connect_07色であふれた世界の 中で 「あ、そういやここら辺で新しいテニスコートできたの知ってます?」 もそもそと制服に着替えながらふと思い出した事を口にする。パイプ椅子でバランスを取りながら座る丸井先輩が、知ってると一言返してきた。 ここだろいと目の前に雑誌を突き出された俺はそれを受け取る。へえ、月刊プロテニスで特集されてんじゃん。 かなりでかいし設備が整ってるらしいから興味はあったがここまでスゲエとは思わなかった。 「どーせ部活早く終わったんだからちょっと行きません?」 「はあ?ばーか。部活早く終わったからこそケーキバイキング行くんだろぃ」 なあジャッカル、とジャッカル先輩に同意を求める丸井先輩だったが、ジャッカル先輩は苦笑しただけで頷かなかった。ま、そりゃそうだ。 部活で行く暇ねえし、こんな時くらいしか先輩達も付き合ってくんねーだろうから、行きましょーよーとか無駄に粘ってみる。 「あーしょうがねえな。軽く打つだけだぞ。せっかく先輩様が付き合ってやんだからお前なんか奢れよ」 「げ」 「それがスジってもんだろ」 「そうなんスか」 「そうなんだよ。よし、そうと決まればさっさと行くぞ。仁王も来いよ。赤也が何か奢るって」 「言ってないッス」 ジャッカルは拒否権なし、とか言いながら鞄とテニスバックを担いで意気揚々と部室を出た丸井先輩は、仁王も拒否権ねえよ?とか言いながら笑った。何だよ。結局誰にも拒否権ねえんじゃん。 「俺行きたくないんじゃが」 「拒否権ねえっつったろ」 「かったる」 「お前なあ。3人で行ったらダブルスできねえだろ」 ダブルスやる気なのかよお前。どこが軽く打つだけだよ。本気じゃねえか。舌打ちした俺に文句あんのかよと先輩が睨みつけてきたから慌てて首を振る。うわこええ。 「ま、手加減してやんよ。お前らダブルスダメだもんな」 「一応俺も仁王先輩もダブルスやるんスけど」 「お前は柳いないとダメじゃん。仁王も柳生いねえとさ」 つか仁王はともかく赤也は柳と組めなきゃダブルス向いてねえとかサラリと言いやがるからちょっとムカついた。何だよ。シングルスで十分だし。 「お前自由に動きすぎなんだよ。もっと周り見ろ。なあジャッカル」 「お前にその言葉を言ってやりたいぜ」 「お?」 自由に動きすぎってか、もっと動いてくれ。そうため息をついたジャッカル先輩が何だか哀れに見える。まあ丸井先輩はそれで実力あるからあんま文句言えねえんだと思うけど。 その後も丸井先輩の変な説教みたいなのを喰らいながらダラダラ歩いていると、不意に丸井先輩の携帯が鳴って、先輩はそれを取り出すなり顔をしかめた。またコイツかよと。 「彼女ッスか?」 「いや、ちげえ」 「ああ、元カノ」 「違う違う」 ぱたんと携帯を閉じて息をついた先輩に、仁王先輩が苦笑した。違うぞ赤也、と続けて。 「ブン太の元カノの前の前の前のそのまた前の彼女じゃよ」 「ちっげーって。元カノの前の前の前の前のそのまた前の彼女だよ」 マジでどうでもいい。つーか彼女いすぎっしょ。呆れる俺に仁王先輩がいい加減にしてくれんと紹介できる女ももうあんまいないんじゃけどなんて口を開いた。へえ。仁王先輩が紹介してたんだ。 「いやまあ、俺っつーか、俺の元カノの前の前の前の前の彼女の友達じゃけど?」 「…ああ」 アンタも何してんだ。それでテニスに支障が出ないのがムカつく。 いい加減にしたらどうなんスかと今度は俺が文句を垂れてみると丸井先輩に生意気だと殴られた。 「…ってぇ」 「お前みたいなガキんちょには分かんねえの」 「分かりたくないッスけどね」 女取っ替え引っ替えしてるとか大分ひでえよ。とは言わねえけど。どーせまた殴られるから。 「に、しても赤也は思ったより一途な奴じゃからの」 「お前も俺らの仲間かと思ったのに」 最悪な仲間だなそれ。まあ俺だってもう何人かと付き合った事あるし、それなりにやることはやったけど、それは先輩達と違ってマジで好きだからで、あーこんなこと言っても仕方ねえじゃん。 嫌ッスよと素っ気なく答えた俺の言葉なんか聞かず、思い出したように仁王先輩は口を開いた。 「そうじゃブン太。可愛い子一人おるけど、メアド教えちゃろうか」 おいおい。勝手に教えんのかよ。とんでもねえな。どうせまた食いつくんだろうな、と丸井先輩を一瞥すると、先輩は視線を落とした後、あー…いい、なんて笑った。…は?え、アンタマジで丸井先輩? 「ん、目当ての奴でもおるん?」 「…いやいねえけど、」 まあ一応キープはシクヨロとかやっぱ丸井先輩だなあと思わせるような一言を付け足した先輩は、見えてきたテニスコートに、そういえばさあ、とわざとらしく話題を変えるように口を開いた。 (そういや先輩からメール来ねえ…) もどる もくじ つぎ ---------- 前回の更新から1ヶ月以上たってる…!! ごめんなさい。 110427>>KAHO.A |