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照れ方

分からない


柳先輩に言わせると「学習能力がないな」
真田副部長に言わせると「まったくもってたるんどる」

そんな忘れ物が目立つ俺でも、弁当を忘れることなんてなかった。もちろん中学の頃から。ああもう腹減って死にそう。今日は大して金持って来てねえし、このままじゃ午後練死ぬ。机に額を打ち付け一人ごちた俺は、今頼れる人間を脳内検索する。コンマ秒数で弾き出されたのはジャッカル先輩だった。先輩にお金を借りて、ダッシュで購買に行くしかない。さっさと行かないと売り切れちまう。
丸井先輩にジャッカル先輩の有り金を全て使われてしまうことを恐れた俺は、教室を飛び出し、ジャッカル先輩の教室を目指した。ドダダダと騒がしく3年の階を駆け巡る俺は部長に褒められるんじゃないかってくらいの俊足を披露していたわけが、しかしいきなり誰かに腕を掴まれ、後ろに引き戻された。うわ何か寒気。誰が腕を掴んでるかなんて、確認せずとももはや気配で分かるようになってしまったその人物とは勿論真田副部長のことである。
ぎぎぎ、と音がなりそうなくらいぎこちなく振り返った俺は、一喝を入れる直前のその瞬間をしかと見た。
…神様。


「赤也!!廊下を走るなとあれ程言ったではないかこのたわけえええ!!」
「…っすんません!」


あやまるはあやまるが、ここで長々と説教を喰らう気はさらさらない。俺は副部長の腕を振りほどいて走りだしたが、すぐに誰かに衝突した。ぶつかった相手は女のようで、ふらつく彼女の腕を掴んでやる俺は、相手に適当にあやまって再び逃げようと顔を上げる。しかし口から出かけた謝罪は喉まで引っ込み、代わりに、目の前の女生徒の名前を口にした。俺がぶつかったのはだった。


「何だ君か。…あ!真田君っ」


目が合ったのはほんの一瞬で、すぐに俺の後ろにいる副部長に気づいてそちらにかけて行った。横を通り過ぎていくを見ることは、何だか悔しくて俺には当然できなかった。おいおい俺より真田副部長かい。そういや二人は幼なじみなんだよなあ、とわざと声に出して言ってみた。むなしくなった。
俺の後ろではが、自分の父さんが副部長と手合わせしたいだのなんだので、道場に来てほしい事を伝えている。
とりあえず俺がこのままここにいたら嫉妬でに当たっちまいそうだから、さっさと退散するに尽きるだろう。副部長から逃げられて丁度良いじゃないか。
無理に納得させて、そこから逃げるように大股で歩き出す俺は当初の目的を忘れてひたすらに屋上へ向かっていた。


「…っだーくそ!」


副部長の馬鹿野郎!
屋上に着くなり本人の前では口が裂けても言えないワードを口にし、屋上のど真ん中に寝転んだ。ああ、何か青春。
そこでようやく自分がかなり腹減ってる事に気づいて、何だか情けなくなって、試しに腹が減ったと呟いたら、その声はホントに情けなかった。


「そんなにお腹減った?」
「…。…え、は、先輩!?な、ここ、ええ!?」
「お願い、日本語喋って


いつの間に来たのか、は俺の顔を覗き込み、かと思うと、真上から顔面めがけてパンやらジュースやらをぼとぼと落とす。いた、いたいたいたい。
ちょ、一体なんスか!と状態を起こし、を睨むと彼女はお礼、なんて最後に恋たる彼氏のパックを差し出した。正直これはいらねええ。


「…てか先輩、真田副部長と話してたんじゃ、」
「あーまあね。でも君にも用があって。真田君と話した後に思い出したんだけど」
アンタひでえな


拗ねたように口を尖らせ、彼女に背を向けるとごめんごめんと謝りながらはさっき俺に落としてきたパンを拾う。「一緒にお昼食べようよ」え?


「…だって俺、昼飯もってな、」
「あげるよこのパン全部。あと恋たる彼氏も
遠慮します
「えええ」


とりあえずお言葉に甘える事にしてパンを頂くことにした。(先輩はどこに隠し持っていたのか弁当を取り出し俺の横でにこにこ食べ始めていた)


「…ところで、お礼って何のお礼スか」
「え?…そ、れは、あれだよ。こっ…この前、のとか…?」
「この前?」
「君が私の家に…来た時の」
「ああ、手当?」


別にあれくらい良いッスよ、と続けた俺にはもどかしそうな顔で俺を睨んだ。それもそうだけど違う!なんて言われたってなんのことだかサッパリだ。怪訝な顔でを見ていると、彼女は視線を落として口を開いた。


「…ずっと、迷ってたんだ、道場継ぐの。こんな私にできるのかって。色んな事から背を向けて逃げてる私には無理だって」
「せんぱ、…」
「でも、君の言葉で、ちょっと救われたって言うか。頑張ろうって思えた。そんな風に言ってくれたの君くらいだったし、……嬉しかったの…」


あーもー恥ずかしいい!なんて膝に顔を埋めるだったが、俺だって今どうしようもないくらい顔、赤い。
しばらくお互い黙っているとが埋めていた顔を少しだけ上げた。


「…君って良い奴なんだね。今まで酷い事言ってたらごめんね」


言ってたらって、自覚なしですか。そりゃそうか。「繋がらない」人は名前すら覚えてもらえないんだからな。つーかこの人絶対名前覚えてねえよな。今日1回も呼ばれてないし。


「もう気にしてないッスよ」


小さくため息をついた俺は苦し紛れに笑って、空を見上げた。




(これが惚れた弱みってやつか)

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寝ながら書いてた。やべ2ヶ月ぶり!お待たせしました。

110803>>KAHO.A