切っ先が顔の横を通過し、間一髪のところでそれをかわしながら後ろに後退して体勢を立て直す。

《すいません、諏訪さん、ちょい合流すんの遅くなりそう》

菊地原のスコーピオンをいなしながら、通信を入れる。まさか菊地原が私に当たるとは思わなかったけど。

《んじゃレーダーのこっちに向かってんのは米屋かよ》
《恐らく》

きっと北西側にあった反応だ。諏訪さんのトリガー的に機動力に長けている菊地原と交戦するより、距離を取れる米屋との方が戦いやすい。交戦する相手としては有り難い展開だが、何だか都合が良い気がする。それにこの視界の悪さの中で荒船先輩が無謀にも思えるスナイパーの仕事をしようとしているなら、普通に考えて菊地原達が不利になることは分かってるだろうに。

《かー、合流間に合わなかったのが腹立つな》
《にしても菊地原がこっち来るとは思いませんでした》
《ぜってーやられんなよ。お前がこっちの最大火力だからな》
《分かってます、けど、でも、》

分かってる、確かに引っかかるなと、諏訪さんが私の言葉を継いだ。菊地原がこちらに攻撃を仕掛けてきた意味。考えすぎか? 単に菊地原が私に勝つ自信があるから他人に任せるよりむしろ自分で、ということだろうか。

《諏訪さん狙いで来たものの運悪く私だったってことでしょうかね》

どうであるにせよ、こちらに出水がいないという情報が今菊地原から他の二人にいっているとすれば、戦力的に荒船先輩は多分米屋の方へ援護に行くはずだ。でもその状況はあくまで結果論。出水がどこに潜んでるかも分からないのに菊地原が奇襲なんてしかけて、しかもそれは一か八かで、その状況に応じて戦力の足りない方に荒船先輩が援護を回す。まとめるとこうなる。随分ずさんな作戦だ。
鎌を回転させてスコーピオンを弾いていると、学校の方で微かに銃声が聞こえた。どうやら諏訪さんと米屋が交戦を始めたらしい。出水の合流も間に合わなかったか。

《出水、あとどれくらいかかる?》
《もうちょい、》
《着いたらこっちは良いから諏訪さんの援護して》
《……。了解》

何だ今の間は。まあいいや。しっかりやれよ出水。
それより荒船先輩がどこにいるのか分からなくて気が散るな。いっそ出水が合流したら菊地原をそのポイントまでさり気なく誘導してしまうのはどうだろう。出水に狙撃のカバーは任せるとして、リスクはあってもそれなら私と諏訪さん、2人とも戦闘に集中できる。それにあそこなら射線が通りづらいから荒船先輩も引きずり出せるかもしれない。
雨の音の中を割くように、キィン、と高い音が響いた。菊地原のスコーピオンを綺麗に折った私は弧月を下からすくい上げるように振ると、身体からブランチブレードを出し、すんでのところで菊地原が鎌の威力を抑える。彼の表情が僅かに歪んでいた。耐久力のないブレードは、砕けて菊地原は民家の塀に背中を叩きつけられた。
ここで逃がすもんか。素早くそれを捕らえようとするも、その瞬間、地面から伸びた刃が私の足を切りつけられたことによって、遅れながらもそれに反応した私は後ろに大きくバランスを崩した。

「っモールクローかよ! うっざ!」
「正解」

幸い切り裂かれただけで、切断は免れた。しかし暗がりにトリオンが漏れ出しているのがハッキリ見える。

「……ただでさえトリオン少ないってのに」

次から次へとモールクローは地面から伸び、あまり使いたくは無かったが私は痺れを切らしてグラスホッパーを浅く蹴って菊地原の懐へ飛び込もうとした。菊地原は地面を強く踏むと、私の上方へ回り込んでそれをかわす。私はギョッとした。振り下ろされたスコーピオンを慌てて張ったシールドが受け止める。

「あああ何なんだよさっきから……ッ」

どうにもおかしい。菊地原の戦い方は出水の射線をあまりに気にしない戦い方だ。確かに初めは出水がこちらにいなかったと分かっていても、後に私と合流したら菊地原は狙い撃ちにされるのは考えるまでもなく分かるはず。確かに私達は荒船先輩に動きを制限されているがそれは菊地原だって同じなのに、何故――、

「まさか、」

ハッと息を飲んだ瞬間だった。競り合いをしていたはずの菊地原が途端にその力を緩め、横に逸れたのだ。え。状況を理解する前に、菊地原のいなくなったその目と鼻の先にスナイパーの弾丸が迫っていた。……うそ。

「ッ――シールド!!」

弾丸はずぎゅん、と唸りを上げて私の左肩を削っていく。抉れた肩から漏れ出すトリオン。咄嗟にカバーした急所は外されたものの菊地原相手じゃ随分なハンディだ。しかもきっと荒船先輩の援護射撃は続く。

《諏訪さん、狙撃されました》
《はあ、何だと!? そっちにいんのかよ荒船ボケェ!》
《狙撃ポイントは捕捉不能ですすいません》

くそ、菊地原がギリギリまで射線上にいたのは、私にスナイパーの位置を見せないためだ。
私は弾丸にふらつくとその瞬間カメレオンで気配を消していた菊地原が背後から切り掛かかった。でも、落ち着け私。こういうやり方は読めている。菊地原の常套手段だ。素早くかわすと菊地原の腹へ蹴りをお見舞いする。久々にうまく入った。射線の通らない民家の方へ彼が押しやられる。「出たよ脳筋」「うっさい」菊地原は私のいかにも体術と言った攻撃が嫌いだった。理由は簡単。体術は伝達系も供給器官も破壊しない。身体を切り裂いてトリオンを漏れさせることもできないから。

「……っていうか荒船先輩すげーな……。この視界の中、しかも今全然角度ついてなかったんですけど、菊地原も何いつからこんな度胸ある戦い方するようになったの」
「発射合図と弾丸の音さえ聞こえれば、こんなの避けるのなんて簡単だよ」
「なるほどね。最初から菊地原が私のとこに素直に来るなんておかしと、」

思ったよ。最後の言葉は飲み込んで菊地原の斬撃をかわした。きっと、菊地原が私を捕捉した直後には荒船先輩は狙撃位置についていたに違いない。菊地原は初めから私とサシでやる気なんて少しも無かったんだ。この、策士め。
悔しくなって、ぐるんと鎌を大きく回した私は間合いを一気に詰めた。いつもの如く鎌の重みに全身を預ける。空気ごと切り裂こうと鎌を横へ振り切るその一転瞬、今度は先程よりも幾分か短い、着地点になるであろう足元に、弾丸が撃ち込まれた。――な。
足場を奪われた私は今度こそ体勢を崩して水浸しの道路へ転がっていく。《やばいやばい出水やばい、援護に来て!》と素早く通信を入れたものの、菊地原の構えに私は最初のベイルアウトを覚悟した。ああああ風間さんにこの醜態がどうか伝わりませんように! 心の中で唱えたその刹那だ。

「アステロイド!」
「――は」

私と菊地原の間を隔てる様に、目の前を何本もの光の柱が降り注いだ。まぶしい。
雨のお陰で埃は立ちにくいとは言え、爆風に私は思わず目を細める。そばで黒いコートが翻った。やばいやばい言い過ぎだろ、と声が降る。

「言われなくてももう来てんだよ」

さあさあと柔らかい雨が、土煙を収めていく。何で、どうして、いつの間に、だって諏訪さんの援護に行ったんじゃ、問いたい言葉はうまく出てこないまま、出水に腕を掴まれて、私はよろよろと立ち上がった。
出水は私のやられっぷりに、「珍しくやられてんな、いつもの威勢はどーした」なんて笑っていた。

「……う、出水ってばヒーローかよ」
「だろ、泣いて感謝しろ」
「ヤクルト奢るね……」
「何そのチョイス」





本部
( 160925 )