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リアリスト

笑う


「ちょっ、佐熊先輩!」


待ってくださいと俺は歩きだした彼女を追うが彼女は無言のまま、歩きつづける。周りの生徒が不思議そうな顔で俺らを見つめた。が、気にしない。とにかくマジで待って欲しい。さっきのは、『繋がる意味』ってのは一体何なんだよ。俺が何を言っても、佐熊は止まろうとも口を開こうとする気配もない。「ちょっと待てって!」そう佐熊の肩を掴んだ瞬間、思い切り振り払われて俺は足を止めた。


「しつこいっすね。何」
「何って…だから、さっきの『繋がる』意味がどうとか」
「あらーそんな事言ったかなあ」


忘れちまいやしたとへらへら笑う佐熊に俺は、はあ?と口を開く。とぼけんなよ。一体何なんだアンタ。全部知ってるみたいな顔しやがる癖に結局何も教えちゃくれねえのかよおい。はぐらかすなよと睨みつけると丸井先輩やジャッカル先輩が慌てて止めに入ってきた。でもそんな事はお構い無しに、佐熊を問いただそうとすると彼女はやっとストローから口を離した。


「あのさあ、知ってどうすんの」
「…は?知ってどうするか?」
「後先考えずに深いとこまで首突っ込まない方がいいんすよ。特に君みたいな人間は」


ずず、とジュースを飲み干したらしい佐熊は近くのごみ箱にパックを投げ捨てて再び俺に向き直る。俺達はしばらく対峙していたが、痺れを切らした俺が口を開こうとした。しかしその前に佐熊がにんまりと不気味な(ホント不気味な!)笑顔を浮かべた。


「ま、そうは言っても、私の言う『君みたいな人間』というのは所詮私の憶測の中の人格なのである」
「………はあ?」


いきなり何だ。
つーか、何か今ので空気に緊迫感がなくなった。
俺の反応に何故か満足そうに微笑んだ佐熊はぴしっと指を立てて俺の前に突き出した。「私は狙っているのだ」って、は?何?


「一発逆転の大革命を」


お、おう?どんどん意味が分からなくなってきた。眉を潜めて佐熊を見つめていると隣にいた丸井先輩が急にため息をついて、俺の肩を叩いた。気にすんな、と。え、意味不明。


「今のはグリコーゲンなんとかの名台詞なんだよ」
「は?グリコーゲン?」
「違うよ丸井氏。グリコミングステン=サン=パパラッチ5世の名台詞その17だよ」
「…」


ああ、ほんとにわけが分からなくなってきた。とりあえずジャッカル先輩に助けを求めるつもりで後ろを見ると先輩はすでにそこにはいなかった。おい、逃げたな。
つか何か俺も疲れたから帰ろうかな、クラスに、とか思ってたら丸井先輩が簡単に説明してくれた。どうやら佐熊は真面目な雰囲気になるといつも、このグリコーゲンなんとかの名台詞を吐くらしい。つまりはぐらかしてるってことだな。『私の憶測を…』の下りからもう名台詞だったらしいけど、っておい。今した会話の大分部かよ。ちなみにグリコーゲンが誰なのかは丸井先輩も不明だとさ。


「あの、何でも良いんでとりあえずさっきの事について聞きたいんスけど」
「あ、パパラッチ?」
ちげえよ。何で?何でそうなんの?


一発殴ってやろうかと握りこぶしを作ると急に真面目な顔をして、佐熊が仕方ないっすねと息を漏らした。


「そんなに知りたいんすか」
「…まあ、」
「…」
「俺だけ仲間外れみたいに聞こえるし、何かモヤモヤするっつーか、でも、」
「…。そうだね、君は仲間外れなんだよ」


顔を上げた俺は、面倒そうに髪をいじりはじめた佐熊を見つめた。…何でだよ、と口を開く俺に佐熊はちら、と視線を俺に移す。


「だから、氏はずっと言ってるっす。切原氏が『繋がらない』って」
「だからその『繋がらない』って言うのが何なのか、」
「そのまんま。と繋がりを持たない、切原赤也」


意味、わかんねえよ。繋がりを持たないって、つまり赤の他人って言うこと、だろ。そんなのおかしい。だって俺はの名前だってクラスだって知ってる。だって俺の名前は覚えてなくても顔を見れば誰か判断できるだろうし、メアドだってお互い知ってんだ。それなのに赤の他人って、おかしいだろ。


「今切原氏の考えてる事当てようか」
「…」
「お互い名前も教えあって会話もしたことあるのに『繋がらない』なんておかしい。そうっすよね」


黙っている俺の反応を肯定と判断したらしい佐熊は何かを言ったが、彼女の言葉は5限目の予鈴に掻き消される。なんて言ったのか問おうとしたがその前に佐熊は再び話し始めたから俺は口を閉じた。


「簡単に言えば極度の人見知りっすね。ガードが堅すぎる人間。そんだけ」
「そんな適当な、」
「それ以上言う気はない。言う義理がないっす」


急に冷たく言い放った佐熊に、隣にいた丸井先輩が顔を逸らした。それに反応するかのように彼女はテニス部のせい、とわざと大きな声で言ってみせた。


「テニス部のせい?」
「そ。テニス部のせい、とも言えるし、そうでないとも言える。ただ、切原氏のせいではないと思うっすけど」


気にしない方が良いっすよ、佐熊はそう言ってどこからかまたパックジュースを取り出し、俺達に背を向けて歩きだした。




(余計分からなくなった。アイツが、)(全てが、)

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テストから戻ってまいりました。お久しぶりです。
ホント久々に書くとわっけわかんないですね笑
110531>>KAHO.A