connect_08引き留め方を 知らない 丸井先輩お気に入りのガムが弾けて、またすぐに膨らむ。自分から口を開いた癖に一向に続きを言わない先輩に、どうしたんスかと尋ねてみた。すると先輩が急に立ち止まったから俺らも釣られるように足を止めた。 「この時間帯、ここら辺はアイツがいるんだぜ?」 「アイツ?」 「そ、アイツ」 お前のお気に入りの、と続けられ、脳内検索をかける間もなくすぐに誰だか分かった。俺は慌てて違いますと否定してみるものの、先輩のにやけ顔に墓穴を掘った事を知った。あー畜生。 「ほら、そこにいるし」 「…は?」 指をさされた方に視線を移すと猫に囲まれたがそこにはいた。 ていうか猫に話しかけてる。うわ、電波?これが世に聞く電波? 「…なんスかあれ」 「いやー、俺も最初見た時引いたわ。もう慣れたけど」 慣れるもんじゃねえだろおおお。 は俺と話している時以上に楽しげに笑って猫と話してやがる。(うわ、ちょっとショックっつーか、)(なんつーか) 「行けば?」と丸井先輩が不意に口を開く。は?良いッスよ別に。 「おー何じゃ赤也、が好きなんか」 「なんでそうなんスか」 「だってブン太が言ってたじゃろ。赤也のお気に入りの子がここにいるって」 の事じゃろとニヤリと笑った仁王先輩に、誰があんな電波、と反論したがすぐに口を閉じた。気にならないと言ったら嘘になる。 「……先輩達先に行ってて下さい」 「やっぱ気になんじゃん」 「…悪いんスか」 「いーや」 「俺らはただめんどくさいのを気に入ったなあと思っただけなり」 「…」 ま、頑張れよーなんて思ってもない事を言った先輩達はヒラヒラと手を振ってコートの方に歩いて行った。対して俺はの方に足を進める。 俺かの背後に立つと、彼女が話しかけていた猫がトトト、と俺から遠ざかる。 「ああ、キャサリンさんどうしました」 「にゃー」 「え、後ろ?後ろが、ってワーカメ」 「誰が」 いい加減名前覚えろよとか思いながらの隣にしゃがみこむ。何してんスかと尋ねてみると会議だと素っ気なく返された。ああ、猫と会議ね。頭の中ふわふわしてんなー。 「この猫はキャサリンさん。私の姉です。で、こちらは父上。私の兄です」 「あーえっと、とりあえずどこにツッコめば良いんスか」 「あーやっぱワカメも私のこと馬鹿にするんだね。丸井君もそうだったけど」 キャサリンさんとやらの頭をふわふわ撫でるは少しだけつまらなさそうに口を尖らせた。いや、まあそりゃ馬鹿にするのが普通の反応っつーか、うん。 は別に良いけどね、と俺を一瞥してから立ち上がった。彼女は猫達に向かってまたねと手を振る。にゃあと返事を返した猫達は一斉に散って行った。え、もしかしてマジで通じてる? 「猫と、話せんの?」 「見て分からなかった?」 「話せるんスね」 「犬とも話せるよ」 はったりじゃなさそうだ。テレビでこういう人よく見るけど本当にいるんだな。すげえ。 隣にいるをちらっと見遣ると彼女は小さくため息をついて、あのさと口を開いた。 「動物は一度仲間意識を持ったものを絶対裏切らないんだよ」 「…はあ、」 一体なんの話しだよとか思いながらもとりあえず頷くと、彼女は苦笑した。分からないよね、と。何でそんな悲しそうな顔すんのか全くわかんねえ。俺らの間に沈黙が流れ、それがあまり良いもののでは無かったから俺はそういえばと呟いた。 「何でメールしてくんないんスか」 「は、メール?」 「メアド渡したっしょ」 「……。ああ」 はポケットに手を突っ込むとくしゃくしゃになった紙を出した。それはあれか。俺のメアドか。そうだろ。あああ正直ここまで扱いがひでえとは思わなかった。 「ごめん、忘れてた」 「…もういッスよ」 「あ、メールしなくていい?」 「そういう事じゃなくて」 良いから携帯出せとを急かすと、は少し躊躇った後、白い携帯を出した。以前に佐熊から貰っていたものだ。 そういやは2つ携帯を持ってるけどどうしてだろうと思いながら、俺は赤外線でーなんて言いって自分の携帯を出す。 「ねえワカメ」 「そろそろ名前覚えて欲しいんスけど」 「携帯カッコイイね」 「無視ッスか。でもありがとうございます」 はいえいえと携帯を弄りながら答えた。そしてじゃあねなんて背を向けて帰って行く。相変わらず素っ気ねえ。 テニス見ていって下さいとか言えれば良かったのに何だか言えるような感じじゃなかったから俺は盛大にため息をついてコートに足を向けた。すると不意に携帯がなる。早速からのメールだった。 「え、早」 これからよろしくねとか可愛いげあるメールは絶対ないと思いながらも、まさかまさかとどこか期待して、俺はメールを開く。 『君の名前何だっけ』 ちくしょう。 (赤也だって!切原赤也!) もどる もくじ つぎ ---------- いつになったら名前を覚えるやら。 110503>>KAHO.A |