connect_05プラスの要素は ひとつだけ 「切原君、多分呼んでる」 机で眠りこけていた俺はクラスの女子に起こされ、顔を上げるとソイツは少し申し訳なさそうな顔をして廊下を指差した。多分ってどういうことだ。眠気眼で目を移すとそこにはがいて、俺と目が合うなりヒラヒラと手を振った。眠気が吹っ飛ぶ。 「なん、は!?先輩!?」 「ワカメくーん!あーのさー!」 教室にいる皆の視線がに集まった。彼女は全く気にしていないように大声で俺を呼ぶ。俺が恥ずかしくなってきた。マジでやめてくれ。 俺は慌てて立ち上がるとの所にかけて行き彼女の口を手で塞ぐ。 「ちょ、何スか!」 「むぐ、君に話があってね」 「…。移動するッスよ!」 「え?何で」 「いーから!」 ぐいぐいとの腕を引き、皆から注目を浴びながら屋上にたどり着いた俺はその場に座り込んだ。「大丈夫かい」なんて隣にしゃがみ込み俺を覗き込むに舌打ち。つか何でこの人ポケットにマジックペン入れてんだ。相変わらずわけ分からん。 「で、…用事は?」 「あのね、昨日君にこくまろカレーだから」 「意味全然分かんねええ」 「あ、ごめん間違えた」 「…」 どうやらは昨日俺が帰った後に佐熊に謝りに行けと言われたから今日俺を訪ねてきたらしい。よく分かってねえのに佐熊に言われたから謝りに来たのかよ。じとっと睨むと「私もそれは良くないと思う」なんてぬかしやがった。 「まあ君から理由を聞いてから謝ることにするよ」 「…別に、怒ってねえし、」 「えーじゃあ私帰る」 「…え、」 むだ足じゃないかと言わんばかりの顔をして立ち上がるの腕を、俺はとっさに掴んでいた。ここまで素っ気ない人は初めてだ。もうちょっと、しつこいかと思った。 「何?」 「…あ、いや…えーと…」 無茶苦茶気まずくて、でも手は離す気にならなくて、しばらくそのままでいると本鈴が鳴り響き、それを聞くなり深いため息をついたは俺の腕を解いて再び隣に腰を下ろした。「君のせいだからね」と口を尖らせて。 「サボった事ないのに」 「…すんません」 何で俺が謝ってんだ。わしゃわしゃと頭を掻き乱しているとは「何で怒ってたの?」と尋ねてきた。「怒ってたんでしょ」と。 何かちょっとガキみたいで悔しくて、そんなに怒ってないッスけどっなんて先に言っておく。この方がよっぽどガキみたいだ。 「…誰だって、『繋がらない人』とか言われたら気分悪りいッスよ」 「ああ、…うん」 「…名前覚えてくんないし」 何なんスか覚えられないって、そう続けて俯くとは一度だけ「ごめん」と呟いた。拗ねたように言っただけなのに、心から申し訳なさそうに俺を見つめたからどうしたら良いか分からなくなった。 しばらく困惑していると不意には微笑んで、「それにしても」なんてさらりと話題を変える。 「『ワカメ』っつーのは万国共つ、……各学年共通なんだね」 「おいお前今最初何つったよ、あ?つかぜんっぜん、ごまかせてねえからな」 隣でへらへら笑うを睨みつけると「やだなあ、冗談だよ」と俺の背中を叩く。 …あ、てかさっきクラスの女子が申し訳なさそうにしてたのってワカメで俺だって理解できたからかよ!…何かもう怒りを通り越して悲しくなってきた。泣きてえ。 「そういやアンタさあ…」 「ん?」 「その様子じゃやっぱ名前覚えてねえんだろ」 「え!?」 数秒黙り込んだ、いや固まったに俺は瞬時に覚えてないんだと判断した。しかしコイツは「お、覚えてるさ!」なんてわざわざ立ち上がって無駄に力強く言い切る。 「へえ…、じゃあ言ってみてくださいよ」 残念ながら俺は名札なんて律儀につけない主義(上履きにも名前を書かない主義)だから、分かりっこない。はふいに自分の両手の手のひらを数秒見つめてから顔を上げた。 「赤也切原!」 「逆だ逆」 何故そこまで分かって逆に言う。は慌てて再び両手を見つめ「しまった逆に書いたな佐熊さん!」とか言ってる。その行動を怪訝に思った俺はの腕を掴んで引き寄せた。彼女の右手のひらに『切原』、左手のひらに『赤也』と書かれている。 「…これは?」 「ち、違う!別に佐熊さんに頼んだんじゃないからっ…そう!彼女が名前を思い出せるおまじないだって言って、」 「そりゃ思い出せるだろうな、まんま名前書いてんだから」 ああ、だからポケットにマジック入ってたんだな。苦笑した俺はの制服のポケットにするりと手を突っ込んだ。が顔を赤くして「変態だ」と叫んでいる。たかがこんくらいで。 騒ぐは気にせず俺は彼女の手を掴むと甲にペンの先を当てた。とりあえずデカデカと俺の名前を書いてやる。 「ちょ、何す、…っ」 「どうせ覚えるならこっちの方がよく見るから良いっしょ。これてちゃっちゃと覚えて下さいよ」 「は!?何してくれてんのよ!手の甲じゃ落ちにくいでしょうがっ」 「いてっ」 殴られた。てか、こんな初めて見た。もっと大人しくて冷たい人かと思ってたけど、普通に乱暴な女じゃん。 殴られた場所を押さえてポカンと見つめていると、はハッと目を見開くと「ごめん」と頭を下げて逃げるようにその場を立ち去ろうとしたから俺は彼女を呼び止めた。 「なあ、」 「…え?」 「俺も覚えたんだから、アンタもマジで名前覚えてよね。先輩」 「…は、はいい!?」 分かりやすいくらい顔を赤くした「」は「ませガキっ」と悪態ついて、授業終了の鐘も鳴ってないのに屋上から出て行ってしまった。 (ま、覚えるまで確認しに行ってやるよ) もどる もくじ つぎ ---------- ちょっと仲良くなるっていうね。 そうだ、明日も学校休校になっちゃいました。 110318>>KAHO.A |