connect_13走り出した日々はあまりに 極彩色 立海で学年全体での集会があった。こんな朝っぱらから一体何なんだと壇上の校長を見上げていた俺だったが話は簡単だった。女子生徒が誰かに斬り付けられるという事件があったらしい。名こそ伏せてあったけれど、誰の事だかすぐに検討がついた。何故なら俺のクラスに先日から休んでいる奴がいるからだ。そしてその欠席の理由に、そいつが誰かに襲われただの、どこぞの不良に絡まれただの根も葉も無い噂が女子の間で流れていたのを俺は何度か耳にしていたから。その女子は俺から見てもかなり目立ちたがり屋で、柳先輩の言葉を借りると高慢ちきな女だった。だから彼女は皆(少なくとも女子からは)嫌われていて、そんな噂も普段の腹いせだとか嫌がらせの一貫なんだと思っていた。しかしそれが事実ともなると正直驚く。ちなみに襲われたのは下校途中で、犯人の顔は見ていないと言う。気をつけるようにと言われたが気をつけようがないぜ全く。 まあ基本的に俺は先輩達と帰るし、あの人達がいる限り誰かに襲われるなんて事はまず有り得ねえ話だけど。体育館から教室へ戻る途中、俺はそう一人、苦笑いを浮かべていると、キモいぞ馬鹿也ーなんて頭を殴られ、聞き覚えの有りまくりなその声の主に、非難の声を上げた。 「何するんスか丸井先輩!」 「いやキモかったから」 「ひでえッス」 俺はさっきまで考えていた事を話すと、先輩は興味なさ気にガムを膨らまし、頭に手を回して聞いていた。正直丸井先輩のこういう所ホントにムカつく。 先輩は、俺の話が終わるなり、飽きれ顔でお前知らねえの?なんて口を開いた。彼の話によれば、どうやら今回の事件が最初ではないらしい。今日話題に上がった女子程ではないものの、最近怪我をしている生徒が続出しているという。それは今の所、全員女子。だから密かに女子生徒だけを狙っているのではという話が出ているそうだ。確かに男よりは狙いやすいだろうな。 「俺のクラスにもいたぜ。媚び売りまくりの化粧がキツい女で俺としては休んでくれてラッキーって思ってたけど、こうなるとちょっと可哀相な気もする。ま、今は普通に学校来てるけどな」 「…へえ」 女だけを狙ってんなら先輩もあぶねえんじゃねえかって考えが過ぎった。あの人帰宅部って聞いたし、一人で帰ってそうに思う。一緒に帰るチャンスにもなるし、先輩には部活終わるまで待たせておきたい所だが、面倒の一言でバッサリ斬られのがオチだろう。そんな事はさておき一人で帰らないように忠告するべきだと踏んだ俺は昼休み先輩の教室に向かおうと密かに決めた。その時丸井先輩が拳を俺の頭に落とす。 「いてっ」 「おい赤也聞いてんのかよ!」 「聞いてますって!殴んないで下さいよー」 「じゃあ今なんの話してたか言ってみろい」 「事件の話っしょ」 「ちげえよ!パスタの話だろうが!」 「ああもうどうでも良いッス」 それから昼休み。心配だったから来ましたなんてちょっと恥ずかしいから購買に寄った帰りについでに来ましたなんて建前で俺は3-7を覗き込んだ。恋たる彼氏のジュースを啜る女がすぐに目に入り、俺は逃げるように彼女から目を逸らした。もうあのジュースは貰いたくない。 再び教室の中を見回していると、男子生徒と話しているを見つけた。…親しげじゃん。口を尖らせて話している彼女達に近づけば、はふと俺に視線を移した。あれ、ワカメじゃないか、そう言った彼女の言葉にもちろん落ち込まない俺がいないわけがない。 「…はい、ワカメですけど…」 「うわ、認めた!てかどうしたの色んな意味で」 「いや別に、ちょっと」 今朝の事で、と付け加えようとした俺は、隣から殺気を帯びた視線を感じて、ちらりとそちらを見遣れば、先程までと話していた男がすごい剣幕で俺を睨んでいた。何だよ。会話邪魔したってか?俺に声かけてきたのはだぜ?少しばかり優越感に浸れたのは俺だけの秘密である。 「おい、知り合いなのか」 「うん、あの、」 「俺と先輩は所謂マブダチとか言うやつッスけど、何か」 男に、の事名前呼びかよ、というツッコミは入れなかったけど、代わりに俺も先輩を名前で呼んでやった。悔しげに相手のギリギリと歯ぎしりをする姿がとんでもなく憐れ。やっべ、最高。笑みを浮かべている俺。その態度に耐え兼ねたのか、慎めよワカメ野郎!なんて指を立てて叫ぶもんだから思い切り睨んでやった。昔の俺ならぶちギレてコイツを殴ってただろうが、今は違う。あの高校生と合同でやったなんとか合宿に感謝だ。 「…、変な男には気をつけろよ!とと特にコイツのような!」 俺に恐れをなしたか、男は捨て台詞のような言葉を吐いて颯爽と出て行ったが正直格好悪いぜお前。奴の背中にヒラヒラと手を振っていると、それを見ていたが俺の肩にポンと手を載せた。いきなり仲悪いね、と苦笑。 「気に食わなかったんで。つか、アイツ誰スか」 「あれ?あれは兄貴だよ」 「…マジで」 「マジで」 こくりと頷くに、うわあー…と思わず俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。やっべ、ミスった。そんな俺の様子に、案の定は怪訝そうにだからどうしたのーなんて俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。…いや別に、何でも。まあ過ぎた事は仕方がない。とりあえず目的を達成すれば良いのだ。俺は頭に載せられていた彼女の手を掴むと顔を上げた。 「集会の事ッスけど、先輩ちょっと抜けてるんで、気をつけてくださいよ」 「うわ酷」 膨れるの事はこの際気にしない。何かあったらメールか電話下さい。俺がそう続ければ、はふわりと優しい顔でありがとうなんて言った。そんな顔が見れるから、ああ、やっぱ来て良かったなんて俺は舞い上がっちまうんだよな。 (ていうか、さっき兄貴にも同じ事いわれた)(それだけ心配なんすよ)(ワカメ君も?)(…ま、まあ、) もどる もくじ つぎ ---------- 続きをお願いしますという声が上がったので、書いちゃいました…!お待たせしました。7ヶ月ぶり。 111215>>KAHO.A |