connect_15

純情
すぎた
レモンイエロー

我が立海には、クリーンキャンペーンという行事がある。どういう内容かと問われるまでもないと思うが、名前のまま、グラウンド及び学校周辺の地域のゴミ拾いをするというもの。ちなみに俺のクラスはグラウンドの担当だった。どうやって割り振っているのかわからないが、グラウンドの割り当てには二学年だけでなく、他学年もここからちらほら伺える。
担任が前で誰とでもいいから、ゴミを拾う人と袋を持つ人の二人組を作って作業をするように指示出しをした。
さて、正直面倒だから、真面目な奴と組んで、俺は袋を持つ係りに徹しようと思う。そうして俺は、周りをぐるっと見回していると、目ざとく視界の中にを捉えた。彼女はいつもの3-7メンツと話しているようで(ただし柳先輩はいなかった)、まだペアは見つけていないように見える。チャンス。


せんぱーい」
「およ?ワカメくん」
「なんだよ、赤也もここの割り当てかよ」


駆け寄って来た俺に、丸井先輩があからさまに嫌そうな顔をした。別にアンタと組む気ないんで安心して下さいよ。…とは流石に怖くて言えないので、じとりと睨みあげるだけにする。すると、ふと、視界の端にちょこまかと動く影が入って、俺はそちらに目をやる。落ち着きがなく歩き回っていたのは佐熊だった。彼女は、既に多くのゴミを手に抱えている。


「あ、佐熊先輩ここにゴミ入れていいッスよ」
「ゴミ!?どこがゴミなんすか。ね、丸井氏っ」
いや、俺に振られてもな。つうか360度あらゆる角度から見てもゴミ以外の何者でもねえよそれ


佐熊は「ゴミじゃないやい」と汚らしいパン等の袋のゴミを抱きしめる。ああ、いるよこういう風にゴミ屋敷を作る人。きっとこの人の部屋は俺の部屋以上に汚いと見た。も困ったように佐熊を見ている。先程からこの調子で一向にゴミ集めがはかどらないのだとか。


「ほら、丸井氏!あそこにもヤマザキ梅雨のパン祭りのシールがついた袋がっ」
お前、がめついな
「何を言ってるんすか。私ではなくパンを買うだけでタダで皿をもらう制度、そしてそれにとりつかれる庶民の精神こそ意地汚いがめつさの温床と呼ぶに値するっす。ね、氏!」
パンすら買わずに落ちてるシールだけで皿を得ようとしてる佐熊さんにだけは言われたくないと思うよ


丸井先輩とにダブルで、指摘をされた彼女は、渋々そのゴミを俺が持っていた袋に突っ込んでいたが、シールだけはきちんと剥がして確保していたという事実が確かに存在した。そして、その場にいた全員はそれをしっかり目撃した上であえてもう何も言わなかった。この人は本当に年上なんだろうか。まあいいや。そう思って、取り敢えずゴミ拾いを始めようとした時だ。


「おおう!エロ本見っけえええ」
「マジか!佐熊でかした!」
「端っこで読むっすよ丸井氏っ」
「あたぼうよ!」
アンタらガキか


エロ本て。目ざといなお前ほんとに。
そうして真田副部長の風林火山の風の如く素早く走り去った二人を見送ってから、取り残された俺とは顔を見合わせてどちらともなくため息をこぼした。
…まあいい、早速ペアの話を持ちかけてみるか。
俺は、肩を竦ませているに声をかけようと口を開いた、その時だ。誰かが、サッと俺達の間に割って入って来たのだ。


じゃないかー!…あとワカメも」


そこには、には爽やかに笑って見せたが、俺には一瞥しかくれなかったの兄貴がいた。現れ方も態度も何もかも鼻についたが、ここは耐えるべきだと頭の中の俺が言った。何たって「」の兄貴。
俺は今まで、他人に愛想を振りまいたり機嫌を取るような面倒な事はせずに思った事をそのまま顔に出すような生き方をしてきたから、作り笑いというものが苦手である。しかしここは俺的、全力の作り笑いという奴を見せてやった。


「この間は何か色々言っちゃってホントすいませんでしたー」
疲れてるみたいだな」
「俺、本当に悪いと思ってて、」
「どれ、お兄ちゃんとペアを組もう。分まで頑張るぞ」
オイ、ガン無視か


どんだけ俺が嫌いなんだよ。
相変わらず俺を無視し続けるの兄貴に、これは今回は諦めて別のペアを探すべきかと、踵を返そうとした。しかし、そんな俺の腕が誰かに掴まれ、引きとめられる。腕を掴んだのはだった。


「私はワカメと組むって約束してるの」
「何だって!?俺はそんな事許しません!」
「こんな所まで兄貴面しないでよ。たった二ヶ月差で生まれただけでさ」
「がーん」
効果音口で言っちゃったよこの人


に似てどこか不思議な人である。変人というのは遺伝するのだろうか。俺がそんな事を考えていると、強く腕を引かれたのに俺は釣られて歩き出した。
魂が抜かれたようにその場で佇むの兄貴が哀れに思える。繋がれた手にちらちらと意識を飛ばしながら、の背中を見ていると、しばらくしてから彼女は急に立ち止まった。


「あー…何と言いますか、ごめんね、付き合わせて。こんな時まで身内と一緒なんてちょっと嫌だったからさ」
「いや、いッスよ」


離された手を背中の後ろに回して、ぐっと握りしめる。なんだか照れた。俺はガキか。こんな事で舞い上がるとか。
彼女は、俺にはもう別のペアがいるのかと思ったらしく、行っていいよと笑った。いやいや俺はアンタと組むつもりで来たわけで。


「ペアいないんスよ」
「え、じゃあ一緒にやろうよ」
「マジすか」
「嘘です」
「ええええ!」
「じょーだんだって」


行こうか、そうやって彼女はけらけらと、楽しそうに再び歩き出した。ワカメと組めて良かったなあなんて、ちくしょう何だこの人可愛いな。
その後、俺はの前で、あまりダラダラした所を見せるわけにはいかないと妙な意地を張って、ひたすらゴミ集めに奮闘していた。だから一時間後には俺は精神的にヘトヘトに疲れていた。


「これは一生分の真面目パワーを使い切ったかもしれねえ」
「はははらしくなく頑張ってたねえ」
「いやまあ、」


へらっと力なく笑い返すと、そんな俺を見兼ねてか、彼女は校舎の隅の方へ俺を手招きした。そこはグラウンドからは見えない位置にあり、ベンチが備え付けてある。木陰になっているから休憩には良いだろう。きっとが気を使ってくれたのだと思うと、俺の周りにはこういう人がいないから妙に悲しくなった。


「ほんじゃまあ頑張ったワカメくんに、ジュースを奢ったげよう」
「ゴチでーす」


はそうして目の前の自動販売機で、適当なものを二本買って、それを俺に投げてよこす。(C.C.レモンなのに、炭酸だぞ。きっと悪意だ)俺の隣に腰をおろして、ホッと息をついたは木々の隙間から差し込む光に目を細めた。ここは日が当たっていないし、風がよく通るから幾分かマシだが、だいぶジメジメと暑くなってきたもんだ。きっと梅雨入りも近い。


「そうだ、先輩」
「んー?」
「佐熊先輩って、何者なんですかねー」


ふと先程の丸井先輩達のやり取りを思い出して、そこまで気になったわけではなかったが、試しにそんな話題を出す。彼女は俺の問いに困ったような唸り声を上げた。どうも同じクラスの彼女でさえ分かりかねる人物らしい。


「佐熊さんって、見ての通り変わった人だけど、それだけじゃないんだよ」
「んーと、つまりどういう事ッスか?」
「謎ばっかり。恋彼のジュースも謎だけど、家がどこにあるかも家族構成も誰も知らない。後はたまにフラッといなくなるし、突然雰囲気が怖くなったりする」


自分の知っている事を語って聞かせる彼女自身、何だか納得のいっていない顔をしている。これは相当謎な人間なんだろうな。


「そうそう。彼女には色々説があってだな」
「説?」
「佐熊さんは、オタク星から来たお姫様とか」
「何スかそれ」
「さあ?…あとはあの有名な跡部財閥に並ぶほどの大富豪の娘とか。あ、神奈川を総括するヤクザの娘説もあるよ」


下らない事を考える人間もいるもんである。オタク星は置いておくとして、そもそもあんなヤマザキ梅雨のパン祭りで興奮する人が、大富豪の娘なワケがない。お嬢様って言うのはもっと上品で、なんつうか、輝いてそうだ。ヤクザの娘っていう感じもしねえし。それに大富豪かヤクザなら名前で分かるはずだ。佐熊なんて大富豪もヤクザも聞いたことない。


「けど、そのどちらかなら何となく家の事隠すのは分かるよね」
「まあ、」
「あ、そうだ。佐熊さんについてだったら丸井君が1番知ってるんじゃない?」
「丸井先輩?」
「うん。あの二人何だかんだで仲いいから。…丸井君も何か隠してる気がするしね」


一瞬、彼女は何となく核心に迫るような声色でそう言った。俺は怪訝に思って、それがどういう事か聞き返す。しかし、は慌てて首を振って話をはぐらかしたので、結局詳しくは分からなかった。まあ聞きたければ丸井先輩に直接聞けばいいよな。そもそも佐熊に興味なんてないけど。
それから、話題が途切れて、俺達はしばらく口を閉じていた。沈黙は沈黙でも、決して気まずいそれではない。とても落ち着けた。
心地よい風が吹き、俺の眠気を誘う。そうやってウトウトしかけていると、前や後ろに揺られる俺の頭を彼女はそっと触れて自分の肩へと引き寄せた。頭は彼女の小さな肩にコツンと乗せられて安定感は得たが、代わりに眠気は失った。どきりと心臓が大きく打つ。やっべ、なんか超良い匂い。


「15分くらいしたら起こすから寝てて良いよ」
「えー、先輩なんかこういうんじゃなくて。あ、どうせなら膝枕して下さいよ」
「調子に乗んな、マセワカメ」
「けち」
「ジュースの金返せ」
「すいませんしたー」


話しているうちに緊張も少しほぐれて、ようやく力を抜いて彼女の肩に頭を預けることができた。普通は女が肩を借りる側だと思うけど、きっとこれは俺が彼女の後輩だから許されている事だろう。役得という奴だ。ありがたく賜る事にする。


「あ、ねえ先輩」
「…君寝たんじゃないの」


も少し眠たげに俺の声に答える。あまり声をかけたら怒られるだろうかと、様子を伺いながらあの、と口を開いた。


「夏休みになったら、部活も少し休みができたりすると思うんで」
「…」
「どっか遊びに行きません?」
「…」


彼女から返事はなかった。顔を起こして彼女を覗き込むと、すやすやと寝息を立てて寝ているではないか。お約束な人である。
俺は頭の後ろに腕を回して空を見上げた。


「ちぇー寝てらあ。…もう絶対遊びに誘うッスからね。遊びに行きましょうねー」


カンに入った残りをグイッと飲み干して、向こうにあるゴミ箱に放る。それは綺麗に放物線を描いたものの、枠に弾かれて、珍しく外れる。


「つまんねえの。先輩寝ちまうし」


俺がコロコロと地面に転がる黄色のカンを睨みつけ時だった。トンと、肩に何かが寄っかかってきて、再びふわりといい匂いが鼻をかすめる。俺は身体を強張らせた。


「仕方ないなあ」
せんぱ、…っ」
「それなら一日だけなら空けといてあげようかね」



(うおおおおどうしよう!)(めっちゃ抱きしめたい!)

もどる もくじ つぎ

( 久々なのでヒロインの口調が迷子 // 130328 )
お久しぶりです!あんまり需要ない連載なので待っている方はごく稀だと思われますが、マネジが落ち着いたのでこれからはこちらをちょくちょく書いていきます。