※一応これの続きである。


「誠に大変なことになりました」


先輩のそんな台詞に、俺と丸井先輩は同時に「は?」と首をかしげた。昼休みに突然屋上に呼び出されたと思えば一体何事だろうか。彼女は嫌に真顔で、俺達にもう一度同じ言葉を繰り返す。基本的に先輩はそこにいるだけで面倒なことをしでかす天才で、そんな彼女が大変だと言うのだからきっと今回のは大層ロクなことではないに違いない。呼び出されたということは巻き込まれるフラグが乱立ちしているわけだけれど、何としてもその事態は避けたいと思った。


「つうか、仁王は?」
「お昼は食べながら聞いてくれて構わないよ」
「はい聞いてなーい」


どうやら仁王先輩はここに呼ばれてはいないらしい。おかしなこともあるものだ。普段なら俺ではなく仁王先輩がここにいるはずだろうに。ともあれ、先輩に丸井先輩が、彼女が俺達をここに呼び出した理由の説明を促したので今更逃げるわけにも行かなく、俺は渋々その場に座り込んだ。


「そんで、なに」
「それがさー、ついこの間隣のクラスに転入生してきた帰国子女の男の子いるじゃんよ。その子とおしゃべりをしていたらわたし、カバディ部に入っていました」
「話飛躍しすぎじゃねええええ」
「いやあびっくり」
「俺もびっくりー!」
「意味わかんないッスけど」
「もっときちんと説明しろい」


そもそもうちにはカバディ部なんぞ存在したのかという感想からのスタートである。いや今そんなことは良いとして、どうやら彼女曰く、「好きなスポーツナンデスカ」みたいなことを言われて、ルールも何も知らないカバディの名を上げたというのだ。


「もうね、カバディの天才とは私だよと、大見得を切ってしまいまして」
大見得も良いとこッスよ
「そうして彼が出した入部届けにいつの間にか判子を押していました」
「何お前転入生の勧誘に引っかかってんのバッカじゃねえの。おかしいだろ普通逆だろ」
「大人の余裕を見せてやりたかった。私は悔しい」
俺はこんな友人恥ずかしいよおいいいい


だいたい大人の余裕って、それ全然大人じゃねえから、それただの後先考えてない馬鹿だから。ツッコミきれない程のボケを投下し始めた先輩には相変わらずついて行けそうにない。彼女はへらへら笑いながら「カバディとコーヒーって似てるからさあ」と言い訳らしいテンションで言葉を並べて行く。「だからなんだよ」「コーヒーには私は砂糖二杯だよ」もう意味がわからなかった。


「もうカバディはいい。それで、はカバディ部を抜けたいから俺達に協力を要請したと」
「そんなところである」
「…もうお前帰れよ」
「まあね、生徒会の権限で潰しに行こうとも思ったのですが」
「ちょっと待ってなになになになに」
「先輩、生徒会なの!?」
「え、ゆってませんでしたか」
「ゆってませんでしたが!?」


とんだ爆弾事実が発覚した。固まる俺の横で副会長だぞん、なんて先輩は苛立ちしか湧かないVサインとターンを決め込んでいる。あまりのうざさに張り倒したくなった。こんなのが副会長だなんて世も末である。
しかしどうやら同じく生徒会の柳先輩に叱られてカバディ部を潰すのは失敗したらしい。口をすぼめた先輩はそう語った。


「つうか素直に謝れよ」
「謝れたら生徒会はいらねえのよ!」
だから謝れよ。生徒会出番ねえよ
「いや、だからね、私は生徒会を使わない方法を考えたの」
「下らなかったら引っ叩くぞ」
「仁王に私に変装してもらってね、代わりに謝ってもらおうという。予定なら昼休みの今、彼はカバディ部に接触しているはずである」
「はい下らなーい」
「痛っ!」


先輩を引っ叩いた丸井先輩を横目に見てから、何だか展開が読めた気がした俺は、昼休みのグラウンドを屋上から見下ろした。流石にこの高さからでは校庭にいる人間を一人一人は判別できそうにない、か。もしかしたらカバディ部と先輩に変装した仁王先輩が見えるかと思ったが。諦めて二人に向き直る。丸井先輩は「つうかお前馬鹿だろ」と頭をおさえると、先輩をじとりと見上げていた。


「仁王は事を引っ掻き回すのが好きなんだぞ。お前それ、仁王に頼んで素直に謝ってもらえると思ってんのか」


とても正論だと思う。完全なる人選ミスであることに俺も頷いていると、その時俺の後ろにあった屋上の扉がいきなり開いて、俺はそのまま前に倒れこんだ。いてえええ。一体何事だと後ろを振り返れば、そこにいたのは珍しくいい笑顔の仁王先輩だ。片手には多分イリュージョンしたらしい先輩のカツラで。


「カバディめっちゃ楽しんできたぜよ」
「こんの、お前さあああだからさああああ」
「きっとここぞとばかりに運動神経の良さを発揮してきたにガリガリ君」
「…言わんこっちゃないッスね」



どうやら俺達は仁王先輩が失敗したとき用の補助要因だったらしいが、残念ながらもはや失敗とかそんなレベルではなくなってしまっていた。
まあどうでもいいけど。

俺は真っ青な空を見上げて、ああ今日もいい天気だと叫び散らす先輩の声をBGMに、そう朗らかに笑ったのであった。





カバディと副会長





( そんな日常 // 140119 )
ほぼ二年ぶりぐらいにこの話更新しました。いつかシリーズ化しても面白いかなあと思いつつリクエスト?があったので、続きを。

リク:カッコさん