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一割未満

可能性


「おーい今日の日直誰だっけ」


の兄貴さんに喧嘩をふっかけるという大失敗を犯した約30秒後。荷物を抱えた先生、−−恐らくこのクラスの担任が教室に顔を出して、誰というわけでもなくそう問うたのほぼ同時に、俺が掴んでいたが解かれた。俺は少し名残惜しさを感じながらも彼女を見ていると、は私ですと、手を挙げる。すると安堵の表情を浮かべた担任は抱えていた荷物をと、ついでと言わんばかりに隣にいた俺に渡してきやがった。どうやら実験室に持って行けとか言う、所謂雑用なわけで。何で俺までとか思ったけど、そんなのがいる手前言えるわけがなかった。
結局俺達は昼休みの終わりが間もないにも関わらず、教室を追い出され、目的の場所へと続く階段をだらだら上り始めたわけである。
それにしても結構重くね?これ。中に何が入っているんだと俺は箱を覗けば、入っていたのは多分物理とかで使う大量の鉄球で。アイツよくもこんなもん押し付けやがったな。俺はそう眉間にしわを寄せた後、隣にいるを一瞥した。
俺が持ってもなかなか重いと思われる荷物をは文句一つ言わないで運んでいるのは、恐らく彼女もそれなりに体力とか、そういうのに長けているからだろう。真田副部長と剣道なんかやるくらいだからな。
無駄だと分かっていながら、重かったら持ちますよ、と声をかけてみる。男として大事だからな。こうゆーの。


「ああ、いや大丈夫だよ。軽いし」
「ならいッスけど」


やっぱりか。そう心の中でごちて、ちょっとだけ肩を落とした俺。その隣を歩いていたは、不意にあ、なんて声を漏らして立ち止まった。俺も釣られて足を止める。彼女の視線の先にはいつだったかと一緒にいた女がいて、(確かとか言ったっけ)誰かと愉快そうに電話をしていた。時折けたけたと笑う彼女の姿は俺が前に見た時と大分印象が違って見えた。俺が言うのもあれだけど、品がねえっつーか、意地の悪そうに見えてあまり好感は持てない。友達であるはずのも同じ事を感じたのから表情を曇らせて彼女を見つめていた。
しばらくするとは電話が終わった様で、ふと顔を上げた先の視線が俺達とぶつかった。一瞬気まずい空気が流れた気がしたが、はそれに気づかなかったのか、パタパタと上履きを鳴らしてに歩みよる。


「電話、あの赤メッシュ彼氏?」
「え、あー…、うん」


の彼氏は赤メッシュだそうだ。うわそりゃなんとも、なんて思ったけどウチも負けてねえなとすぐに思い直した。赤メッシュなんて可愛いもんだと。だって俺の先輩全部赤だぜ?。やばいよな。呟いたら君の頭もなかなか奇抜だよってに笑われてムカついたから足を思い切り踏んでやった。そうしたら狙ったのか何なのか足の上に荷物が落ちてきて、結果悲痛の声を漏らしたのはもちろん俺である。


「ところでちゃん達はこれからどこ行くの?」
「実験室。担任に頼まれちゃって」
「そっかあ。私も着いて行っていい?暇だし。あ、切原君荷物持とうか?」
ぜんっぜん大丈夫ッスから


はそんな俺の反応を見るなり満足げに頷いた。それからからかうように笑って冗談だよなんて、先頭を歩き始めるのだった。




せんぱーい。箱、ここに置いとけばいッスかねー」
「そうじゃない?」


の返答に俺は頷く。そしと箱を実験室の机に置けば俺は盛大に息を吐いた。吸っても埃と薬品の臭いしか入ってこないから今は吐くだけにする。俺この臭い超嫌い。逃げるように俺は一足先に廊下に出てしまうと、その時、がらりと何かを開ける音が耳に入った。振り返ればが薬品の棚の一つを開けている。


、先輩?」
「あ、いや、何かこの棚開いてるなあと思ってね」


は無用心だよねえ、と困ったように首を傾げて、がそこにひょこりと顔を出した。あーそれね、と話し出した彼女によればどうやらこの実験室の管理は大分お粗末なものらしいのだ。ほぼ倉庫化しているこの部屋は、薬品棚の鍵を月に1度しか点検しないらしいし、その癖かけ忘れがよくあるそうだとか。今は別の棟に新しい実験室が出来ちまったから仕方ないと言えばそうなってしまうのだろうが、果してそれでいいのか甚だ疑問だ。


「これ硫酸の棚だし先生に言わないと危ないよね」
「そうだね。あ、じゃあ私言っておくよ。次化学あるし。それじゃあそろそろ戻るね。またねちゃん、切原君」


ひらひらと手を振ったの背中を見送る俺と。しばらくしてから戻ろうと手を拱いたのはの方だった。




(なんか、あの人…)(どうしたワカメ)(っだから!ワカメじゃないッス!!)(えー、なんだっけ?)

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あああ、宿題やんないと。
111216>>KAHO.A